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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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理由



「君はゴルディがいなくなった後、この街がどうなると思う? このカジノはもうエルドラドに深く結びついている、観光地としてサービス業が発展し、その職に就くものも多い、カジノがなくなれば路頭に迷うものも多いだろう」



ジェラルドがまるで試すように言う。レイモンドは逡巡して答える。



「ゴルディ追放後もカジノは継続させます、落ちるところまで落ちるシステムを意図してゴルディが作っていることが問題です、セーフティーネットが必要です」



「奴隷に堕ちた者を自己責任と考える者も多いだろう、事実、ゴルディがいなくてもギャンブルという性質上、自制心が働かない者も多い」



「ええ、だからこそ、それを止めるための制度を作ります、借金はさせません」



「借金は何も悪いものではない、貸主にとっては利子で利益を上げる投資であり、借主はその時の資金繰りができ、お互いに利益がある」



「だからこそ、査定の強化と統一が必要です、ギャンブルを原因とする借金は制限されるべきです」



「なるほど、その案には賛同しよう、ではまずはゴルディ氏にその策を提案してはどうかな?」



「彼が飲むとは思いません、飲むふりをしたとして理由をつけて実装はしないでしょう」



「だろうね、最後に確認だが、君はゴルディ氏に個人的な恨みがあり、行動しているのか?」



「いえ、私自身借金もしていません、ひとえに魔導の発展のために彼が邪魔だと考えたからです」



「なるほど、立派だね、どうやら私は君とは違うようだ」



そう言って、ジェラルドは立ち上がる。レイモンドは何か失態をしたかと焦りを浮かべた。



ジェラルドは遠くで、下品に笑うゴルディの顔を見て告げた。にっこりと満面の笑みで。



「私はね、品性がなく、優雅さをかけらも持ち合わせないあの男が個人的に嫌いだ、だから、潰そうと思う」



顔は笑っているが、背中が粟立つような迫力があった。



「私は自分の好きに生きるべきだと思っている、自分もそうしてきたし、息子達も好きにさせている、だからね、個人的に気に入らないっていう理由はどんな正論より動機となりうる」



息子達とは違う。この男は極めて利己的で、そして独善的だった。



「私はあの男が嫌いだ、見ていると苛立ちを覚える、だから彼を潰そうと思う、君たちも分かるだろう、毒がなく害がないのは知っていても、生理的に受け付けない害虫を駆除するのと同じだ」



レイモンドはジェラルドの冷たい声に、萎縮していた。ジェラルドはそんなレイモンドに気づき、表情を和らげて、微笑んだ。張り詰めていた空気が嘘のように霧散した。



「では君たちにも手伝ってもらおう、既に手は回していてね、ゴルディ氏を騎士団に引き渡す決定的な証拠は手に入れている、もちろん癒着だらけの魔法騎士団ではなく、私が連れてきているグランダル王国騎士団だがね」



ジェラルドは歩き出し、俺たちも後に続く。俺はアランが先程と違う赤いドレスの女から、強烈なビンタを食らっている場面を横目で見た。



ジェラルドは闘技場の観客席まで歩き、下を見下ろした。



「その証拠を手に入れたのは私の部下だ、ゴルディの下にスパイとして送り込んでいた、しかし、失敗して闘技場から出られない拳闘奴隷として働かされている、幸い証拠を掴んだことはゴルディにはバレていない、もしバレていたら奴隷どころか既に殺されているだろう」



