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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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解けない迷路



夜が明け、俺たちは再び山登りを開始した。山頂が近づくと新しい敵のガルーダが出現し始める。



スキルが発動した瞬間の初速が異常に早く、弾丸のように突っ込んでくる。動きは直線的だが、スピードが速く避けづらい。少しでも掠ると麻痺を付与される。



回避術のランクにガルーダ級というものもあるくらいだ。しかし、既にリンはシャドウアサシン級になっている。初見のはずが、俺から聞いていた情報を頼りに完璧な回避を見せていた。



もう彼女の回避術を成長させるには、ナイトメアと戦わせないと駄目だろう。シャドウアサシン級とナイトメア級の間には高い壁がある。俺も英雄になる前は随分と苦労をした。それ以上にアバランチとナイトメアの間には高い壁があるが。



ガルーダ戦でもギルバートは大活躍した。ガルーダは素早さが高く飛行しているので、物理攻撃が与え辛い。遠距離攻撃に魔法を選んでも、詠唱時間の間に突進されてダメージを受けてしまう。その点、ギルバートの銃撃は非常に有効だった。



問題なく進み、俺たちは山頂に到着した。目の前にどこまでも広がる地平線が続いている。そこで俺たちは休憩をとることにした。



俺は静かに皆から離れ、山頂にある大きなこぶのような岩に近づく。そのすぐ下に竪穴があり、俺はその中に飛び降りた。



ここが古代遺跡の入り口だ。ジャスパーとのイベントで訪れることになる。



俺の前には開けた地下空間があり、台座が3つある。その中の赤い台座と青い台座に、白い宝玉が乗っている。



そして、目前には緑の紋章がついた壁があった。これはRPGでは定番のパズル要素だ。俺が赤い台座から宝玉を持ち上げると、目の前で赤い紋章の壁がせり上がる。その宝玉を緑の台座に乗せると、緑の紋章の壁が下がっていき、無くなった。つまり、その色の台座に宝玉を乗せることで、その色の壁を消すことができる。



迷路の中にも台座は存在し、宝玉を移動しながら壁を消して進んでいくことになる。実はこれはソロでは絶対にクリアできない。途中、壁の向こうにいる仲間に宝玉の移動をしてもらわなければゴールまで行き着けないようになっている。



だから、ほっといてもジャスパーが遺跡をクリアすることはないように思える。しかし、元々ジャスパーは戦闘が苦手だから、主人公を雇うというイベントだ。主人公以外の他のキャラを雇って、探索することは十分に考えられる。



ちなみにこの迷路の難易度もやっぱり無理ゲーだった。そもそも全体を俯瞰出来ていないので、正しい道筋など分からない。手探りで進むしかない。そして、迷路としては最悪の部類の、初めに選択肢が複数あり、それを間違えた時点で長い迷路を進んだ結果、行き止まりに行きつくという性格の悪さだ。



俺は記憶を頼りに宝玉を移動して、迷路を進む。しかし、1人だから途中で進めなくなる。それで良かった。別にクリアが目的ではない。



緑の台座と赤の台座がすぐ近くにある地点にたどり着く。ここは有名なポイントだった。この迷路はリセットがされない。迷路が複雑過ぎて、いくつかの行動をするとイベント進行が不可能になるという要注意項目が存在する。



これが一番手っ取り早い方法だ。今緑の台座と赤の台座には宝玉が乗っている。俺は緑色の台座近くに立ち、赤の台座に向けファイアーボールを放つ。魔法が直撃し、その反動で宝玉が台座から転がり落ちた。



その瞬間、目の前に赤の壁がせり上がり、向こうの側の光景を完全に消した。



これで完了だ。このポイントで壁の向こう側に宝玉を閉じ込めてしまうと手に入れることが物理的に不可能になる。宝玉は1個しかなく、この赤い壁の手前には緑の壁がある。つまり、2個の宝玉を使用しないとこの奥には行けない。



それにここからなら宝玉1個で入口に戻ることもできる。俺は作業を終え、満足げに帰り道を辿った。そして、穴から山頂にもう一度出る。



そして、俺はそこで予想外の人物に出会った。ギルバートとその人物が会話をしている。こちらに気づき、ギルバートが俺を紹介していた。



大きな動物の毛皮のコートを身につけ、フードにはケモミミが付いた女だ。褐色の肌に筋肉質の引き締まった身体。背は高く、顔は凛々しくどこかネコ科の動物を意識させる。



フードからライオンのたてがみのような長い髪が溢れ出していた。そして、背中には巨大で無骨な大剣が括り付けられている。



「よお、あんたがこのパーティのリーダーか」



怪物狩りのメリー。アタッカーとして非常に優秀な高レベルキャラクターだ。スキルにもダメージ特化なものが多く、前線ではかなりの活躍が期待できる。



俺はぞっとした。彼女は用心棒として金さえ払えば城下町で簡単に仲間にすることができるキャラだ。ここにいるということは誰かに雇われた可能性が高い。



プレイヤー以外で彼女を雇い、ガリア山脈の山頂にくる目的がある者。俺の予感は的中した。



俺の死角になっていた岩陰から、その男は現れた。縁のない丸メガネをかけ、巨大なリュックを背負った中年の男。不健康に痩せており、服には泥などが付着して清潔感などない。



