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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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大捕物




闘技場から上がって来た俺たちをレイモンド達は拍手で迎えてくれた。アランは大金が儲かり、ホクホク顔だった。



「ありがとう、ランスを助け出してくれて」



ジェラルドに感謝を述べられ、少し気恥ずかしくなる。ランスも改めて俺に頭を下げる。



「失礼なことを言ってすみませんでした、レンさんのおかけで外に出ることが出来ました」



「当たり前のことをしただけだよ」



俺は謙遜する。どうも褒められるのに慣れていない。ジェラルドがレイモンドに言う。



「協力を感謝する、約束は果たそう」



ジェラルドはそう言って、ランスを連れて颯爽と歩いて行く。俺たちはその後に続いた。



向かう先には金色のスーツを着たゴルディが足を組んで座っていた。ジェラルドはゴルディの前まで来て、軽くお辞儀をした。



「ゴルディ氏、少しお時間を頂けますか?」



「これはこれは、ジェラルド卿、もちろんですとも、我がカジノは楽しんでくれてますかな?」



ジェラルドは愛想の良い笑みで答える。



「そうだね、品がなく、醜いカジノだ、けれど安心してくれ、今から楽しむつもりだ」



予想外な言葉に、ゴルディの目が肉食獣のように獰猛な光を宿す。ジェラルドは気にせずにランスを紹介した。



「以前、君の下で働いていた知人のランス君だ、覚えているかな?」



「知りませんな」



本心だろう。ゴルディは他人に興味がない。部下など顔も覚えていないだろう。



「君が金と奴隷とコネを利用し、違法な禁呪の実験を行なっていると耳にしてね」



「はて、何かの間違いでは?」



一切の動揺すらゴルディは見せない。



「このランス君は、ゴルディ氏の部屋からある物を持ち出した」



ゴルディに初めて焦燥が浮かんだ。ジェラルドはその反応に嬉しそうに笑う。



「もしかしたら君も探していたのではないかい? 」



ランスが懐から腕輪を取り出す。それはシンプルな銀の細い腕輪だった。



ゴルディは無表情でその腕輪を眺めていた。それは動揺を悟られないように必死になっているようにも見えた。



「ランス君の証言もあるからゴルディ氏、君を連行させてもらうよ、せっかく金庫の鍵を手に入れたのに、中身を移されては困るからね、その後、物的証拠を金庫の鍵となっているこの腕輪で手に入れればいい」



ジェラルドは憐れむような視線をゴルディに向ける。ゴルディに屈辱を与えるように嗜虐的な笑みを添えて。



「君の輝かしい生活はここで終わりだ、随分苦労させられたよ、闘技場は装備の持ち込み、持ち出しのチェックをしているからね、君も鍵を探しているだろうし、せっかく手に入れた鍵を失うリスクはかけられなかった、奴隷から解放されて出て行く時にノーチェックだったのは僥倖だったよ」



