魔法都市へ
俺たちは地竜で疾走する。まるで暴走族のように盗賊団達が草原を走り抜ける。
途中モンスターが現れても、モヒカン達が一瞬で倒すので、俺はただ景色を眺めながらリュウに乗るだけだった。
日が暮れてきた所で野営をすることになる。その準備も下っ端達が率先して手際よく準備するので、俺は何もしなくて良かった。外見が強面の集団なのに、統率が取れており、やはり有能だった。
食事も慣れた手つきで分担し、宴会の準備を進める。アランだけは上座で先にグビグビ酒を飲み、準備が遅いと当たり散らしていた。
宴会が始まる。盗賊団達は皆身内には優しいらしく、意外に気さくに俺に話かけてくれた。
「ボスは本当に最高なんっすよ」
下っ端達は口を揃えて、アランのことを自慢してくる。それは言わされているのではなく、本心からの言葉だと俺は感じた。
粗暴で理不尽で利己的で、そんな性格ではあるか、部下は彼を心から慕っていた。
「ボスは俺たちに生きる場所をくれたんっす、ボスがいなけりゃ俺はのたれ死んでた、こいつらともダチになれなかったっす」
若いモヒカンがそう言った。アランは生きる場所を失った者達を盗賊団に誘い、家族として迎えいれているようだ。
「ボスは誰かに気に入られようとか、部下に好かれようとかそんな考えは全くないっす、暴力だって振るうし、理不尽に怒られるし、けど、どこまでも真っ直ぐなんすよ、誰にも気をつかわない素の姿が魅力的なんっす」
がたいの良いスキンヘッドが話に割り込んでくる。
「俺だってボスのこと愛してるぜ、これを見ろ!、これが俺のバイブルだ!」
スキンヘッドの手には、ノートが握られている。タイトルは『ボスの素晴らしい名言辞典』だ。
俺はそれを受け取り、ページをめくった。そこには大きな字で数々の名言が綴られていた。
「強さこそが全てだ、力があれば全て許される」
強さがあれば例え犯罪を犯しても捕まらない。ボスは実際に犯罪をしても捕まえにくる騎士団を逆に返り討ちにするので法で裁かれることがない。
「未来なんてよく分からねぇ、明日急に死ぬかもしれねぇ、だから、今が良けりゃそれで良い」
未来に何が起こるか分からないから、今を楽しむべき。貯金は論外で借金は今が楽しくなるから推奨すべき、宵越しの銭は持たず、今を楽しみ豪遊し、賭けたいところにオールイン。
「人に頼みごとをするときは、1に誠意、2に賄賂、3に脅迫、4に武力行使、これが交渉の基本だ」
人に頼みごとをしたいときは、まずは誠意を見せて頼むべき、もし断られたら金を握らせる、それでも断られる、または渡す金がなければ、大切なものを人質にして脅迫、それでもダメだったら監禁して言うことを聞くまで痛めつける、これで交渉は成立する。
俺はそっとノートを閉じた。
「どうだ!数々の心に沁みる名言、感動するだろ!」
スキンヘッドはそう言ってバイブルを抱きしめる。周りからは、それ俺にも書いてくれ、出版したらベストセラー間違いなしだぜ、みたいな声がいくつもあがる。アウトローからのアランの人気はかなり高いらしい。
「ボスは俺たちがこの世界で生きていけるように訓練してくれるんだ、特に機嫌が悪い時は、シバキっていうトレーニングをしてくれる、おかげで俺たちはここまで強くなれた」
それはただの八つ当たりだと思うが、本人達が満足しているから何も言わないでおこう。アランが訓練していることで、この異常な強さの盗賊団が出来上がっている。確かにこの難易度の高い世界でモンスターを倒しながら、フィールドを自由に動くには強さが必要だ。
俺は酒を飲んで豪快に笑うアランを見た。自堕落で決して褒められた性格ではないが、それでも部下からの信頼が厚いアランを少し見直した。
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翌朝、俺たちは再び出発した。俺はひどく頭が痛く、コンディションは最悪だった。そろそろ学習した方が良い。
俺は走りながら今後のスケジュールを確認する。
