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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第1章 英雄の目覚め
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邪龍戦



邪龍が森から姿を見せる。禍々しい漆黒の鱗に覆われ、凶悪な叫び声を天に響かせる。



場所はグランダル城下町南の草原。俺たちは現れた邪龍を離れた位置から眺めていた。



「準備はいいか? 全員、自分の役割を忘れるな」



俺の声に緊張が滲み出ている。



「ふっ、この僕に任せておいてくれ、君こそ足を引っ張らないでくれよ」



「……ああ」



「はい、みなさん、頑張りましょう」



俺たちは頷き合い、一斉に行動を開始した。



戦いの火蓋は落とされた。俺とリンは先行して全速力で邪龍に向かう。そんな俺の横を風のように抜き去り、金髪のイケメンが先行した。まだラインハルトの方が素早さが高い。



少し離れて、デュアキンスとネロとポチが続く。近づくにつれて、邪龍の大きさが際立ってくる。邪龍は獰猛な目で俺たちを視認した。



向かう俺たちに邪龍は尾で薙ぎ払いを放った。意外にリーチが長く、俺達の遠距離攻撃と同じくらいある。俺とリンは咄嗟に伏せて頭上に尾をやり過ごす。この攻撃も全て打ち合わせ済みだ。ラインハルトも華麗に空中を舞い、回避していた。一々全てがキラキラしている。



「ハハハ、そんな攻撃、この僕には通用しないよ」



イケメンボイスでそう言って、一気に肉薄し、風のよう邪龍の足を切り裂いた。



やはりラインハルトはムカつくが能力が高い。あの邪龍の防御力の上からでも十分なダメージを与えている。



「さあ、僕の力を存分に味わうがいい」



華麗に舞いながら、いくつもの鋭い剣閃が邪龍を襲う。俺達も少し遅れて邪龍の元にたどり着いた。



リンはエクスカリボーを構え、邪龍の腹に向け『五月雨突き』を放った。高速の全クリティカル五連撃が決まり、大ダメージを与える。そのダメージ量は先程から足を切り裂いているラインハルトより遥かに多い。ラインハルトは目を丸くして、びっくりしていた。



もちろん俺たち3人はリンによる『ハイガードアップ』『ハイパワーアップ』『ハイスピードアップ』でステータスを底上げしている。



一方、俺は何もせずただ立ち尽くす。邪龍の踏みつけの範囲に入らないように最低限の動きで待つ。



「ふっ、恐れをなしてしまったのかい? まあ無理もない、君のような凡人は僕とは違うからねぇ」



我に戻ったラインハルトは俺の様子を見て、調子よく煽り始める。ムカつくが気にしない。俺はただその時を待った。邪龍は大きく息を吸い込み、頭を下げた。

この時を待っていた。



『破滅の火炎』邪龍の広範囲ブレス。紫色の炎を吐き出す。まともに食らうと、かなりのダメージを受け、さらに炎が消えず継続ダメージがある。炎を消す聖水がなければ、一度でも受ければ終わりだ。



俺は下がった邪龍の頭に飛び乗った。邪龍は巨大であるため、このタイミングでないと頭の上に乗れない。



邪龍は口を大きく開いて炎を吐き出す。その先にはネロたちがいた。ネロは落ち着いた動作で手を前に差し出す。



緑色の障壁が現れ、炎を防ぐ。炎はその障壁により分断され、左右に別れて遥か後方まで届いていた。



ネロは俺も覚えている『マジックバリア』のスキルを使っただけだ。しかし、俺が使用するのとは天と地の差がある。



ネロは全キャラの中で最も高い魔法防御を有する。『マジックバリア』は性能は魔法防御に依存する。彼が使えば、物理攻撃以外は完璧に防げる。使用中は常にMPを消費するが、ネロは最大MPもかなり高い。



更にポチの『ワンダーランド』も発動している。これで近くにいるネロは自動的にMPが回復していく。消費量の方が多いが、かなり長い時間発動を続けられるだろう。



ネロ達が少し離れた所にいてくれるから、邪龍はブレスを発動してくれる。全員が近距離になれば、ブレスは選択されない。



俺は邪龍の頭にダイダロスを突き刺して、スキルを発動する。魔力を吸収し続ける。邪龍のMPはアホみたいに高いので、空になることはない。スキル発動時間、目一杯溜めることができる。



