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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第1章 英雄の目覚め
40/370

イレギュラー



デュアキンスは持ち前の寛大さで俺を許してくれ、炎でHPが1になっていたノーライフキングを【ホーリー】で一撃で倒した。



ノーライフキングのドロップアイテムをちゃっかりと回収しておく。



それから俺たちは、王に解決の報告に行くデュアキンスと別れ、酒屋に向かった。俺なら嘘の情報を教え続けられていたと分かれば許せないが、デュアキンスの懐の深さに脱帽した。



酒屋で食事を取りながら、リンと邪龍の情報を共有する。俺の持てる全てを教え込む。敵のモーション、当たり判定、ダメージ量、回避のコツ、邪龍のことなら誰よりも詳しく話せる自信がある。



リンはなぜそんなことを俺が知っているのかについては言及してこなかった。そもそも明日邪龍が現れるという予言に近い俺の言葉を信じてくれている。



きっと俺がなぜそこまで知っているかを聞かれたくないと思っていることを感じ取ってくれているのだろう。



邪龍討伐は超えなくてはならない壁だ。



もし俺が失敗すれば、現実になったこの世界で邪龍は罪もないこの城下町の人々を滅ぼすだろう。それはゲーム時代にはなかったリスクだ。



死ねばやり直すだけ、ゲームではそれが当たり前だった。何度も何度も死に、その度に学んでいった。しかし、この世界で死はすべての終わりを意味する。ゲームでは味わうことがなかった莫大なリスクが俺にのしかかる。



「なんか、レン、楽しそう」



リンからそう言われ、俺は首を横に振った。楽しくなんてない。怖いだけだ。



「明日、生き残って上手い酒を飲むぞ」



リンは力強く頷いた。ポチも偶然なのか理解したのか、俺の膝に肉球を押し当てた。



______________________



夜が明ける。既に起きている俺たちは荷物をまとめていた。



宿屋を出ると、ちょうど王国の兵士が大慌てで走ってきた。彼が来ることは分かっていた。イベントは開始している。



「勇者様、国王がお呼びです、大至急、来て下さい!」



俺たちは王国兵に連れられて、グランダル王城に向かう。俺は緊張していた。ここで一時的に仲間になる高レベルキャラの2人が決まる。



この仲間によって攻略難易度は大きく変わる。ハズレのキャラは、爆裂狂フレイヤ、心剣のゲンリュウ、怪盗ラパンなどだろう。



この中から2人選ばれたら、実質俺とリンだけで戦うことになる。



当たりと言われるのが、聖騎士ラインハルト、拳闘ドレイク、殺し屋ベロニカ、怪物狩りのメリーなどがよく挙げられる。



邪龍は魔法防御がかなり高く、魔法使いキャラの需要は低い。それに素早さがある程度高く、AIが賢い回避できるキャラでないといけない。



フレイヤは言うまでもない。フレンドリーファイアランキングでエルザの次に不動の2位を獲得している。



一方、ラインハルトやベロニカ、ドレイク、メリーは邪龍の防御力を突破する攻撃力を持ち、ドレイク以外は素早さもそこそこ高い。ドレイクは高HPに高防御力なので、邪龍の攻撃を回避しなくても数発は耐えられる。



俺たちは玉座の間に通され、そこでグランダル王と謁見した。



「よく来てくれた、勇者よ、実は今朝報告があった、南の山脈にある洞窟から、封印されし邪龍が現れたと」



俺は思わず欠伸をしてしまった。このくだり、俺はゲーム時代に何千回と聞いている。邪龍に殺される度に聞いていたので、もはや一言一句諳んじることができる。



俺は適当に聞いているふりをして、王の言葉を右から左へ受け流す。



「……もちろん、君たちだけに戦わせるつもりはない、このグランダル王国にいる強者を同行させるつもりだ、既にこの場に呼んでいる、入ってきてくれ」



俺は振り向いて、先ほどの暇そうな態度を改めた。何しろ、ここでの人選で戦い方が大きく変わる。



扉が開き、一人目の人物が現れた。



「ふっ、この僕にかかれば邪龍程度、余裕で勝てるさ、僕は完璧だからね」



艶やかな金髪、全身からキラキラと気品が溢れ出る。そのイケメンは俺の顔を見て、表情を変えた。



「き、君はあの時の! くっ、私は君のことを認めてはいないが、平和のためだ、仕方なく手をかしてやろう、光栄に思うがいい」



俺は微妙な気分だった。ラインハルトを引き当てた。それは本来喜ばしいことだが、やはり俺はこの男が大嫌いだ。



次の仲間が続いて入ってくる。



「……また君か、何かと縁がある」



死霊術士デュアキンスはその死人のような目で俺を映していた。



デュアキンスは当たりではないが、ハズレでもない。後衛としては充分に戦力となるだろう。



まさかの知人が2人だった。あまりコミュニケーションが得意ではない俺にとっては良かったのかもしれない。



俺は王の方に向き直ろうとした時、もう一度扉が開いた。



「えっ……」



俺は何千回とイベントを見ているので、思わず予想外のことに声を出してしまった。



扉から小柄な少年が姿を現した。雪のような純白のくせっ毛が揺れる。その前髪の隙間から、緑色に光る瞳がある。



華奢な体格で、肌の色も髪と同様に白い。緑色のトレンチコートのような服に身を包んでいた。



「初めまして、僕は……」



俺は彼を知っている。二つ名は天才。全キャラ中、トップクラスの魔法防御を持ち、精霊魔法を覚えることができる5人の内の1人。



「ネロです、よろしくお願いします」



ゲームでのイベントの路線(レール)から外れた。本来は2人のはずが、3人目の仲間が現れた。それに本来は仲間はグランダル城下町に拠点を置くキャラから選ばれる。ネロは魔王城に一番近い最果ての村にいるはず。



仲間が増えるのは嬉しいはず、ネロは十分に戦力になる。それにも関わらず、俺はぞっとしていた。



イベントが路線から外れることがある。それはつまり俺の予期せぬイレギュラーが起こる可能性があるということだ。それはこのLOLの世界であまりに恐ろしいことだった。



俺はゲーム時代の知識をフル活用して、生き延びている。もしそれが通用しないことが起これば、この無理ゲーの世界で俺は死ぬしかないだろう。



「レン?」



俺が深刻な顔をしていることに気づいたリンが小さく声をかける。



「ああ、悪い、何でもないよ」



その時が来たら、その時考えればいい。少なくとも邪龍討伐に関してはネロが追加になったのはプラスになる。俺は一抹の不安を残したまま、気持ちを切り替えた。



「勇者よ、彼らと共に邪悪なる龍を倒してくれ、この国の平和は君にかかっている」



王の言葉は終わり、俺たちは会議室へ通された。邪龍討伐の作戦会議のためだ。



「俺は昔の文献で邪龍のことを知っている、この世界で一番詳しい自負がある、俺にこのチームのリーダーをさせてくれ」



まずは指示を聞いてもらわないといけない。邪龍戦では全員が自分の役割を果たさない勝ち目がない。



「まず前線は俺とリン、ラインハルト、後衛はデュアキンスとネロ、ポチで行く」



俺たちはこの貴重な時間で最大限の準備を進めていった。



いよいよ、LOLの無理ゲー代表イベントが始まる。









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