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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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裏世界の帝王




俺たちは地竜を近くの竜舎に預けて、岸辺にある移動用魔法陣に向かう。空中に浮いているエルドラドに入るためには、この移動用魔法陣を使い、中に転移しなければならない。



青い魔法陣の中に入る。かなり大きく、盗賊団全員が入っても問題ない。



中央の水晶に触れ、魔法陣を発動させる。白い光を発していた魔法陣は赤く染まる。



俺は少し違和感を感じた。確か移動用の転移魔法陣の光は青だった気がする。細かいことだから、そんなに意識していないが、赤ではなかったと思う。



そして、転移が発動し、景色が変わる。壁が黒い部屋の中央に俺たちは移動していた。薄暗く、空気が淀んでいる。



明らかに異常事態だった。ゲームではエルドラドの中央広場にある転移ゲートに移動するはずだ。少なくともこんな不穏な場所じゃない。



薄暗い空間が急激に明るくなった。俺は訳が分からず辺りを見回す。正方形の広い部屋だ。壁が光っている。



「43番」



アランが急に声を上げる。その瞬間、部下たちは統一の意思を持って動き出す。まるで集団が一つの生き物であるかのように完璧な統率だった。



瞬く間に外側の部下たちが壁のようにアランを中心に取り囲み、同時展開で【マジックバリア】を展開する。



円形に緑色のマジックバリアの壁が出来る。間髪を入れず、360度全方位の壁から同時に魔法が発動され、無数の光線が俺たちを襲う。壁が光っていたのは無数の魔法陣の光だった。



円の内側にいる、マジックバリアを使えない部下達の行動は二種類に分かれていた。一つはマナポーションで壁役を回復させ続ける。もう一つは【マジックガードアップ】や【ハイマジックガードアップ】の魔法で、壁役の魔法防御を上げて援護している。



やがて、魔法の攻撃は終わり、部屋はまた薄暗くなった。



「おい、ドビー、てめぇ、俺に言うことがあるだろ」



「ひっ、すみませんボス! 最初の1秒、76番の動きと間違えました!」



「ちゃんと頭に入れとけ、次に間違えたら殺すぞ!」



「二度と間違えないです! すみません!」



俺は驚いていた。連携が良いとは思っていたが、ここまでだとは思わなかった。もはや軍隊と言って良い。



特にアランの判断能力がずば抜けている。俺でさえ、何が起こっているのか分からなかったのに、あの一瞬で魔法攻撃されることを予想して、指示を出した。



酔っ払いの穀潰しかと思いきや、戦闘に関してはやはり尋常ではないセンスがある。アランを味方に出来たのは幸運だった。



そして、何の疑いもなく、その指示に従った部下達も優秀だ。彼等はきっと状況を理解していなかった。それにも関わらず、アランの一言ですぐに行動を起こした。アランに絶対的な信頼がないと出来ない芸当だ。




それにしても、何故このような事態が生じたのだろうか。ゲームでもこんなことは起こらなかった。



俺の疑問はアランの一言で全て解決された。



「そうか、俺、指名手配されてたんだ」



俺は頭を抱えた。愚かだった。何を堂々と入り口から侵入しようとしていたんだ。アランは騎士団に、指名手配されており、つい先程もエルドラドの騎士たちを返り討ちにしていた。



そんな犯罪者と共に堂々と正面突破する馬鹿がどこにいる。そう、ここにいる。



完全にゲーム脳だった。現実になったことでの変化を意識出来ていなかった。



恐らく、あの魔法陣は登録されている犯罪者の場合、この牢獄のような所に転移先を変更する仕組みなのだろう。



俺はすぐに辺りを確認した。部屋の入り口は一つだけであり、鉄格子で塞がれている。鍵穴がなく、魔法による鍵だと分かった。つまり『ドッペルピッキング』で解錠することが出来ない。



これはまずい。俺が恐れているのは時間を無駄にすることだ。ここで拘留されて時間をロスすれば、それは致命的な影響を及ぼす。



初めにここの鍵を開ける人物を襲い、脱獄するのが最善だろう。まるで犯罪者の思考だ。しかし、その後、カジノには行かないといけない。果たして、逃亡しておいて呑気にギャンブルなんて出来るだろうか。