闘技場にはオーナー登録をして、出場させた外部選手と、戦闘能力があり奴隷堕ちした拳闘奴隷がいる。



拳闘奴隷は勝ち上がって勝利することで、奴隷から解放されることができる。



「この闘技場にはタッグ制度がある、私も腕に自信がある部下を何回か出場させて、その部下とタッグを組ませたが、最後まで中々勝ち上がらない」



タッグ制度とは2人でチームを組んで戦うことだ。外部選手2名は組めず、拳闘奴隷と組むことになる。これは拳闘奴隷を助けたいというオーナーが選ぶ制度だ。



「だから、君たちの誰かが出場してくれないか? 私も痺れを切らしている、そろそろ自分で出場したいが、立場があってね」



「分かりました、その役目引き受けます」



レイモンドが力強く言った。ジェラルドはふっと力を抜いて笑い、手を差し出した。



「よろしく頼むよ」



2人は握手を交わす。これで裏カジノイベントは始まる。目的は闘技場に出場して、拳闘奴隷となってしまったジェラルドの部下を救い出すこと。



「私の部下の名前はランスという、あとの作戦は任せよう、期待しているよ」



ジェラルドはそう言って、離れていった。



「よし、では私が出場する、魔法の腕には自信があるからな」



「ちょっと待った!」



俺は慌てて止める。レイモンドが出場しても絶対に勝ち上がらない。



「俺が出場するから、絶対勝つから!俺に行かせて欲しい!」



レイモンドが怪訝そうな顔をする。



「まあ、いいだろう、もし君が勝てないなら私が出場しよう、オーナー登録はあの酔っ払いにしてもらおう」



そう言って、レイモンドは違う女をナンパしているアランの下へ歩いていった。



俺は安堵して、闘技場を見下ろす。そして、この闘技場のシステムを思い出す。



まずここでお金を稼ぐ方法は2種類ある。1つは勝利報酬。



ランクというものがあり、初めはランク1だ。1回勝つごとにランクが上がり、ランク3が最大である。



ランク1の試合は参加料が黒メダル100枚、つまり20万Gだ。そして勝利報酬が40万となる。つまり勝つことで20万稼ぐことができる。



ランク2は参加料が50万で報酬が100万。ランク3で参加料が100万で報酬が200万。



ランクは下がることはないので、連続の勝利ではなく、何回負けても1回どこかで勝てばランクが上がる。もちろん、負ければ毎回参加料は取られてしまう。



拳闘奴隷にもランクがあり、タッグ制度で勝てば拳闘奴隷のランクも1上がる。ランク3の試合で勝てば晴れて奴隷解放となる。



そして、もう一つの稼ぐ方法が観客としてベットすることだ。どっちが勝つかに賭け、当たればオッズの倍率分の払い戻しがある。ただし一回の賭け金は上限があり、100万までとなる。



ランク1の試合でオッズは、こちらの選手と敵ともに1.5から2.0程度。ランク2でこちらが2.0から2.5、敵が1.2から1.8程度。ランク3でこちらが2.5から3.0、敵が1.0から1.5程度となる。



ランクが上がる程、勝つのが難しくなることで、こちらのオッズが上がって行く。勝つ自信があれば、自分の選手にベットすることで大きく稼ぐことができる。



ランク3で自分の選手にベットすれば、優勝報酬と参加費の差額の100万と払い戻し3.0倍で300万、合計400万を最大で手に入れることができる。ちなみにオーナー自身が選手として出場する時はベットをすることができない。



しかし、LOLは甘くない。ランク1とランク2はランダムで敵が決まり、レベルが低い相手のときもある。けれど、ランク3は違う。



必ずあるキャラクターが相手に選ばれる。処刑人グラッパー。黒い覆面をし、巨大な鉈を持つ筋骨隆々の男だ。



これがとんでもなく強い。ランク1とランク2がお遊びに思える。最大HPが高く、攻撃力も高い。鉈による攻撃は、物理特化のキャラでレベル150以上ないと耐えきれない。魔法使いキャラなどでは200を越えても一撃死する。



さらにこれだけ脳筋っぽい見た目なのに、魔法も強い。闇属性の中級を使用でき、魔法防御も高く、【闇属性無効】のスキルや、光属性以外のダメージ半減スキルを有している。



レイモンドが勝てない理由だ。魔法使いキャラとは相性が悪すぎる。特にレイモンドは光魔法を使えないから致命的だ。



このゴルディ追放イベントはかなりの無理ゲーとなる。オーナーは1人しか出場させられないので、ランスと仲間の1人を出場させるが、それではランク3のグラッパーを絶対に倒せない。



仲間を選手として参加させると、装備やアイテムは渡せるが、こちらで操作することはもちろん出来ない。結局、グラッパーを倒すためには英雄のテクニックを持つ自分が出場するしかない。



一度でもランク3で負けてしまえば、参加料が大きな出費となる。もし参加料が払えなくなれば、このイベントはクリア不可能となってしまう。だから、俺は英雄の知識を使って、一度で勝利する予定だ。



勝つこと自体は問題ない。しかし、俺には1つの迷いがあった。ここであの裏技を使うべきかどうかだ。



オーシャンズ15はカジノで儲ける方法を発見している。それは先ほどのレイモンドのゴルディチャレンジではない。あれはイベントの進行で勝てるようになっているし、勝った賞金はゴールドライセンスやゴルディ追放イベントで勝手に使われてしまう。



俺たちはそんなものを勝利と呼ばない。勝利とはゲーム作成者の悪意に打ち勝ち、予想もしていなかった道筋を見つけることだ。それが俺たち英雄の誇り。



オーシャンズ15が発見した、LOLカジノ唯一の穴、大金を稼ぐ方法がこの裏カジノには存在する。





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