自然派ホテル
俺とポチはギルバート達と別れて、ウエスタン街道は南東に向かう。ギルバート達だけではガリア山脈を越えられないから、時間はかかるがウエスタン街道を俺たちとは逆方向へ進み、グランダル城下町に戻ることになった。
俺とポチは街道に現れるあらゆる敵を無視して走る。この辺りの敵はもはや俺よりレベルが低く、経験値が手に入らない。
現実世界ではあまり体力がある方ではなかったが、恐らくレベルによって基礎体力も向上しているようだ。かなりのスピードで走り続けてもあまり疲労がない。
このペースで行けば今夜にはオーランド牧場に着くだろう。
俺の最初の優先事項は、足を手に入れることだった。オーランド牧場ではRPGでよくある乗り物が手に入ることができる。
ゲームによっては鳥だったり、馬だったりする。LOLでは地竜だ。
地竜とは名ばかりで、空も飛べず、身体も小さい。ラプトルという恐竜に近いと言えば良いのか。鞍をつけて、馬のように乗る。
プロメテウスに鳥形の魔物などを貸してもらえなかったので、足は必要だ。魔王城までの距離を考えると、ここで地竜を手に入れておくことが、結果的に時間の節約につながるだろう。
しかし、忘れてはいけないことがある。この牧場もやはりLOL仕様。ただ乗り物を手に入れるだけでも、安定の無理ゲーだった。
俺は攻略方法を思い出しながら、ポチと走り続けた。
途中で2回休憩を挟み、日が沈んだころ、俺はオーランド牧場に到着した。
木の柵に囲まれた広大な土地だ。いくつかの仕切られた柵の中に何匹もの地竜が動き回っている。
俺は入り口近くにある一番大きな建物に向かった。ノックをすると小太りな中年の男が現れる。
オーバーオールに色あせたシャツ、袖を捲っていて太く毛深い腕が剥き出しになっている。髭が口元を覆い、顔が大きい割に目が小さい。
「何じゃ?小僧」
ぶっきらぼうにそう言う。
「俺は旅人のレンです、良ければ今夜、泊めていただけないかと思いまして」
「ふん、俺はここの牧場主のマーカスだ、部屋は1つしか空いてない、そこで良いなら泊めてやろう」
「ありがとうございます、助かります」
「ん……」
マーカスは無言で指をこすって何かを示唆する。俺は意図を汲み取ってお金を渡した。
「そういえば他の客に部屋を貸す約束をしていた気がするな」
また指先をこする。こいつ、足りないと催促してきやがった。
「これ以上は出せませんので」
俺が追加で出した金額を確認し、マーカスは満足そうに笑顔を見せた。グランダルの宿代の3倍は払った。
「よし、案内しよう」
マーカスに促され、俺は後を付いていく。家の中に行くのかと思ったら、なぜか家を出て外に向かう。ほかに泊まれそうな建物があったかと俺は記憶を探るか、思い当たらない。
「ほれ、ここだ」
俺は唖然とした。竜舎だった。多くの龍達が自分のスペースで寝ている。一匹分のスペースに木の板で区切られ、干し草が敷き詰められていた。
「文句があるなら、余所にいけ、金は返さん」
「……ここで良いです」
ゲームでも牧場主マーカスは嫌なNPC代表だった。泊めてもらうイベントなどなかったから、予想出来なかったが、ぼったくりな宿泊料で竜舎に泊まることになるとは。
俺とポチは空いているスペースに入り、干し草の上に寝転んだ。独特の動物臭い匂いがする。俺はため息をついた。
食事をしようと干し肉を取り出してかじる。ポチも美味しそうに食いついていた。そして、俺は隣の部屋の地竜から頰を舐められる。
その地竜は黒の鱗に所々白い斑点があった。竜は俺を見つめる。俺はその竜の頭を撫でた。
「いいよ、せっかくだ、隣人付き合いも大切だな」
俺は隣人(隣竜?)と少し仲良くなり、干し草の上で眠れない夜を過ごした。
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翌朝。俺は太陽の光を広い牧場を眺めながら浴びた。
昨日は実に良い経験だった。俺の部屋は、非日常を演出する自然派デザインだった。
干し草という珍しいベッドは俺の身体を柔らかく包み込み、香ばしい匂いに包まれる。身体の節々の痛みは、それはそれで味わい深い。
夜通し漂ってくる竜から放たれるフレグランスは、俺を簡単には眠らせてくれない刺激的な魅力があった。子守唄のように聞こえてくる唸り声や鳴き声が、BGMとなり、非日常の夜を作り上げる。
