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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第2章 英雄の成長
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新しい仲間



ポポスの件をラインハルトに丸投げし、俺達は鍛冶場を訪れた。鍛冶場もナルベス村にはないので、ここで準備しておく必要がある。



鍛冶場ではダインが真剣な表情で剣を打っていた。こう見ると職人としてカッコいい男に思える。集中していて俺たちが入ってきたことにも気づいていない。



俺は入り口近くの男からリペアパウダーを購入する。そのまま奥へ進み、俺たち用の窯の前で腰を下ろす。



武器には耐久値があるため、長旅の前にはリペアパウダーを合成して全回復をさせておくのが常だった。俺はダイダロスを窯の中に入れ、上の穴からリペアパウダーを入れる。これでダイダロスの耐久値は全回復した。



リンのエクスカリボーはそもそも最大耐久値が1の特殊品だから、全回復させる必要はない。



エクスカリボーの真価は追加で付加するスキルによって発揮される。クリティカルが発生すれば、状態異常スキルは100%発動するし、ライフドレインなども通常の何倍もの効果に跳ね上がる。



現在のエクスカリボーは、空きスロット4つに対し、3つに『爆砕』『渾身』『運任せ』が入っている。最後の1つは空いている。



しかし、スキルは一度付けてしまえば、変更することが出来ない。まだ温存をしておきたい。



次に俺たちは教会に向かった。今、グラディエーターを極めた状態のままなので、この旅で手に入れる経験値が無駄になってしまう。レベルに関しては経験値補正があるが、職業熟練度に関しては経験値補正がないので、自分よりレベルが下の敵との戦闘でも意味がある。



しかし、ここでまだ極めていない僧侶や盗賊などの初級職に就くことは憚られる。何が起こるか分からない旅で、初級職によるステータスダウンは致命的だ。



ならば今就くことができる上級職から選ぶべきだろう。今選べるのは2つだ。



バーバリアン……武道家と道化師を極めることで就くことができる。守りを捨てた攻撃特化タイプ。



ウォーロック……魔法使いと武道家を極めることで就くことができる。物理と魔法の両方使えるバランスタイプ。



俺は迷う。やはり盗賊を極めておきたかった。盗賊があれば、そこから進める上級職に有益なスキルがいくつも揃う。



しかし、ここはウォーロックに決めた。やはり盗賊の攻撃力大幅ダウンは何が起こるか分からないこの先で危険過ぎる。バーバリアンは攻撃特化だが、既にバーサーカーとグラディエーターで攻撃スキルは潤沢に揃っている。ここは魔法でも対応しやすいウォーロックがいいだろう。



今日も艶やかな金髪を靡かせるランダルに告げ、俺はウォーロックになった。



準備は全て完了した。俺は宿屋に留守番しているポチを迎えに行く。昼寝していたポチを起こし、いつもの店で昼食を取る。相変わらずリンは俺の倍の量を頼んでいた。



俺はカレーっぽい謎の料理を頬張りながら、頭の中でシミュレーションを行う。



まずガリア山脈を越える。それはナルベス村への近道であることが理由ではあるが、実は別の理由もある。それはガリア山脈の山頂にある遺跡だ。ジャスパー対策をする必要がある。



考古学者ジャスパーは仲間になるキャラクターであり、固有イベントにいくつもの遺跡を共に探索するものがある。



しかし、これが罠で、全ての遺跡をクリアしてしまうと天地崩落のオーパーツというアイテムが手に入り、ジャスパーは『天地崩落』というユニークスキルを得る。



そして、力に呑まれたジャスパーとの戦いが始まる。映画などによくありそうなストーリーだ。



このときのジャスパー戦がやはり例に漏れず無理ゲーだった。本来ジャスパーは弱い。遺跡探索でもジャスパーを守ることがかなり面倒だった。



しかし、『天地崩落』を会得したジャスパーはまるで別物だ。効果は自分の周りにのみバリアを張り、その外側の世界を崩壊させる。



空や大地がひび割れ、そこから紫色の稲妻がほとばしる。回避は不可能であり、断続的に特大ダメージを受け続ける。



効果時間が長く、お手玉エスケープでも耐えきれない。ジャグリングの効果時間より長いので、終わった瞬間に特大ダメージを受ける。それ以前に空中に投げたポーションが破壊されるだろう。



