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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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喧嘩の仲裁



アジトの外に出るとそこは戦場だった。モヒカンやスキンヘッドの荒くれ達が戦っている。意外に洗練された連携で戦闘しているが、中央にいる1人を攻めきれていない。



その1人は白銀の鎧を纏い、青いマントを翻しながら戦っていた。手には美しい装飾のされた大盾が握られている。華麗な動きで盗賊たちの攻撃を受け流し、片手剣で切りつける。



長い銀色の髪から、キラキラと光が舞っているように錯覚する。きめ細かい白い肌に、作り物のように整ったパーツ。まるでおとぎ話の王子のようなイケメンだ。



俺はそいつをよく知っていた。宗教都市ゼーラの神殿騎士団長、白騎士ヒースクリフ。



「おうおう、にいちゃん、随分と暴れてくれたな」



アランが指をポキポキ鳴らして、メンチを切る。小物臭がすごい。



「悪は裁かなければならないからね」



美男子と野獣の戦いが始まる。アランは獰猛な唸り声を上げて一気に踏み込み、そして盛大にこけた。



顔面から地面にぶつかる。



一瞬、空気が凍った。ヒースクリフでさえ、攻撃して良いのか分からず、固まっている。



アランはゆっくりと起き上がる。鼻血が出ていた。



「てめぇ、よくもやりやがったな」



いや、自分でコケただけだよね!と全員が心の中で突っ込む。ヒースクリフも顔が引きつっていた。



「おりゃ!」



粗暴な掛け声で、アランは剣を抜いて斬りかかる。ここでヒースクリフは気付いた。相手の本当の力量に。



研ぎ澄まされた高速の斬撃。反応して盾で受けるが、力で押し切られ、吹き飛ばされる。



ヒースクリフは空中で身体を回転させ、バランスを整えて着地しようとする。その瞬間、足が地面に着く前にアランからの追撃が来た。



空中でその剣を再度受けようとする。アランはにっと笑って剣を引き、ヒースクリフの腹に強烈なヤクザキックを放った。剣をフェイントにし、蹴りを入れたのだ。



再度、ヒースクリフ吹き飛ばされ、今度は立て直す余裕もなく、地面に転がった。



「どうだ?ああ?ちょっとは効いたか?にいちゃん」



ヒースクリフはゆっくりと立ち上がる。体が白い光で包まれ、自動的に回復していく。



彼はとにかく持久戦に強い。防御力、魔法防御、HPが高く。【マジックバリア】や【フィジカルリフレクション】、【ハイガードアップ】などの魔法に、各種回復魔法も揃えている。ユニークスキル『神の慈悲』はHPが少しでも減れば、常に発動を続けるオートリジェネ、つまりHPが自動的にじわじわ回復し続ける。持久力特化の優秀な盾役の1人だ。



俺はどうするべきか困っていた。正直、アランは強いが、俺の見立てだとヒースクリフを倒すには、かなり長い時間がかかることが予期される。



俺は悠長に待つことは出来ない。かと言って、ヒースクリフを説得することも難しい。



こいつは弟とは違って、とてつもなく真面目で頭が硬く、融通が効かない。弟のようにチャラい、女好きなナルシストイケメンもムカつくが、兄も俺が苦手なタイプだ。



自分が正しいと疑わず、人にも自分の正しさを押し付ける。それが100%の善意であるから、余計タチが悪い。ヒースクリフはそうゆう男だ。どちらかと言うと俺は弟の方がまだ人間味があって好きかもしれない。



2人は更に戦いを続ける。やはりアランの方が数段上の印象を受ける。攻撃も一方的だ。それでもヒースクリフの守りを崩せない。防御の一点において、ヒースクリフはアランを凌駕している。



アランはとにかく攻撃が雑に見える。しかし、腐っても魔王を封印した世界を救った男だ。型や流派などを無視した相手を殺すためだけを追求した荒々しくも理に適った戦闘スタイルだ。



俺はそこで気がついた。今思うと、他のやられて倒れている騎士団の服装がエルドラドの魔法騎士団のものだ。確かゲームでのイベントでも魔法騎士団が攻め込んでくるはず。



しかし、ヒースクリフの所属はゼーラの神殿騎士団。白銀の装備をした取り巻きは、離れたところでヒースクリフの戦闘を眺めている。



ヒースクリフという本来、ゲームではなかった乱入者の理由が分かった。これは偶然が重なって起こった。



アラン達は各地に多くのアジトがあり、遭遇はランダムで運が絡む。しかし、ヒースクリフはそうではない。



今回はヒースクリフの移動経路に偶々、ランダムの盗賊団が被ったことが原因だ。盗賊団のアジトを急襲する騎士団を見かけ、ヒースクリフがその余計な正義感で助太刀でも申し出たのだろう。本当に迷惑な奴だ。