結論、最悪な体験だった。
俺は気を取直して、地竜ゲットのイベントを進める。牧場に出てきたマーカスに話しかけた。
「昨日は泊めていただき、ありがとうございました、それでもう一つお願いがありまして、私に地竜を一匹頂けないでしょうか?」
「む、地竜が欲しいのか、ほれ、これが値段表だ」
俺はボロボロの紙切れを見る。0が異常なほど並んでいる。
「とても払えません」
マーカスはその返答を予想していたように、意地悪な笑みを浮かべた。
「仕方がないな、それならここで行われている地竜レースで一位になることが出来たら、1匹譲ってやろう」
「本当ですか? ありがとうございます」
これが既定路線だ。ここでRPGではよく見かけるサブイベント、競馬ならぬ競竜が始まる。
マーカスはルールを説明する。俺は既に知っているので、その記憶を呼び起こす。
まずこの牧場から1匹地竜を自由に選べる。地竜にはパラメータがあり、優秀な竜を選ぶことが重要だ。
そして、エサをあげてパラメータをアップさせることも出来る。このエサはマーカスからボッタクリ値段で買える。食べ物なら手持ちのものでもエサとしてあげられるが、何かの値がアップしても残りの数値がダウンしてしまうので、トータルで弱くなる。
そして、準備が出来たらマーカスに話しかけるとレースが開始される。自分の地竜に乗り、レースで一位になればイベントクリアだ。
ちなみに参加料もかなり取られる。負ける度に再挑戦出来るが参加料はどんどん上がって行く。そのため、勝てないまま参加料が高騰し過ぎて諦めるプレイヤーが続出した。
もちろん、このレース、普通に戦ったらまず勝てない安心設計。
「もしどうしても勝てない時は俺に言え、これを売ってやる」
『地竜レース必勝法、このノウハウは門外不出!これで君も勝ち組レーサーだ!』
という胡散臭い本を差し出してくる。どこの情報商材詐欺なのだろうか。ちなみに結構な金額を払ったあと、中身を見ると大したことが書いてなく、更に勝率を上げるために、『地竜レースの本質、99%が知らない勝つ為の方法』という2つ目を買うように勧めてくる。
どこまで金にがめついオヤジなんだと、俺は呆れそうになる。
地竜のパラメーターは、スピード、加速、スタミナ、バランスがある。スピードが高いほど最高速度が高く、加速が高いほどその最高速度に行くまでの時間が短い。
スタミナは重要な値だ。地竜はダッシュという一時的なブーストを行うことが出来る。スタミナが高ければ、このダッシュの持続時間が長く、また再使用までのクールタイムが短い。
そして、最後にバランス。地竜は高低差があるところや他の地竜との接触でよく転倒する。転倒すれば大幅な時間のロスに繋がる。特に竜同士の接触では必ずバランスが低い方の竜が転倒してしまう。
バランスが低い地竜だと、もはや酔っ払いじゃないかと思うほど、転倒しまくりレースにならない。さらにわざとらしく、他の竜も接触してくるので、まともに走れない。
それぞれのパラメータは、1から10までの数値がある。基本的にこの牧場で選べる地竜の平均は2ぐらいだ。どこかのパラメータが4あるだけで優秀な竜と呼べる。初期から5以上ある竜は見たことがない。
そして、一緒に走る敵の地竜は平均7近くある。マーカスが乗る地竜などスピード10、加速9、スタミナ10、バランス9という最強のステータスを有している。
エサをあげることで、任意のパラメータを1アップすることができる。たとえばスピードニンジンを上げれば、スピードを1上げられる。
しかし、エサは地竜によって食べられる個数が決まっており、どんな地竜でも最大3個食べれば満腹になり、エサを食べてくれなくなる。
つまり、どれかの数値が4である優秀な地竜に上手くエサを3個食べさせて、その数値を3上げても最大7までしかいかない。平均7の地竜達に勝てる可能性はない。
レース場は、障害物や飛び出し台、デコボコの地面などギミックはあるが、もはや地力が違い過ぎて、レースのテクニックでは意味がない。
普通のゲームなら、開発者にクレームが殺到するだろう。しかし、ここまでLOLを進めた猛者達は違う。この程度の無理ゲーは日常茶飯事だ。
俺はぐっと背伸びをして、痛めた背中を伸ばした。では地竜レースの本当の必勝法を見せてやろう。