攻略の仕方は主に2通り。1つはスキル発動までにジャスパーに接近し、ぴったり張り付いてバリアの内側に入る。



ジャスパーは戦闘開始と同時にスキルを発動するので、どれだけ素早さが高くても発動前の接近は絶対に間に合わない。だから開始直後に『イリュージョン』を使い、偶然ジャスパーのすぐ近くに移動すれば勝ちという完全な運ゲーだった。



もう1つはレベル300以上まで上げ、魔法防御を高める装備で固め、魔法ダメージによるノックバック無効の腕輪を付け、『アイテム連続使用』のスキルを手に入れ、HP100%回復するエクストラポーションを60個以上揃える方法だ。



天地崩落発動中、ひたすらエクストラポーションを使用し続けて、耐え忍ぶ。ちょうど50個と少し使ったタイミングで天地崩落が終わる。クールタイムはそこそこあるので、その間にジャスパーに接近すれば倒せる。



ちなみに見た目が稲妻なので、雷属性無効や吸収の腕輪で耐えられるように思えるが、なぜか無属性の魔法であり無効にできない。無属性の魔法を無効にするスキルや装備はLOLには存在しない。



『魔法ダメージ無効』というスキルもあるが、それは敵専用であり、主人公や仲間は所有できない。『物理ダメージ無効』のスキルも同様だ。



物語後半では敵に合わせて、属性無効の腕輪を付け替えながら戦っていく。右手と左手で二属性を無効にできる。



だからこそ、アリアテーゼは強敵だった。唯一、全属性魔法を使用してくる敵だ。放たれる属性によっては一気に全員瀕死になる危険があり、討伐には運が絡んだ。



どのみち、無効や吸収装備はもっと高難度のエリアに行かないと手に入らない。現状ではまだ厳しいだろう。



もしこの現実世界でジャスパーが『天地崩落』を手に入れたら、世界征服でもし始めるだろう。性格が変わったジャスパーはそれぐらいする。『天地崩落』を1回使用されるだけで、1つの街が軽く滅ぶ。必ず阻止しないといけない。



「レン、ガリア山脈の敵を教えて」



俺より先に食べ終わったリンが話しかけてくる。以前の邪龍のことから、事前に敵の種類、モーション、スキル、クールタイム、行動パターンなどを把握しておく重要性に気づいたのだろう。もはや、ゲームのキャラではなく、プレイヤーの考え方だ。情報の重要性を理解している。



「そうだな、じゃあ出現する敵を順番に言うぞ」



俺は敵の詳細を事細かくリンに伝える。シャドウアサシン級の回避術がある彼女なら、情報さえあればガリア山脈での戦闘は問題ないはずだ。



打ち合わせを終え、ちょうど良い時間になったので、俺たちは西門に向かった。そこでは既にギルバートが壁にもたれて俺たちを待っていた。



風に靡く使い古されたコートに、目深に被るデンガロンハット。男の俺から見てもカッコよすぎる。絵になる男だ。



ラインハルトのようなチャラいかっこよさとは違う。渋い男の魅力が溢れ出している。



「レンの旦那、本当にありがとう、俺だけではガリア山脈は越えられないからな、旦那のおかげで随分早く到着できる」



「仲間のためならそれぐらいするよ」



「仲間か……嬉しい言葉だ」



ギルバートは照れ臭そうに笑った。そして、俺の後ろにいるリンとポチにも頭を下げる。



「嬢ちゃんもありがとう、邪龍との戦いは遠くから見てたよ、嬢ちゃんの強さに正直驚いた、今回の旅では俺は足手まといかもしれないが、よろしく頼む」



「私なんてまだまだよ、こちらこそよろしく、ギルさん」



リンとギルバートが握手を交わす。ギルバートとはレベリング期間、酒場でよく飲んでいた。ギルさんと呼ぶほど、リンは打ち解けていた。



「ワン公もよろしくな」



ポチは前足の肉球をギルバートの膝に2回ポンポンと押し当て、先に門へと颯爽と歩き出した。



その背中は、「何をしている、早く行くぞ」と言っているように頼り甲斐があった。ギルバートのかっこよさに影響されているのだろうか。



こうして俺たちは新しい仲間と共に城下町を出発した。





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