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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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ゴルディチャレンジ



このゲーム、よく考えると分かるが自分の選択で勝利することはない。勝つためにはカード交換で合計値が一致するか、ディーラーがコールしての数字一致が必要になる。



そして、このゲームで使われるカードには魔法が仕込まれており、ガルシアのメガネを通して見るとカードの背面が透けて数字が分かるようになっている。



つまりガルシアは合計値を知っているので、絶対にコールを失敗することがない。



また山の1番上にあるカードも見えているので、カード交換による一致を防ぐことも出来る。



例えば、プレイヤーが4と6と7を持っていて、山の一番上が2だったら、4+6+7の17と、2+6+7の15と、2+4+7の13と、2+4+6の12を避けてコールすれば負けることがない。



これが絶対に勝てない理由だ。けれど、レイモンドがいれば違う。魔法協会筆頭レイモンドは魔法のプロフェッショナルだ。このカードの魔法を妨害し、見えなくすることが出来る。



そうすれば、ガルシアを同じ土俵に引きずり込むことができる。



既にレイモンドには作戦を伝えてある。あとは実行するだけだ。



俺たちは一番奥のゴルディチャレンジのテーブルに向かい、ボーイにプレイすることを伝え、参加料を払う。



参加料のメダルはレイモンドがほとんど出資してくれた。立場が高いので、それなりの収入はあると思うが、それでもかなりの出費なはず。それほどまでにゴルディを追放したいのだろう。



ボーイが姿を消し、しばらくして支配人ガルシアが現れる。オールバックにメガネ、ニコニコと営業スマイルを浮かべているが、どこか狡猾なトカゲを思わせる。



「この度は当カジノの目玉、ゴルディチャレンジに挑戦頂き、ありがとうございます、ディーラーを務めます、ガルシアです」



丁寧にお辞儀をして、テーブルに案内する。レイモンドが椅子に座り、俺とアランは後ろで見物だ。



ガルシアは一通りルールを説明した。



「何か質問はありますか?」



「いや、大丈夫だ、始めてくれ」



「承知いたしました、それではお楽しみください」



ゲームが開始される。まだ魔法の妨害はしていない。こちらの切り札を初めから見せれば、効果が弱いし、何より相手が勝負を受け付けてくれない可能性がある。



手札が配られる。俺たちの周りにはいつのまにか多数の見物人がいた。ゴルディチャレンジが始まると他のギャンブルをしていた者達が集まってくる。



失敗をして絶望する姿が見たい者、成功してカジノ側が損をするのを見たい者、いろいろな野次馬達が勝負に注目する。



これで良い。これで途中で魔法が妨害されても、ガルシアは有耶無耶にして逃げることができなくなる。



勝負は開始される。初めに配られたカードは1と4と5だ。合計値10。初めのコールで勝つこと出来ない。



ガルシアがカードを一枚交換する。



「4にしましょう」



25から4減り、魔水晶が21になる。次にこちらのターン。レイモンドは1を捨てて、9のカードを引く。合計値18。



これでガルシアのカードは、2、3、6、7、8から3枚と分かる。組み合わせは10通り。合計値の可能性は、8通り。19と20になる組み合わせは存在しない。



学校の数学は好きではなかったが、何故か俺はゲームが絡むと計算がめっぽう強い。



レイモンドも知能指数は高いので、これぐらいの計算はしてくれる。これがアランだったら、何も考えず勘を頼りに適当にコールするだろう。



「2だ」



魔水晶の合計値が19になる。これで絶対に当たらない。今レイモンドが捨てた1を含めても、19になる組み合わせは存在しない。



まあ当たっても今は問題ない。ガルシアは絶対に負けない自信があるので、場を盛り上げることを優先する。



1ターン目にディーラーが上がって、呆気なく終わりにはしない。もし合計値が当たっていても、黙っている。そして、良い勝負を演出して、惜しかった、次なら勝てるかもと挑戦者に思わせる。また周囲の観客に俺なら勝てるかもしれないと錯覚させる。



ガルシアはカードを交換する。そして、コールしようとした。そろそろ頃合いだ。レイモンドが行動を開始する。



「ガルシア支配人、実は私は魔法の専門家なんだよ」



レイモンドが行動を開始する。ガルシアは温和な表情のまま受け答える。



「存じております、あなたは魔法協会の求心的な存在です」



「ああ、そうだ、私は魔法にこだわりが強くてね、魔法の悪用などが許せないんだよ」



ガルシアの表情が曇る。明らかな警戒心が生まれる。レイモンドは畳み掛けるように言った。観客の前で暴露なんてしない。魔法を解除して証拠がないと言い逃れをするからだ。



「ただの世間話だよ、特に気にしないでくれ」



そう言って、指をテーブルの上でトントンと2回叩いた。



その瞬間、ガルシアは明らかに動揺した。魔法が妨害され、カードの数字が見えなくなったのだ。



「どうかしたのか?」



レイモンドがわざとらしく尋ねる。ガルシアはもちろん文句なんて言えない。言ってしまえばイカサマをしていたことを認めることになる。



「いいえ、何でもありません」



これでガルシアは同じ土俵に登った。今のレイモンドの手札は覚えているが、次にレイモンドが交換するカードは予想出来ない。



ガルシアは追い込まれている。もしゴルディチャレンジでヤラセではない本物の成功者を出してしまえば、カジノは大きな損失となる。



そうなれば、ゴルディが黙っていない。ガルシアに責任を取らせるだろう。だからガルシアは震えていた。先ほどまで安全なところから蔑んでいたのが、今はむしろ狩られる側だ。



普通に行えば、流れて引き分けになる可能性が高いゲームだ。しかし、万に一つも負けられないガルシアは慎重にならざるを得ない。



しかし、決してこちらが有利になってはいない。ゲームでもガルシアのイカサマを封じた後、自力でゲームに勝たなくてはならなかった。



これがまた難題で、やはり流れて引き分けになる可能性が高い。そして、一度負ければ次からゴルディチャレンジを受けてくれなくなり、ゴルディ追放イベントはクリア不可能になる。



しかも、このカジノはギャンブルの結果が出た瞬間に、オートセーブされる安心設計。運悪く負けてしまえば、ゴルディ追放は不可能になる。



だから、ゲームでは最後の結果が出る前に、負けそうだったらオートセーブされる前にリセットし、早い段階で上がれるまで何度もやり直しをしてクリアしていた。



やり直しが効かない現実では、ここで勝つしかない。



「4です」



ガルシアのコールで魔水晶の数字が15になる。今のレイモンドの手札は知っているので、絶対に当たらない数字を選べたのだろう。



レイモンドは手札をテーブル下に隠してシャッフルし、どのカードを捨てたか分からないようにして、カードを交換する。



9を捨てて、新しいカードを引き入れる。そして、すかさずコールする。



「1だ」



レイモンドのコールで魔水晶が14になる。ガルシアはカードを交換し、必死で計算を行った。そして、計算の結果、躊躇いがちに口を開いた。



「……提案があります」



周りに聞こえないように小声でガルシアが言う。苦渋の表情だ。今からコールする全ての数字が出来るパターンだったのだろう。



「あなた達に私が個人的にお金を払います、もしこのまま続ければ、あなた達は負ける可能性もある、これで手を打ちませんか?」




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