邪龍のブレスが終わると同時にダイダロスのスキル継続時間も終わった。本来の俺の攻撃力が300ぐらいで、今は『ハイパワーアップ』の効果で600、ダイダロスの攻撃力が800だが、魔力をフルに溜めたので、ダイダロスは4000ほどの攻撃力を有する。



ダイダロスは強力ではあるが、MPを吸収するのに時間がかかる。ずっと触れさせていないといけないので、普通の敵ではフルに溜めることは出来ないだろう。邪龍のようにしばらく動かない敵ならいいが、ほとんどの敵はダイダロスのスキル発動時間が終わる前にMPが空になってしまう。邪龍はダイダロスをフルに溜められる条件が揃った相手だ。



そして、間髪を置かず黄金コンボを放つ。『ドッペル』からの『捨て身切り』だ。邪龍の防御力は800あるが、頭はウィークポイントなので関係ない。4600ダメージ。これが捨て身切りの効果で3倍になり13800ダメージ、更にドッペルにより分身しているので2倍、27600ダメージだ。



普通に攻撃していれば、俺の元の攻撃力とダイダロスの攻撃力合わせて1100程度。邪龍の防御力700を差し引いて400のダメージ。今の一撃で69回分の攻撃をしたことになる。



邪龍はブレスが終わり、顔を上げる。俺は飛び降りて地面に戻った。頭に乗ったままだと振り払われてかなり遠くまで飛ばされる。また接近するのに時間がかかってしまう。



邪龍が天に向かって吠えた。俺は振り返り、デュアキンスに合図を送る。デュアキンスは頷いて魔法を行使する。【ディスペル】魔法を発動する前にキャンセルすることができる魔法だ。



邪龍の発動しようとした【グラビティ】が空中で霧散した。



【ディスペル】は有効な魔法だが、万能ではない。まず発動のタイミングが合わなければキャンセルできない。邪龍のように分かりやすいモーションをしてくれるなら成功しやすい。また上級魔法以上は効果がない。物語後半には敵のほとんどが上級魔法を使ってくるため、雑魚相手にしか使えない。そもそも雑魚相手ならそんなことせずに切った方が早い。



【グラビティ】をキャンセルされた邪龍は次に爪で近距離にいる俺たちを攻撃してくる。俺とリンは余裕を持って回避する。もはや俺たちの回避レベルがあれば、この程度は造作もない。



ラインハルトもヒラリと回避する。彼は元々回避が上手いキャラの筆頭だ。このぐらいなら避けられる。



俺は行けると確信した。あとはこれを繰り返せば、第1フェーズは終了できる。前衛の3人でHPを削り、後方でネロに守ってもらいながら、デュアキンスが厄介な【グラビティ】をキャンセル、そして、邪龍にブレスをあえて使わせて、俺のダイダロスで大ダメージを与える。



俺達は黙々と作戦を続ける。5回目のブレスの後、邪龍に変化が起こった。羽を動かし始める。



「みんな、第2フェーズだ、打ち合わせ通りに!」



邪龍は空中へと飛び上がる。俺たちは急いでネロの元に向かった。邪龍が上空から雨のように紫の炎を降らせ始める。



「レンさんは面白い戦い方をしますね」



間に合った俺とリンに、ネロはマジックバリアを発動して炎を防ぎながら言った。



少し遅れて、ラインハルトもマジックバリアに滑り込んできた。



「はぁはぁはぁ、ふっ、僕はまあ全てを回避することもできるが、ここは天才くんに花を持たせてあげよう」



全力ダッシュして滑り込んだ癖に、ラインハルトは涼しげに言う。



本当にネロがいてくれて良かった。ネロがいなければ、この炎の雨を常に回避しながら上空の邪龍と戦うことになっていた。第2フェーズの難易度は大きく下がった。



これで強力な攻撃魔法でもあれば、ネロは主力になれるが、残念ながら攻撃魔法はほとんど使えない。



「よし、みんな、第1フェーズはクリアした、第2フェーズに向かおう」





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