まずはエルドラドでギャンブルをしないといけない。これはアランのためでもあるが、俺の計画にはMPを100%回復させるエクストラマナポーションを大量に手に入れる必要がある。
エクストラマナポーションは店で売っていない。別にマナポーションを大量に購入しても良いが、全回復させるために何度も使う必要がある。やはり効率を考えればエクストラマナポーションが欲しい。これはカジノの景品で手に入る。
それにカジノの景品の武器も必要だ。今はダイダロスだが、ゲームで俺は二刀流だった。グラディエーターのスキル、『二刀の心得』を手に入れているので、俺は片手剣二刀流を使いこなせる。
その候補となる一本がカジノの景品にある。かなり高額だが必要なものだ。
だから、俺は勝負師にならないといけない。運命すら捻じ曲げて勝たないといけない。
黄金都市エルドラド、そのカジノは豪華な景品を見せびらかしながら、手に入れることが不可能なほど万に一つの勝ち目もない無理ゲーギャンブルを強いる。
俺たち英雄の中で、カジノの解析を行う班があった。その名もオーシャンズ15。某洋画からの命名だ。15人の英雄がカジノに入り浸り、その秘密を全て解析した。ちなみに俺もそのメンバーの1人だ。
まずはスロット。5つのレールがあり、完全に運の要素しかない。15人で1人50000回まわして、15万回転のデータを取った。
一日7時間かけて8000回転くらいなので、約一週間、ひたすらスロットを回し続け、出た目を記録し続けるという不毛な挑戦を行った。
結果、ジャックポットの7の5つ揃いは一度も出なかった。それどころか、7の4つ揃い、3つ揃いさえ、出なかった。
ギャンブルには還元率という概念がある。入れたお金のいくらが、手元に戻ってくるかという割合だ。得られた金額÷投入した金額でパーセンテージを求める。
15万回転した結果、22%という驚愕の数字が現れた。カジノなので、胴元が儲かるのは分かる。日本の宝くじで50%、競馬競艇などで75%、パチンコで85%、その中でLOLのスロットは22%だ。
10000G使ったら平均で、2200Gまで減る。もはや客を勝たせる気が全くないと言っていい。
次にポーカーだ。LOLのポーカーは1度だけ交換可能で、その役によりベッドした資金に倍率がかけられる。
一度勝てば、ダブルアップが可能で、ハイアンドローを当てることで2倍にしていくことができる。
これもオーシャンズ15のメンバーがひたすら解析を行った。選択するカードによって確率変動するため、データを取りづらいので、まずは初手での役の出る確率を集計した。
この集計結果で俺たちは隠されたシステムを導き出した。
ベットする金額が低ければ、現実の同じ確率で役が現れた。しかし、賭ける金額が10000Gを超え始めると途端に揃わなくなり、確率が大幅に減った。良くてツーペア、ほとんどがブタ。
更にタブルアップもひどいものだ。3回目からはほとんど成功しなくなる。例えば4が出てハイを選べば、必ずAか2か3が現れ、ローを選べば必ずそれより高いカードが出る。最強カードのジョーカーだったとしても、3回目は次のガードもジョーカーでドローになる。
他の種目も似たようなものだ。確率さえ捻じ曲げてプレイヤーを敗北へと誘う。しかし、俺たちオーシャンズ15はその中で勝つ道を見つけ出した。
俺は勝つためのシミュレーションを行いながら、走り続けた。その後のレベリングのことも一通り考え、今後の方針を固めた。
日が沈み始めたころ、前方から声が聞こえた。
「エルドラドが見えたぞ!」
小高い丘を越え、俺の目にもその光景が映った。巨大な湖だった。その水面には湖を覆うような魔法陣があり、エルドラドはその上に浮遊していた。
ゲームでは見ていたが、現実となるとその光景は圧巻だった。その巨大な都市は島がそのまま切り取られて宙に浮かんでいるように見えた。
辺りが暗くなり、美しい夜景が見える。それは小綺麗なものではなく、眠らない街の派手で色とりどりのひかりだった。
上空では無数の魔法陣が美しい装飾のように煌めいている。
俺は魔法都市エルドラドに到着した。