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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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魔女狩りゲーム




________________



ナルベス村が近づいてきた。急に雪が降り始め、進むほど積雪は多くなっている。



普段は温暖な土地なので、雪など滅多に降らないらしい。ギルバートはそう言っていた。



村に到着し、ギルバートに先導され、一番大きい建物へ向かった。



目つきが鋭い、背が低い痩せた老女が出迎えてくれる。



「待っていたよ、ギルバート、それと旅のお方、ワシはこの村の村長メリダじゃ」



どことなく、不気味な印象を与える。白髪は伸び放題で手入れをされておらず、眉間には常に険しい皺が張り付いていた。



「メリダのばあさん、手紙をありがとうな、早速だが、娘はどこにいるんだ?」



メリダはゆっくりとした足取りで、テーブルまで移動し、コップに湯気の立った液体を入れた。



「すぐに案内するさ、じゃが、先にこれを飲みなされ、この異常な寒さに耐えてきたんじゃろ、温まりなさい」



俺たちはお茶のような薄く色のついた液体を口にする。



「実はな、この雪はもう一週間も降り続いておる」



ギルバートがお茶に口をつけたのを見て、メリルが言う。



「何が原因だ? ここは本来雪が降らない土地だ、さすがにおかしいだろう」



「ああ、そうじゃ、理由は分かっておる、お主は聞いたことがあるか? 氷雪の魔女の話を」



「この村に伝わる伝承だったか、ここは妻の生まれ育った村だ、俺は部外者だからあまり詳細までは知らない」



「昔この辺りに住んでいた魔法使いがおった、その魔女の力はあまりに強大じゃった、世界の全てを凍りつかせることができたらしい、氷雪の魔女は大賢者によってこの地に封印された、しかし、その力は完全には抑えきれなかった、その為に大賢者の末裔である我らがこの地を守り続けているんじゃ」



メリダはギルバートに視線を向ける。その目には躊躇いがあった。



「……魔女はこの地に住む誰かの魂に紛れ込む、そして、6日間雪が降り続き、7日目に完全に復活する、周期は不規則じゃ、じゃからワシらは今までその対応をしてきた」



対応という言葉がどんな意味なのか、俺は直感的に悟った。メリダは表情を恐ろしく歪めて言った。



「雪が降り続けば、ワシらはその魔女を探し、殺してきた、正しい者を殺せば雪が晴れる、そうやって魔女の復活を阻止するのが、今まで何度も繰り返されてきたワシら一族の務めじゃ」



ギルバートはさっと窓の外を見た。雪が降り続いている。そして、なぜこのタイミングでメリダがこの話をしたのか理解した。



目にも止まらないスピードだった。ギルバートのホルスターから銃が取り出され、銃口がメリダの額に押し当てられた。



「おい……俺の娘はどこだ?」



底冷えするような声だった。普段のギルバートからは想像も出来ない。メリダはその反応を予想していたのか、一切動揺を見せなかった。



「安心なさい、メアリーを殺してはおらん、ただ彼女が目覚めたタイミングと雪が降り出したのが同じじゃったからな、村人はメアリーを疑っておる、今はワシがそいつらを抑えて、メアリーを裏山の牢屋に軟禁しておる」



「俺は娘をここから連れ出す、今すぐな」



「魔女の化身となった人間を無理矢理この村の外に出すと封印が切れて、復活してしまう」



「俺の娘は魔女とは関係ない」



ギルバートは強引にメリダを振り払い、出て行こうとする。メリダが腹の底から大声をあげた。



「じゃから!じゃからお主らに頼みたい! まだ雪が降り始めて5日目、あと2日ある、もしこのまま最終日に行けばワシらは世界を救うため、1人ずつ家族を殺していかなくてはならん、頼む、この村から魔女の化身を見つけてくれ、もう家族を失いとうない!ワシの、ワシの母親は魔女の化身になり、昔殺された」



メリダが涙を流し始める。ギルバートは悔しそうに唇を噛み締めた。どこまでも非情になりきれない自分に腹が立つのだろう。



「いいだろう、だが魔女の化身が見つからないときは、お前らを殺してでも娘を連れ出す」



「それでよい、ありがとう、ギルバート、魔女の化身はその者の記憶を全て知った上で、依り代のふりをしておる、会話をすればボロを出す可能性もある、どうかこの村にいる魔女の化身を探しておくれ」



こうしてナルベス村の住人から魔女の化身を探すイベントが始まった。細かいルールもこの後、メリダから説明された。



まず村人たちと会話して、誰が魔女の化身か推理する。そして、メリダに伝える。あとはメリダが抱える実行部隊と呼ばれる者達がその者を殺害する。



それで雪が晴れればクリア。正解したということだ。不正解ならば次の候補を報告しなければならない。3回間違えるとイベントは終了する。ここに来て魔女狩り推理ゲームが展開されるということだ。