ゴルディは目を閉じ、そして長く息を吐き出した。先程までと違い、落ち着き払っている。



「……ジェラルド、お前ここがどこか分かってるのか? 俺の城だぞ、お前は俺の大切な鍵を手にしている、でもお前らがここで死ねば問題ない」



ダークスーツの男達に囲まれる。ゴルディが落ち着いていたのは、武力というカードを持っていたからだ。



「こいつらは俺が金で集めた精鋭中の精鋭だ、お前はやり過ぎた、それに詰めが甘い、ここでお前を殺し、鍵を返してもらえば俺の勝ちだ」



やれ、と一言ゴルディからかかり、一切にダークスーツの男達は武器を片手にジェラルドに襲いかかる。



ジェラルドはランスを下がらせ、にっこりと満面の笑みで笑った。ぞっとする迫力があった。



次の瞬間、ダークスーツ達は嘘のように吹き飛び始めた。速すぎて何が起こっているかほとんどの人間には分からないだろう。



数秒後、地面に横たわり動かない男達の中心で、汗一つかかず、ジェラルドだけが優雅に立っていた。



当然な結果だろう。ジェラルドは仲間にするのが難しいランキングで2位に位置している。1位は言わずと知れたソラリスだ。



そして、ジェラルドは全キャラ中、仲間にした時の初期レベルが最も高いキャラだと知られている。あのウォルフガングが仲間になる初期レベルよりも高い。



そのレベルは300を越えている。ステータス自体がとんでもなく高い。さすが実力重視のフリードリヒ家の当主だ。もはや自分で出場してたらグラッパーぐらい余裕だろう。



能力的にはリン救出に手伝って欲しいが、こいつは現段階では絶対に仲間にならない。それに性格が怖すぎる。



「もう満足かい? じゃあ一緒に行こうか」



ジェラルドが指を鳴らす。同時に今まで客だと思っていた者たちが、一斉に動き出し、ジェラルドの後ろに並んだ。ゴルディの取り巻きより遥かに多い。



「グランダル王国の騎士達だ、さあ話はゆっくりと道中聞こう」



「き、貴様! 殺してやる!」



ゴルディが怒りに駆られ、落ちている武器を拾いジェラルドに向かう。ジェラルドの姿が消え、ゴルディの巨体が空中に舞い上がる。



その下では足を垂直に振り上げたジェラルドの姿があった。離れた所にゴルディが落下する。泡を吹いて完全に気絶していた。ジェラルドは足を下ろし、乱れた衣服を整える。一々演出がかっこよすぎる。



「約束は果たしたよ、レイモンド君、後は任せる」



そう告げて、颯爽と部屋を出て行く。部活の騎士団たちは苦労してゴルディの巨体を運んでいった。



レイモンドは混乱する客や従業員に向けて、大声で宣言した。



「ゴルディは消えた! この街は生まれ変わる、この私、魔法協会筆頭レイモンドがこの場を取り仕切る」



反応は2つに分かれていた。ゴルディに虐げられていた者は歓喜し、ゴルディによって甘い蜜を吸っていた者は焦りを浮かべている。



こうして、ゴルディ追放イベントは終わった。











________________________



「あんまりだ! 苦労が水の泡だ! 酷すぎる!」



俺はカジノのロビーで絶叫していた。セキュリティーガードのロドリゲスに睨まれて、すぐに口を閉じる。



アランも不機嫌そうにイライラしていた。ストレスを解消するために、バニーガールをナンパしている。ストレスがあってもなくても、あまり行動は変わらないらしい。



あの後、レイモンドは組織の再編を行った。ゴルディの跡を継いで、このカジノはガルシアがトップとして、運営することになった。



今までもただゴルディは楽しむだけで、実務的な運営は全てガルシアが仕切っていたため、当然の人選だった。



ガルシアは手のひらを返したように謝罪とお礼を言ってきた。目の上のたん瘤だったゴルディがいなくなり、自分がトップになり、ご満悦なのだろう。



問題はレイモンドだ。あの男は奴隷の救済のために、あろうことか俺たちが手に入れた賞金のほとんどをそちらに使った。



まあゲームでのイベントと同じシナリオなんだが。それでも現実になった今は説得すれば何とかなると考えていた。しかし、レイモンドの頭の固さは俺の予想を遥かに上回った。



一応、俺たちもゲーム通りの報酬はもらったが、少なすぎる。これじゃ当初の予定のエクストラマナポーションを大量に手に入れることや、景品の片手剣を手に入れることが出来ない。



何のために時間を使ってゴルディ追放イベントをクリアしたのか分からない。もうクリアしてしまったから『無勝神話』も使えない。普通にカジノをしては絶対に勝てない。



俺は地面に手をついて項垂れた。このままでは計画が大幅に変更となる。今すぐ失敗を認めて、カジノには見切りをつけて、次のステップに進むのが得策だ。ここで俺は絶対に勝つことが出来ないのだから。















「ん……待てよ……」















俺の中で電流のようなものが走った。



絶望していても、俺の脳は無意識に成功への道を模索していた。そして、今、不可能という概念に隠された、1つの可能性が浮上した。



勝つ道がまだある。



なぜこんなことに気がつかなかったのだろう。完全に盲点だった。



まだ諦めるのは早い。このカジノで大金を稼ぐ必勝法が存在する。俺は立ち上がった。もう絶望など消え去っていた。既に俺の前には栄光への道(デイロード)が続いている。



俺はナンパしているアランに声をかけた。



「アラン、手伝ってくれ」



俺の言葉にアランはにやっと笑った。俺の表情を見て、何をするのか悟ったのだろう。



「いいぜ、今度は何をすればいいんだ?」



俺が今自分で作り上げた裏技だ。ゲーム時代にはなかった新しい勝ち方を俺は編み出した。



それはあまりに簡単で、初めからずっと俺の前にあった。ただ常識というフィルターで俺の目が曇っていただけだ。



さあ、必勝ギャンブルを始めよう。







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