考古学者ジャスパーだった。



危なかった。早めに気づいて先手を取れて良かった。まさかジャスパーがこの遺跡のことに、ここまで早く気づくとは思わなかった。少し違和感を感じる。



「君……今そちらから来たようだが、そちらに何かあるのかな?」



目が細められる。あからさまな懐疑心を感じた。俺は慌てて否定する。



「ちょっと景色を眺めていただけだよ」



ジャスパーはしばらく俺の顔を見つめた後、そうかと呟いた。



「よし、じゃああたしらも行くか、こっちにあるんだろ? 学者先生」



そう言ってメリーは俺とすれ違い、遺跡の方へと向かう。ジャスパーは俺への興味を失ったように、その後に続く。そして、岩陰から俺には見えていなかったもう1人がその流れに続いた。



「奇遇だね、レンさん」



俺の体温が一気に下がる。予想外の邂逅に俺は全力で平然を装った。ここで動揺するわけにはいかない。



「まさかこんな所で会うとはな、びっくりしたよ、ネロ」



白髪のくせ毛が揺れる。緑の大きな瞳に俺の姿が映し出されていた。



「どうしてジャスパー達と一緒にいるんだ?」



世間話を装いながら、探りを入れる。



「ええ、この山に遺跡があると本で見つけたので、専門家に話してみたら、一緒に行くことになって」



やはり思った通りだった。そもそもジャスパーのイベントは遺跡の場所を探すことから始める。本来はプレイヤーが調査して場所が判明し、ジャスパーに伝えるという流れだ。だから、ジャスパーが1人で遺跡の場所に気づくのは、もっと時間がかかると考えていた。



そして、俺は今のネロの言葉から、恐ろしいことを知った。彼は王立図書館に行ったのだ。この古代遺跡は図書館の文献でその場所のヒントが得られる。



そして、その文献には、世界を支配できるほどの巨大な力を持つオーパーツが隠されているとある。そう『天地崩落』だ。ネロは俺への次の手としてジャスパーに目をつけた。ウォルフガングを超えるほどの脅威を準備するために。



俺が真に恐ろしいのはジャスパーのことだけじゃない。あの図書館には、あらゆる情報が隠されている。他にもイベントを引き起こすトリガーとなる情報もある。



ネロに知られると悪用されることが山積みだ。特に懸念が必要なのが、ネロの固有イベントの情報だった。ネロが自分で固有イベントを起こし、クリアすれば厄介なユニークスキルを覚えてしまう。



『スキルコピー』触れた対象がスキル使用中であるとき、その対象のスキルを得ることができる。ただし、次に使用すると前回にコピーしたものは上書きされて消える。



本来は敵だけが使用できるスキルもコピーすることができる強力なものだ。上書きされてしまうので、1つしか保持できないが、それでもネロ単独での戦力を大きく向上させる。



「図書館に行ったのか、どれくらい本を読んだんだ?」



俺は動揺を抑えながら願いを込めて、尋ねる。しかし、その願いは呆気なく砕け散った。












「全部」



ネロがにっと笑って答える。
















俺は目の前が真っ暗になった。全部に目を通すなんて、かなりの時間がかかるはずだ。既にネロは俺に出会う前から王立図書館に通いつめていたことになる。



「僕はパラパラとめくるだけで、全ての内容を覚えることができるから、全部読むのに大した時間はかからなかったよ、ところで……」



ネロがぐっと顔を寄せた。緑の瞳は好奇心の光に満たされていた。



「どうして、ジャスパーさんの名前を知っていたの? 彼は名乗ってなかったのに」



俺は心臓を鷲掴みにされたように感じた。油断していた。ジャスパーは自分の名前を名乗っていない。メリーも学者先生としか呼んでいない。



俺がジャスパーの名前を知っているはずがない。



「ああ、ギルドの張り紙で見たことがあってな、名前は知ってた、見た感じ考古学者だったからな、彼がジャスパーだと思った」



苦し紛れに言い訳を放つ。ギルドには初期から遺跡探索依頼の張り紙があった。そこにジャスパーの名前が書いてあった。矛盾はしていないはずだ。



「そう、ごめんね、変なことを聞いて、では僕も一緒に遺跡を探すので」



そう言って、ネロはジャスパーの後に続いた。



彼の姿が完全に見えなくなってから、俺は大きく息を吐き出した。緊張が一気に解けた。



「大丈夫? レン、あの人は……」



リンが俺の様子を見て、何かに気づいたようだ。彼女はこうゆうところが鋭い。だが、ここは伏せるべきだ。



「いや、なんでもないよ」



ネロがリンに接触して探ってくる可能性もある。こちらがネロの脅威に気づいていることはバレてはいけない。



俺は唯一のアドバンテージを手放すわけにはいかない。





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