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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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勇者登場



俺はマーカスと別れ、地竜の笛を使った。ちょうど俺が乗った隣人が走ってきた。



「よろしく頼む、そうだ、名前をつけよう、俺のネーミングセンスは抜群だからな」



俺は頭を捻る。そして、素晴らしい名前が天から降りてきた。



「お前の名前はリュウだ」



地竜だからリュウ、何て卓越したネーミングセンスなのだろう。



「よろしくな、リュウ」



リュウは意味が分かっているのか、嬉しそうに鳴いた。



ポチはリュウに歩み寄り、高い所にある頭を見つめた。2人はしばらく目を合わせる。リュウが小首を傾げた。



そして、リュウはくぅーんと可愛い声を出しながら、頭をポチの高さまで下げた。ポチはその頭に肉球を乗せた。



どうやら上下関係は決まったらしい。



俺はリュウの背中に乗り、ポチが俺の膝に乗った。本来、パーティのメンバー分だけ地竜が現れるのだが、ポチはなぜか1人にカウントされない。



リュウは嬉しそうな声を上げて、疾走する。レースではスピードが1だったが、仲間になると速度はどの地竜も一定になる仕様だ。俺が移動するより3倍は早い。



風を切るのが、とても心地良かった。俺はつい大声を出したくなった。今ならどこまでも行ける気がした。俺は現実ではバイクに乗っていなかったが、きっとツーリングが好きな人はこんな気持ちなんだろう。



「よーし、このままエルドラドまで一気に行くぞ!」















______________________



俺はそろそろ学習すべきかもしれない。



大体、俺が調子に乗ると、それはトラブルが起こるフラグのようだ。あのままエルドラドまで一気に行こうと思っていたが、フラグはしっかりと回収された。



数時間後、俺は立ち往生をしていた。理由は簡単だ。RPGや異世界ものでは定番のあの心踊るイベントに遭遇してしまった。



俺の周りには不潔な格好のお兄さん達が何人もいた。世紀末を想像させるモヒカンも数人いる。



そう、ありふれた盗賊襲撃イベントに巻き込まれただけだ。



「くくくく、おい、小僧金目のものを置いていけ」



「生きたまま、おうちに帰りたいよな?ボウズ」



しかし、LOLの盗賊襲撃イベントを舐めちゃいけない。実はこいつらこんなに雑魚の匂いを漂わせているのに、かなり強い。



俺の今のレベルでも下手すれば一撃死する攻撃をいくつも持っている。あの青い髪のモヒカンとか、THE下っ端というなりだが、上級魔法を使用してくる。魔法攻撃力も高く、食らえば即死だ。更に回復魔法で味方の援護までしてくる。見た目のギャップがありすぎる。



まあ、今の俺なら全員の攻撃を回避しながら、この場から逃げ延びることは余裕で出来る。しかし、俺はあえて盗賊に捕まるのも悪くないと考えていた。



残り時間を再度計算する。ここで盗賊に捕まることで彼に会うことができる。その価値はこのイベントで失う時間に釣り合うかを吟味する。



モヒカンの言葉を聞き流しながら、集中力を高める。情報を追加し、再度シミュレーションを行う。



このイベントはリン登場イベントと同様に運が絡む。広大なこのLOLで偶然絡まれなければならない。これを僥倖とるべきか。



「おい、聞いてんのか?ボウズ」



俺は決めた。これは賭けだ。リスクも大きい。時間を無駄にする可能性もある。しかし、全て成功した時のメリットが大きい。



俺は両手を上げた。



「怖いので殺さないでください!」



全面降伏した。盗賊たちは満足そうにへらへら笑う。



これでいい。イベントではこの後、俺は彼に会うことができる。そこで協力が得られるかが鍵だ。



かつて、魔王を封印した伝説のパーティの1人。心剣のゲンリュウ、妖精王ナラーハ、大魔導ソラリスと共に世界を救った英雄。聖剣デュランダルに選ばれし、担い手。



勇者アランに会うことができる。



魔王を封印した戦いは、あるイベントで見ることができる。あのゲンリュウがまだ若々しく、正宗を片手に凄まじい剣閃を披露する。魔王軍を目にも止まらぬ神速で切り刻んでいく。



大魔導ソラリスは戦略級の大魔法を連発し、大軍を跡形もなく消失させていく。



妖精王ナラーハは既にこの頃からお爺ちゃんだったが、仲間達を常に能力向上させながら、ダメージを受けるたびに一瞬で全回復させる。パーティの要だ。



そして、その中でも群を抜いた活躍を見せていたのが、勇者アラン。



彼はまだ10歳くらいの少年だった。柔らかい金色の髪に青い目を持った美少年だ。あどけなく、戦場には不釣り合いだった。



実は販売されたLOLのパッケージにも載っているキャラクターだ。



しかし、その強さは鬼神のごとく、常軌を逸していた。聖剣一振りで大軍を屠り、一歩で瞬間移動のように敵のど真ん中に現れる。反応する間もなく、巨大な魔法陣が展開され、辺り一面を火の海に変える。