俺は上手く進まない現実に頭を抱えた。予想が出来ないことばかりが起こる。



アランは壁際に座り、持ってきた酒を飲んでいた。特に焦った雰囲気はない。成るように成ると思っているのだろう。



外から何か騒がしい音が聞こえてくる。きっとこの犯罪者用転移魔法陣が発動したことを知り、騎士団が駆けつけているのだろう。



ぞろぞろとエルドラドの魔法騎士団の緑色の鎧を纏った者達が現れる。



そして、先頭に立つ男を見て、俺は行動を決めた。



「これはこれは、上物が捕まったようだ、あの程度の魔法攻撃では死なないか」



低い声が響く。その男が魔導師の中でも格式の高そうなローブを纏い、手には先端に宝玉のついたロッドを持っていた。



小麦色の肌に理知的な目、地球で言うラテン系のインテリスキンヘッドという外見だ。



「お、レイモンドじゃねぇか、久しぶりだな」



アランが嬉しそうに立ち上がって声をかける。



そう、この男が魔法協会筆頭レイモンド。優秀な魔法使いであり、精霊魔法を覚えられる1人でもある。



責任感が強く、清廉潔白であり、聡明な人物だ。そして、俺がこのエルドラドで真っ先に会いに行く予定だった男。こちらから探す手間が省けた。



「レイモンド! 頼む! ここから出してくれ」



アランは何の躊躇いもなく、頼み始める。レイモンドは呆れた表情をした。



「そんな要求が通ると思っているのか? お前は指名手配犯の賞金首だ、無理だな」



「ちっ、下手に頼んでやってるのによ、じゃあ、いいさ、さっさと俺を連れてけよ」



「その手には乗らない、鍵を開ければ君やその部下たちが襲いかかってくることはわかり切っている、全盛期ほど強さがないにしても、君に接近戦では勝てない、まあ遠距離の魔法戦なら私の圧勝だろうがね」



俺は意を決して、レイモンドに話しかけた。



「魔法協会筆頭レイモンド、俺はレンと言います、あなたに良い話がある」



それまでアランと話していたレイモンドの目が俺に向けられる。明らかな猜疑心が伺えた。



「悪いが犯罪者と交渉する気はない」



取り付く島もなく、拒否される。しかし、俺には切り札があった。



「俺はゴルディをこの街から追放できる」



レイモンドに明らかな動揺が走った。彼はこれで俺を無視できなくなる。



カジノ王ゴルディ。このエルドラドの裏の支配者だ。



エルドラドは魔法協会総帥レスターシアがトップとして政治を行なっている。



ゴルディは民間のカジノ運営会社の社長に過ぎない。しかし、内実は違う。賭博を牛耳ることでゴルディは多くの人間に借金を貸し与えている。



魔法協会内部にも借金が膨らんでいるものも多く、彼らは実質ゴルディの駒として動く。



研究者や魔法使いをギャンブル漬けにして、金を巻き上げ、借金を理由に操り、破産した人間は奴隷として売り飛ばす。



華やかなカジノ街にある高い塀の向こうには、生きる希望を失った者たちの貧困街が隠されている。



ゴルディは金の力で、この街を自分のものとしている。まさに裏世界の帝王だ。



「君にはあの怪物を倒す策があるのか?」



レイモンドはゴルディを怪物と呼ぶ。それだけゴルディの力は強い。金の力による絶対的支配力を彼は手にしている。



そして、レイモンドはゴルディを憎んでいる。純粋に魔法の研究をする学問都市としてのエルドラドを望んでいる。



「ああ、俺には策がある、ゴルディを倒せる」



大丈夫。必ずレイモンドは乗ってくる。なぜなら、これはゲームのイベントにあるからだ。レイモンドと協力してゴルディを街から追放するというイベントだ。



そもそも、アランはそのままではカジノに出入り出来ない。だから、協力者が必要だった。



それがレイモンドだ。彼ならゴルディ追放イベントを利用すれば、協力してくれる。地位も権力もあるレイモンドは協力者として理想的だ。



それにギャンブルで大勝するためには、このゴルディ追放イベントを利用するしかない。



「話を聞こう、ゴルディはこの街の癌だ、私は昔のエルドラドを取り戻したい、ソラリス様がいなくなってから、この街は変わってしまった」



今の魔法協会総帥レスターシアは決して無能な人物ではない。しかし、先代の総帥ソラリスと比べられると魔法の能力も政治力もかなり劣っている。



ソラリスがトップにいる限り、ゴルディのような人間はこの街で自由に出来なかっただろう。



今では、魔法協会の研究費のメインがゴルディからの援助なので、レスターシアはゴルディに頭が上がらない。



「アラン、勝つためにはレイモンドの力が必要だ、納得してくれ」



俺はアランに釘を刺す。ここでレイモンドと仲違いされる訳にはいかない。



「ふん、まあ俺は大金が手に入るなら何でもいいぜ」



俺はレイモンドに向き直り、鉄格子の隙間から右手を差し出した。



「レイモンド、一緒にカジノをぶっ潰そう」



イベントの調整力のおかげか、レイモンドは俺の手を取ってくれた。



「まだ信用はしていない、だが、ゴルディを追放できるというなら手を貸そう、エルドラドのために」



これで条件は揃った。さあ、欲望の渦巻くギャンブルへと洒落込もう。





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