英雄の生まれた日
無心で頭を叩き続け、ついに終わりの時が来た。最後のコツっという音と共に巨神兵の体が青い粒子となって消えていく。
大量のダイアログが視界の端に流れ出す。
30000の経験値を取得しました。
レベルか2に上がりました。
レベルが3に上がりました。
レベルが4に上がりました。
……
レベルが26に上がりました。
スキル『ハイジャンプ』を獲得しました。
スキル『ローリング』を獲得しました。
スキル『サイドステップ』を獲得しました。
スキル『バックステップ』を獲得しました。
スキル『バックロール』を獲得しました。
魔法【ケア】を獲得しました。
魔法【ファイアボール】を獲得しました。
レベルアップが終わり、無職で手に入る初期スキルは全て手に入れた。これで序盤は随分と安全に戦える。一番死にやすいのはレベル1からのレベル上げなので、良いスタートを切ることができる。
俺はすぐに巨神兵の足元を見た。ドロップアイテムを確認するためだ。
青い粒子の奥で光が見えた。来た。ドロップアイテムを落とした。
俺は満足した。リセットが効かないこの状況ではドロップしないことも十分に考えられた。
その光はある形を作り出す。俺は言葉を失った。
光が消え、そのアイテムが現れる。それは紛れもなく、巨神兵のレアドロップだった。
「奇跡、きたぁぁぁあ!」
俺はつい絶叫した。まさか一回でレアドロップを引き当てるなんて、奇跡としか言いようがない。
そのアイテムに手を伸ばすと、アイテムはすっと手に吸い込まれるように消えた。ダイアログにメッセージが浮かぶ。
神兵の腕輪を手に入れた。
「うおおおお! やったあああ!」
後ろで魔王が、お前の力は見届けた…、などと何か言っているが完全に無視して、走り回る。勝利の雄叫びを上げた。
「うひゃひゃひゃ、ぐふふ、やっふぅ!」
国王も何か言っているが、無視して転がり回る。新しく手に入れた移動スキルを連発して、飛び回る。
これは装飾品に分類される装備だ。防御力や魔法防御力も初期装備とは比べ物にならないほど上昇する。しかし、真に優れているのはその特殊効果だった。それに関してはまた追って説明しよう。
俺は勝利のダンスを終え、落ち着いた。俺たち英雄のテンションを一部の人間は気持ちが悪いと揶揄する。彼らは何も分かっていないのだ。不可能を覆したときのこの圧倒的に多幸感を。喜びを全身で表さない英雄がいるだろうか、いやいない!反語!。
俺はテンションを通常状態に戻した。今思うとここが現実世界だと忘れていた。国王達の反応を伺う。彼らは何も気にしていないようだ。魔法で巨神兵の動きを封じ、25分間も苦しんだにも関わらず、微笑んでいる。
俺は無事、戦闘チュートリアルを終え、旅立ちの時を迎えた。広間の扉が開き、外の世界が見える。
「勇者よ、多くの仲間を集め強くなり、そしてこの世界を救ってくれ」
王からの言葉に俺は頷き、光の中へと歩き出す。ここから、俺の冒険は始まる。
元いた世界に未練はない。なぜこの世界に迷い込んだのかも分からない。だけど……
だけど……俺はこのLOLの世界に来れて幸せだ。
この理不尽で努力が報われない、一歩先には常に死が手招きしている、命がいくつあっても足りない、途方も無い絶望が蔓延する無理ゲーの世界で。
俺は英雄となる。
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