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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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前夜



____________天才の独白____________



つまらない。



目の前には迷宮が広がり、先程からジャスパーが試行錯誤している。僕はもう興味を無くしてしまった。



壁の配置と色、台座の位置を考えてシミュレーションしてみたが、この迷路は100%解けないように出来ている。それに気づきもせず、頭をひねっているジャスパーが酷く滑稽に思えた。



考古学者と言っても、ただの凡夫か。



この迷路を解くためには、宝玉がもう一ついる。そのことにも気づいていない。



なぜ、本来必要な宝玉が1つしかないのか。それは間違いなく彼が手を回したのだろう。



彼への興味は本当に尽きない。



なぜ彼はこの遺跡のオーパーツのことを知っていたのだろう。なぜ彼はジャスパーの名前を知っているのだろう。



疑問が僕の胸の中で騒ぎ立てる。止めどない好奇心が蠢き始めた。



僕は次の行動を考える。やはり魔王軍ともっと深く関係を持った方が良いだろうか。ヴォルフガングの話からすると他の幹部も強いらしい。しかし、彼は俺が一番強いと断言していた。そのウォルフガングが負けたのだから、他の幹部も良い勝負が出来るか怪しい。



ウォルフガングから聞いた情報では一番取り込みやすいのは、プロメテウスだろう。



彼は常に損得で物を計る性格であるため、協力する明確なメリットさえ提示できれば、思い通りに動かすことも出来る。



他にも手はいくつか思いつく。王立図書館には多くの情報があった。気になったのは僕の生まれた村のことだ。その村には僕の知らない秘密がある。



魔王城にも近い。魔法軍との接触できる機会もあるかもしれない。



僕は最果ての村に戻ることに決めた。



こちらに来るときはウォルフガングがいてくれたから、道中は安全だったが、最果ての村周辺は高レベルのモンスターが多くいる。僕だけでは戻れない。



僕は退屈そうに欠伸をするメリーへと視線を移す。メリーはこのままお金で付いてきてもらおう。



しかし、メリーと僕だけではまだ戦力不足だ。だから、新しい駒が必要になる。



僕は次に、頭を捻りながら何かを一生懸命メモするジャスパーを見た。



(あれ)はいらない。もう興味は尽きた。



そう言えば、王立図書館の文献に面白い記述があった。あの場所ならここから遠くない。そこで例の人物を仲間に出来れば、最果て村まで戻ることが出来るだろう。



レンはこれから仲間を集め、もっと強くなる。それも途方も無いほど強くなる、そんな予感、いや確信がある。



だから、彼をもっと知るためには、こちらもついていかなければならない。あらゆる情報を駆使し、彼を追い詰めたい。



そして、限界まで追い詰めて、彼の本当の姿を見たい。絶望の闇の中で、彼の光が失われるのか、それとも逆に輝き出すのか。



僕は負けることを望んでいるのだろう。彼はきっと僕の想像を超えた方法で逆転してくる。その時、僕の知的好奇心は満たされる。そして、更に渇望する。



僕は家族がいない。誰かに恋をしたこともない。



だから今まで愛を知らなかった。本や話の中で聞く愛という感情が何なのか、いまいち理解出来なかった。でもやっと分かった。きっとこれが愛なんだろう。



彼のことが知りたくて、彼の輝きが見たくて、そのために彼を苦境に落としたい。



胸が高鳴る。心が躍る。これが愛という感情だと、僕は初めて気づいた。



こんな楽しい遊戯(ゲーム)は初めてだ。頼むから、僕に負けないでよ。



僕は全力で君に絶望を味合わせると誓うよ。



だから、待っていて、レンさん。



______________________











ガリア山脈の下りは予想以上に順調だった。完全にギルバートの射撃が俺たちの連携にはまり出し、全く危うげなく進む。



ギルバートのレベルも順調に上がり40まで来た。パワーレベリングの効果だ。



特に強制スタン効果のある『ブレイクショット』を覚えたのが大きい。ダメージは低いが、前方広範囲の敵を強制スタンさせる。その効果は絶大だ。



それに即死効果のある『アサシンスナイプ』も大きい。単体攻撃ではあるが、攻撃力が低いギルバートでも即死が発動すれば、一撃で敵を倒せる。



もはやガリア山脈には敵なしだった。このペースなら明日の夕方にはナルベス村に到着するだろう。



「何か俺たち、良いチームだよな」



ギルバートが敵を正確に射撃しながら、呟く。



「ええ、すごく戦いやすい」



華麗に敵の攻撃を掻い潜りながら、リンは舞うように敵を青い粒子に変えて行く。



「ああ、最高のチームだ」



俺は【セイントレイ】でロックゴーレムを撃ち抜く。そして、この大切な仲間を必ず守ろうと心に誓う。



戦闘が終わり、ポチが尻尾を振って駆け寄ってくる。俺は手を広げて、抱擁の準備をした。



「ポチ、お前ももちろん、俺の大切な」



ポチは俺を素通りして、リンの胸に飛び込んだ。



「もうポチ、そんなところ舐めちゃだめ」



リンと楽しそうにじゃれ合う。俺は両手を開いたまま、天を仰いだ。



「これが……仲間だ」



何となくカッコいい台詞を吐くも、目からは涙が溢れそうだった。



「レンの旦那、そう落ち込むな、ワン公だって旦那のこと大切に思ってるさ」



ギルバートが歯を光らせながら笑う。俺は開いた両手をそのままにギルバートを抱きしめた。



「ギルバート!心の友よ」



「お、おう、一応言っておくと、俺にそっちの趣味はないからな」



俺たちはそんな楽しくも下らないやり取りをしながら、下山していった。



太陽が沈んだころ、俺たちは最後の野営を始めた。既にガリア山脈の麓まで来ていた。明日はいよいよナルベス村に到着する。



焚き火を起こし、食事を取る。そして、頃合いを見て、俺は切り出した。



「ギルバート、明日ナルベス村に着く、そこで何が起こっても俺を信じてほしい」



ギルバートは俺の真剣な雰囲気を感じとり、真っ直ぐ俺を見た。



「レンの旦那とはまだそこまで長い付き合いじゃないが、信頼に値する男だと思っている、信じるよ」



「ありがとう、あと奥さんの形見の氷雪の腕輪、あれを一時的に貸してほしい、大事なものだとは分かってるけど」



ギルバートは俺の頼みに少し意外そうにし、懐から木箱を取り出す。そして、それを俺に差し出した。



「まあいいが、氷雪の腕輪の効果は知ってるのか? 正直ナルベス村周辺ではあまり意味がないと思うが」



氷雪の腕輪。氷属性の被ダメージを半減する。ナルベス村周辺は本来氷属性の攻撃をする敵はいないから、ギルバートの懸念は最もだろう。



俺の目的は腕輪の効果とは違う所にある。そもそも、氷雪の魔女が復活して戦闘になったとして、魔法攻撃力が高すぎるから、半減しても即死は免れない。



「いいんだ、ちゃんと返すから、少しだけ貸してほしい」



これで準備は完了した。後は明日、俺がただ無理ゲーを攻略すれば良い。



既に俺の中では勝利のロジックが積み上がっている。一分の隙もない。



必ず、大切な仲間を救う。そんな強い想いが俺の原動力になっていた。







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