物理攻撃も魔法攻撃も回復さえも全てが一流。正義感が強く、世界のため、仲間のために命をかけて戦える。まさに勇者だった。



映像だけなので正確な強さは測れないが、魔王軍幹部でも勝てるのは明白だ。



俺はアランの協力を得るべく、わざと盗賊たちに連れていかれた。



しばらくして山の中のアジトに到着し、汚らしい牢屋に入れられる。



「そこで大人しくしてろ、お前は売り物だ、何もしなければ傷つけずにいてやる」



そう言って男は去っていった。奴隷として売るつもりなのだろう。



俺は薄暗い牢屋の中を見渡す。そこで端に座っている男がいた。



「やあ、大丈夫かい?」



優しい声をかけてきた男は立ち上がり、こちらに姿を見せた。蝋燭の灯りが彼の姿を照らす。



良い歳のとり方をしている男だった。穏やかな風貌に長い髪を後ろで一纏めにしている。身体や表情も若々しく、ギルバート同様、大人の魅力があった。



服装も小綺麗なシャツを着ており、どこか貴族を匂わせる。



「安心するといい、間もなく助かるよ、僕はリックだ、まあ偽名だけどね、訳ありだから許してくれ」



リックは安心させるようにそう告げた。牢屋の外に誰もいないことを確認し、続ける。



「僕はこのアジトを見つけるために調査していてね、わざと捕まったんだ、手はもう回している、間も無く騎士団が到着するよ」



リックはそう言って、優しく笑った。俺も名乗って、ここに連れてこられた経緯を説明した。



その後、扉が開く音がした。盗賊のモヒカンが入ってくる。



「おい、ボスが呼んでる、2人とも来い」



俺たちはそのまま、モヒカンに連れられて洞窟の奥へ向かう。俺はどうやってアランの信用を得るかをずっと考えていた。



アランは、ゲームではここで仲間にならない。つまりイベント通りに進んではダメだ。しかし、サスケやイズナのように自分から進んで仲間になってくれる場合もある。



だからこそ、俺はゲームにはないアドリブでアランを説得しないといけない。



「……僕が騎士団の一員であることは黙っていてくれよ」



モヒカンの目を盗み、リックが俺に耳打ちする。そこで考える。やはり信頼をされるためには行動で示さないといけない。



俺達は最も大きな扉の前に連れてこられた。その扉の前には屈強な男が2人門番をしている。



「ボスに呼ばれてきた」



モヒカンがそう説明すると、門番は重そうな扉を開いた。俺たちは部屋の中に入る。



松明に照らされた薄暗い中に、ボスはいた。顔が赤らみ、床には酒瓶が転がっている。さらに右手には今飲んでいる酒があった。



お腹もだらしなく出ており、他の盗賊より少し偉そうな装飾をされた粗末な服を着ている。



ボサボサの髪に手入れされていないヒゲ。だらし無さを前面に出した男だった。



「ひくっ……ああ?こいつら何?」



ボスが不思議そうに問いかける。モヒカンは緊張したまま答えた。



「はい、ボスが会いたいとおっしゃったのでお連れしました」



ボスはそうだっけ?と小首を傾げた。



「まあ、いいか、あのさ、何か面白い芸しろ」



酔っ払いの絡みが鬱陶し過ぎる。その為に俺たちを呼んだらしい。



「面白かったら、逃す! 滑ったら、殺す!」



何とかグランプリも真っ青な辛口審査員だ。俺はやらない。俺のギャグセンスは高いと自覚している。しかし、高すぎて時代を先取り過ぎてしまい、凡人にはその面白さが分からないことが多々あった。



「いいでしょう、剣を貸してもらえませんか?剣舞を見せましょう」



余裕のある表情でリックは立ち上がる。酔っ払って判断力がないボスは近くにあった刀を投げて渡した。



その時、刀を受け取ったリックは確かに笑った。



「全く、盗賊団の頭がここまで無能だとは、予想以上ですよ」



「あ?お前何言ってんだ」



俺も行動に出なければならない。このままではアランが全てを解決してしまう。何か役に立つところをみせないとと俺は焦る。



リックはすっと重心を落とす、それは洗練された戦士の動きだった。



俺は手遅れになる前に行動を開始する。誠意を示すことが信頼に繋がるはずだ。息を吸い込み、一息で告げた。

















「ボス、このリックという男は騎士団の人間で、既に騎士団がこのアジトに向かってきてます!」










「へ?」






俺のカミングアウトに刀を構えたリックは変な声を漏らす。バラさないと言っていた秘密を俺はあっさりバラした。だって仕方ないじゃないか。誠意を見せないといけないんだから。



「ま、まあいい、知られたところで手遅れだ、お前の首、貰い受ける!」



リックが素早くボスに接近し、鋭い斬撃をボスの首に放った。



しかし、その刃が届くことはなかった。首に触れるギリギリの所で静止している。



ボスの人差指と親指が刀を摘んでいた。リックが全力を出しているのか、身体が力で震えているが、指2本で押さえる刀は微動だにしなかった。



「ん?これが芸か?つまらんな」



そう言って、手を少し動かす。その途端、リックは回転するように吹き飛び、地面に転がった。



「さすがですね、アランさん」



俺は汚らしい酔っ払い、かつての勇者アランにお世辞を述べた。





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