ちなみに魔女は封印の影響で自分からこの村を出ることは出来ないらしい。当然の設定だろう。自分で出れて完全復活できるなら、誰だってそうしてる。



完全復活するまで魔女は一切特殊な力を持たない。だから、反撃をされることもない。そして、魔女の化身は男である可能性もある。



俺とギルバートは早速、捜査に向かった。まずは裏山の牢屋に向かった。メアリーに会うためだ。



裏山には洞窟があり、その入り口には鉄格子があった。奥で1人の少女が毛布に包まっている。炎の魔石のランプもあり、洞窟の中は暖かくしてあった。



「メアリー、分かるか、俺だ」



ギルバートが声をかけるとメアリーは顔をあげた。ツインテールの幼い少女だ。ギルバートと同じ髪の色をしていた。色白で目がパッチリと大きい。将来は美人になるのだろうと予想できた。



「パパ!」



メアリーは毛布を跳ね除け、鉄格子の前まで走ってくる、ずっと寝ていたため足が弱いのか、途中でこけそうになるが何とかたどり着いた。



「パパ! 私、治ったの、これでパパと一緒に暮らせるの」



ギルバートは鉄格子の間から伸ばされた小さな手を掴んで笑った。



「ああ、これからはずっと一緒だ」



優しい手つきで、メアリーの髪を撫でる。メアリーは少しくすぐったそうに身をよじって笑った。



「あと少しだけ待っていてくれ、問題を解決したら迎えにくるからな」



「うん、パパ、頑張って!」



メアリーと別れ、俺たちは村人への聞き取り調査を始めた。何人もの話を聞き、怪しい人物をピックアップする。



夕方になり、俺たちは村の集会所で最期の打ち合わせを始めた。



容疑者を俺なりに3人に絞った。1人目はペドロ。村の奥に住む頑固なお爺さんだ。この男は魔女の復活を望んでいるらしく、異端として村八分にされている。俺たちが話を聞きに行っても、取り付く島もなく追いかえされた。



あからさまに怪しいので逆に犯人ではないとも思える。



2人目はナタリー。若き未亡人だ。大人しく清楚で、どことなく雪女のような印象を受ける。何も見た目で疑っているのではなく、近所の人の話だと、雪が降り始めた頃、人が変わったように家の中で大笑いしていたらしい。



3人目はピーター。メアリーと歳の変わらない少年だ。本当は村の外に父親と行く用事があったが、雪が降り始めて急な体調不良を訴えて、部屋に引きこもったらしい。結界の外に出れないことを隠すためだと推理できる。



俺は迷ったが、その中の1人を決め、メリダに魔女の化身として報告した。俺は今回攻略情報を一切見ていない。こうゆう推理イベントは犯人が分からない方が何倍も楽しめるからだ。



俺が選んだのはピーター。明らかに怪しくない意外性のある人物だからだ。メリダはお抱えの黒装束の部隊に指示し、彼らは忍者のように姿を消した。



しばらくして、1人の黒装束が現れ、メリダに耳打ちする。メリダは頷いて、俺に言った。



「まだ雪は晴れん、不正解じゃ」



俺は落胆した。結構自信があったのだが。しかし、まだチャンスはある。次に賭けよう。



俺がそう考え、もう一度推理を始めたとき、それは起こった。



「この人殺し!」



投げられた石が俺の額に当たる。女性が涙を流しながら、石を投げている。それを男が止めている。俺は訳が分からなかった。



「私の……私の息子を返して!返して!」



ようやく理解した。それと同時に背筋が寒くなった。これはゲームだ。ゲームならば、NPCが死んでもそれはイベントの一部だ。だから、俺は何も思ってなかった。けれど、確かに俺は人を殺す指示を出した。そして、結果として何の罪もない少年を殺した。



女を止めていた男が泣き崩れる女を支えながら、俺に顔を向けた。



「あんたは間違ってねぇ、この村の掟に従っただけだ、けどな、心はそう上手くコントロールできねぇ、お前を殺したくて殺したくて仕方がないって気持ちは一生消せねぇ、これが終わったら二度とこの村に来ないでくれ、俺はお前のような人殺しになりたくねぇ」



俺は吐き気がした。この仕打ちは何なのだろう。俺はゲームのルール通り、1人を選んだだけだ。俺は何も悪くない。



「さあ、次を選んでくだされ」



そんな俺にメリダが容赦なく声をかけた。




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