俺はこの場を収める方法を思いついた。



「戦いをやめろ、少し話を聞いてくれ」



俺が声を張り上げる。ヒースクリフは相手と距離を取り、こちらに目を向けた。



「隙あり!」



アランは俺のことを無視し、隙が出来たとばかりにヒースクリフを攻撃する。本当に精神年齢が子供から成長していない。



俺は地面を蹴り、アランを止めようと接近する。アランは容赦なく邪魔だと怒鳴り、攻撃をしてくるが容易に回避してみせる。そこから攻撃対象が俺に変わり、激しい攻撃を繰り出すが、全て余裕で回避する。



アランは少し息切れし、やっと落ち着いた。



「てめぇ、やっぱり何者だ? こんなに当たらないなんておかしいだろ」



話が出来る状態になったので、ヒースクリフに向き直る。アランは一旦無視でいい。



「はじめまして、神殿騎士団長ヒースクリフ、俺は白だ、これで分かるだろ?」



ヒースクリフの目つきが鋭くなる。白というのはゼーラ教の秘密諜報員の総称だ。その存在自体が隠匿されている。ゼーラ教は宗教団体であるが、内実政治などにも絡み、武力と情報力を持っている。



俺はヒースクリフに信用されるために、続ける。



「こちらはコーネロ様の勅命だ、ヒースクリフは悪魔の穢れの対処だろ」



大神官コーネロの名前が出たことで、明らかにヒースクリフは動揺した。コーネロはゼーラ教の影の支配者だ。教皇などもいるが、コーネロの傀儡に過ぎない。



コーネロは賢く、したたかな男だ。汚い手も必要とあらば、躊躇いなく行使する。しかし、それは自己の利益のためではなく、常にゼーラ教のために行われる。



ヒースクリフは神殿騎士団長という立場だ。白の存在もコーネロのこともよく知っているだろう。



更に、ヒースクリフがこの地域に来る理由はゲームのイベントと照らし合わせて把握している。その情報を俺が知っていることで一気に説得力が増す。



「なるほど、しかし、なぜ盗賊団に?」



ヒースクリフは俺が白だと信用したようだ。俺なら疑い続けるが、彼は基本的に性善説を信じている。自分が嘘をつくことを忌避するから、他の人も同じだという平和なことを本気で思っている。



「それは言えない、分かるだろ?」



正直、理由とか全く考えてない。取り敢えず白って言って誤魔化せば何とかなる、という見切り発車だ。



「そうだな、簡単に任務内容は言えないよな、悪かった、……そうか、この辺りと考えると、ああ、例の件か、なるほど、それなら納得だ、そうゆうことだろ?」



「ああ、そうゆうことだ」



どうゆうことだよ、と心の中で突っ込む。ヒースクリフは勝手に想像してくれた。この兄弟はイケメンで見た目は優れているが、どうも2人とも頭は残念なようだ。



「おい、何の話だよ、俺はまだやる気だぜ」



俺は次にアランの説得にかかる。こちらの方が何倍も簡単だ。俺はアランの耳に寄せ、囁いた。



「こいつと戦っている時間がもったいないよ、美女達と豪華なホテルで酒を浴びるように飲む、それが俺たちの生きる意味だろ? 早く必勝法を試したくないか?」



はい、完了。アランはニヤニヤ笑いながら、剣を仕舞った。



「おい、にいちゃん、今日の所は見逃してやる、俺にはやることがあるからな」



ヒースクリフの方も剣を仕舞う。



「余計なことを失礼した、お互いゼーラ様のために使命を全うしましょう」



そう俺にお辞儀をして他の取り巻きを告げて、去っていく。



俺は安堵の息を吐き出した。これで魔法都市エルドラドに向かえる。



「さあ、野郎ども!荷物をまとめやがれ!向かうは黄金都市エルドラドだ」



魔法都市エルドラド、学術的な魔法学校や研究施設、魔法協会がある一方、裏の顔もある。



別名、黄金都市エルドラド、数多のギャンブラーが夢と金に溺れ、欲望とスリルが渦巻く巨大カジノの街だ。





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