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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第6章 英雄の挑戦

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全身全霊



ーーーーーレンーーーーー



「さてどうするか」



「ここで待っていれば皆戻って来るのではないか?」



「いや、おそらくその可能性は低いと思う」



もしストーリーメーカーが関与しているなら、戻ってくることはないだろう。



「奈落迷子センターに行っている可能性はありませんか?」



「迷子センターが奈落にあるのが驚きだが、きっと誰もその迷子センターの場所を知らない」



バレンタインとアスモデウスと一緒に作戦会議しているが妙案が浮かばない。そもそも行き先に見当がつかないのだから探しようがない。適当にふらふら探すしかないか。



「適当にその辺を探すしかないのではないか?」



バレンタインと意見が一致してしまい、謎の屈辱感を抱いてしまう。



しかし、その方が良いのかもしれない。俺のパーティメンバーでも単独でこの奈落は厳しい。早く見つけるべきだ。



ポチはあれだけ言ったのに触れてはいけない亡者にパンチしそうだし、フレイヤは爆裂魔法で逃げ切れる可能性が高いが、エンドキューブに遭遇したら終わりだ。



当然デュアキンスは明らかな戦闘能力不足で、周りに誰かいないとこの奈落では生き残れない。エレノアもいくら戦闘能力があっても、一人では厳しいだろう。



「仕方ない。とりあえずその辺を探すか」



俺たちはとりあえず近くの脇道などを探索することにした。本当はメフィストフェレスがうろついている可能性がある中間層をあまり移動したくはなかったのだが仕方がない。



「もしユキの魂がある場所に近づいたら教えてくれ」



「もちろんだ。見覚えのある場所に来たら教えよう」



どうせ探索するなら、ユキの魂が輪廻する場所探しを兼ねるのが良いだろう。バレンタインの記憶がどれだけ当てになるかわからないが、今はそれに頼る以外ない。



「アスモデウス。あのストーリーメーカーという人物に心当たりはないのか? 前から奈落にいたとか?」



「ありません。初めて会いました」



俺より先に奈落の門を潜って侵入していたのだろうか。プレイヤー属性を持っているならそれも可能だ。俺を誘い込むために、名刺をそのままにしておいたと考えられる。



「一応……もう一つの可能性があるか」



まだ答えは出ないが、俺の頭にもう一つの可能性が浮かんでいた。














ーーーーーー竜王ーーーーーー



2人で襲ってきたモンスターを狩った。ハルは俺のスキルを把握した上で、俺がやりたいことを予想して動いている節がある。



優れた戦闘IQだ。脳内で膨大な処理をしながら戦っていることが伝わってくる。



「俺たちって結構良いコンビかもしれない。そう思わないか?」



お前が合わせているだけだろう。そう言いたいが、確かに戦いやすい。



「多少な」



「はは、素直じゃないね」



ハルは軽く笑って、短剣を鞘に収めた。



「ティアマトは俺のことを聞かないのか?」



「別に興味がない」



「それは連れない」



俺とは違いよく喋る男だ。顔に聞いて欲しいと書いてある。



「話したければ聞いてやろう。お前はなぜその先輩という男を追っているんだ?」



仕方なく質問すると、またぺらぺらとその先輩という人物の偉大さを語り始める。まるで自分のことのように自慢してくる。



話を聞く限り、とんでもない実力者のようだ。どうもハルの話は脚色が多いのではないかと疑いたくなる。



「だから、俺は……」



急にハルは口をつぐんだ。何か言いにくいことがあるのだろうか。

















「……裏切ることにしたんだ」

















俺はようやく理解した。ハルは俺と話したいのではない。



こいつは自己完結している。自分のために、自分を納得するために話をしている。



俺はただそんな自己満足に付き合わされただけか。



「自分の下した決断は迷ってはいけない」



助ける気なんてないが、勝手に口が回る。



「俺は己が決めたことに責任を持つ。そして、全身全霊で全うする」



俺も同じかもしれない。自分のために、信念が揺るがぬように自分に言い聞かせている。



決意するのは簡単だ。誰でもできる。だが、その決意を持ち続けること、風化させないこと、それができる者は限られる。



心は平静を望む。どれだけ強い憎悪も、どれだけ強い憧れも、時と共に風化する。それは心が自分を守るための自然の摂理。



永遠の思いに囚われることがないように、生物として記憶と共に風化させていく。



だから、俺は自分の決意を揺るがさないために、いつも自分に言い聞かせている。



俺はあいつに何もしてやれなかった。褒めたことも少ないし、上手い飯も食わせなかったし、裕福な暮らしもさせてやらなかった。



この世界を生き抜くための戦い方、生きる術を教えることしかできなかった。



そんなどうしようもない父親だった。だが、それでも俺は……。

















「ハル、正しいかどうかなど結果論に過ぎない。自分が決めた道なら信じて進め」



ハルが俺を見ている。その表情は穏やかなものだった。



そうか。誰かに認めて欲しかったのか。自分の決断が間違っていないと。



「先輩が教えてくれた通りだった……。ティアマト、君は1人の人間だ」



「何を訳のわからないことを言っている? 俺は竜人だ」



「違うよ。種族のことじゃない」



ハルはそれから何も言わなかった。何か納得するものがあったのだろう。もう余計な言葉などいらない。



俺たちは無言で歩いて行く。会ったばかりの男。一緒に戦うことで、少しは仲間意識はできたのかもしれない。



理由はわからないが、俺はこのハルという男に心を許しそうになっていた。



我ながら珍しいことだ。友などと口が裂けても言うつもりはないが。



「ここだね」



ハルが分岐路で立ち止まった。



「右に行けばベルフェゴールの部屋がある。左に行けば最深層への入り口だ」



「そうか。ここでお別れだな」



「ベルフェゴールは強い。正直、ティアマトでは倒すのは無理だと思う。でも、そんなこと俺が言っても行くんでしょ?」



「無論。俺はベルフェゴールを殺す」



「本当に頑固だね。生きてまた会えたら、酒でも飲もう」



「ああ、そうしよう」



俺はハルに背中を向けて、右の道へ進んだ。振り返ることなどない。



お互い生きて出会える可能性はどれだけあるのか。恐らく極めて低いだろう。



それでも俺はそんな未来を想像した。



「勝たなくてはな」



俺は怠惰の悪魔を殺す。己の全てを賭けて。全身全霊の力で。






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