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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第1章 英雄の目覚め
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仲間を求めて



「あの……もしよろしければ一つお願いがありまして」



リリーが控えめに上目遣いで言う。凄まじい破壊力だ。



「実はポーションの原料となるヒール草が品薄で、薬剤師さんが困ってまして、冒険の途中で手に入れたら売ってもらえませんか?」



両手を合わせて、涙目うるうる。俺は致命傷を受けた。



そして、これこそ俺が無理をしてポーションを買った理由だ。



「え…まあ、はい、やります」



俺は快諾する。初めてこの店でポーションを購入するとこの採集イベントが発生する。



「ありがとうございます、ヒール草は城下町周りの草原にもありますが、東の森の中が一番多いです、でも最近森で凶悪なモンスターが出現したらしく、それで誰も近寄らなくなってしまって」



イベントボスのフラグを立てるのを忘れないリリーさん。



「はい……まあ大丈夫だと思います」



俺はこの世界に来て、最初の依頼を引き受けた。



________________________



王道パターンが使えない以上、こういった依頼をこなして報酬を得るしかない。別にリリーさんが可愛いから受けたのではない。



そもそもポーションを購入したのも、このイベントのためだ。リリーさんの笑顔にやられたのではない。



俺は街を歩きながら、露店を物色する。そこで俺は目当てのものを見つけた。アイテム名《よく分からない骨》。



一応メイス系に分類される装備品だ。攻撃力は全装備中最低、初期装備よりも低い。さらに一回敵に攻撃を当てると折れてなくなる。そんな素敵な仕様だ。



俺はよく分からない骨を有り金200Gをはたいて購入する。これで本当に無一文になった。



少し後悔している。現実世界になった今、食費という概念を忘れていた。今日は何も食べれないかもしれない。



俺は若干肩を落としながら、城下町を進む。本当はこの街をゆったりと観光したいが、LOLの世界はそれを許さない。お金を稼がなくてはいけないし、それに時間経過で自動的に開始する凶悪なイベントもある。それまでにある程度レベルも上げておかなくてはならない。



町外れまで移動し、石段を登り始める。リリーさんの採集イベントをこなす為には仲間を増やす必要がある。



LOLでは最大3人まで仲間を連れて行くことができる。仲間は全員で120人を超え、それぞれそのキャラしか持たないユニークスキルがある。ダンジョンやボスとの相性を考えて仲間をチョイスするのも、このLOLの醍醐味だ。



しかし、忘れてはならないことがある。それはLOLがやっぱり無理ゲーだということだ。仲間のほとんどは何の役にも立たないどころか、足を引っ張る方が多い。



基本的に回避ゲーであるため、仲間はとにかくすぐ死ぬ。NPCに敵の攻撃を回避するテクニックが乏しいためだ。



それでも120人以上いれば、有益な仲間も僅かながらいる。よく使える仲間ランキングで盛り上がったものだ。



仲間ランキングでは人によって、様々な考えがありばらつきが出る。仲間ランキングワースト1位は不動なのだが、今は使える仲間ランキング上位を発表しよう。



よく出てくるのが、殺戮兵器アドマイヤ。物語終盤の研究所で仲間にすることができるアンドロイドだ。とにかく高火力の広範囲攻撃をひたすら繰り返すだけの戦い方だ。何の芸もなく、それしかできない。何もしなくても雑魚敵を蹴散らすので、戦闘がつまらなくなる。



あとは大魔導ソラリス。仲間にする条件はアホみたいに厳しいが、その能力は破格だ。魔法使いキャラで圧倒的1位だ。



他には鋼鉄のガラン。幽霊屋敷でのイベントで仲間にすることができる。中身空っぽな鎧武者だ。とにかく防御力が高く、ボスでも一撃で死なない希少なキャラだ。魔王軍幹部のウォルフガングを除けば物理キャラでは一番だろう。魔法防御は紙なので、魔法使われれば一撃で死ぬが。



あとはラインハルトか。正統派イケメン。仕草から言動まで何もかもがキラキラしてる奴。ユニークスキルは強力だが、最高に性格がムカつく。



しかし、俺的一位は間違いなく彼だ。この石段の上の道場に住んでいる。最初の街で仲間にできることもメリットの一つだ。



俺は石段を登り終えた。古めかしい道場があった。看板には疾風迅雷と書かれた看板がある。



俺は門をくぐり、道場の中にむかった。そして、彼に出会った。



そこにいたのは、芝犬を連れて佇む白い髭の老人だった。老人ではあるが異様に姿勢が良かった。その老人は来訪者を見て、眉をくいっと上げた。



「来訪者とは珍しい、わしはこの道場の師範、ゲンリュウと言う」



ゲンリュウはゆっくりと立ちあがった。鋭い眼光が俺を射抜いた。



「何のようで、ここに参った?」



俺は冷や汗をかきながら、気丈に答える。現実になったからわかる。この老人が只者ではないと。



「仲間を求めて」



ゲンリュウは声を出して笑い出した。



「かはははは、何を言うと思えば、この道場にはもうわししかおらん、弟子たちは修行に耐えきれず皆去っていった、それともお主、このわしに力を貸せと言うのか?」



ゲンリュウ。全盛期魔王を封印した四英雄の1人だ。当時、歴代最強の剣士と呼ばれていたらしい。彼の固有イベントでその昔話が聞ける。



あるイベントで若返ったゲンリュウを仲間にすることができる。そのイベント内だけの特別キャラクターだが、その強さは尋常ではなかった。



今は隠居してこの道場で犬とともに細々と暮らしていた。



「わしが力を貸すのは、真の強者のみ、力を欲するならば自ら証明するがいい」



ゲンリュウを仲間にするためには一騎打ちイベントで勝利しなければならない。これももちろん無理ゲーだった。



ゲンリュウには初期スキルとして、『剣の極み』がある。これは常時発動型スキルであり、斬撃属性の攻撃を完全に無効化する。



それなのに、この一騎打ちは必ず剣を装備しないといけない。もし剣以外を装備していたら、「わしが見極めたいのはお主の剣の腕、これを使いなされ」と剣を渡される。もちろん途中で装備を変更することもできない。



つまり剣を装備しないと戦えないのに、相手に剣によるダメージは一切与えられない。製作者の頭がおかしいとしか思えない。



ちなみに魔法の発動も禁止される。その辺りの抜け道はない。しかし、ダメージを与える方法はある。



一つは剣を装備しながら使わず、蹴りを入れることだ。剣を装備していても蹴りを出すことができ、こちらは打撃属性だからダメージが通る。もちろん剣の攻撃力による上乗せはないので、素手で戦うのと変わらない攻撃力だ。



剣を握りながら蹴りしか使わないなんて、現実的に見たらとても滑稽だろう。



しかし、これには致命的な欠陥がある。ゲンリュウは『剣の極み』を抜かしても強いのだ。初期レベルは65であり、防御は低いが攻撃力と素早さが異常に高い。通常攻撃すら回避は至難の業であり、やっぱり一撃もらえば死ぬ。



そして何よりユニークスキル『一閃』を使用してくる。これは超速の居合いであり、どんな熟練の英雄でも回避は不可能。それもそのはず、このスキルは発動と同時にまだ剣も振られていないのに当たり判定が出る。もはや避けるという次元ではない。



以上の理由でやっぱり無理ゲーだった。






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