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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第6章 英雄の挑戦

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怠慢の悪魔



ルシファーの『悪魔化』が始まる。



俺は全力で走り出した。間に合わせないといけない。白い光に包まれるルシファーの横を素通りする。



俺はルシファーの部屋へとつながる横穴へと駆け込む。あのストーリーメーカーという人物が出てきた通路だ。



後ろを振り返ると、『悪魔化』によりルシファーの体が膨張を始めていた。どうやらぎりぎり間に合ったようだ。



人型のときに倒せるなら、それで良かった。しかし、倒せなくても問題はない。



俺の勝ち目は完全に消えたが、俺にはそもそもルシファーに勝つ必要がない。この状況を打開する策を俺は持っている。



『スイッチ』



俺は巨大化し始めたルシファーと場所を交換する。



ルシファーはもともと俺がいた横穴へと移動する。『悪魔化』して巨大化するルシファーより、()()()()()()()()へ。



俺が振り返ると白い龍のような怪物は穴の中で巨大化し、途中で膨張が止まる。そして、完全に挟まった。



「ふうー、なんとか間に合ったな」



ルシファーの顔は反対側を向いており、おしりがこっちにある。後ろ足をばたばたしているが、全く身動きが取れていない。



これこそ、英雄たちの奈落御用達テクニック、『すっぽり悪魔』だ。



「まさか……レンさんはこれを狙っていたのですか?」



アスモデウスが複雑な表情で俺を見ている。



「ああ、俺とバクバクなら人型のときに勝てる可能性もあったけど、もし間に合わなかったら、狭い通路に挟もうと思ってた」



これはゲームでは有名なテクニックだった。奈落では戦闘用の広い部屋がいくつも用意されており、基本的に戦いは広い空間で行う。だから、『悪魔化』という巨大化が成立する。



そもそも『悪魔化』の発動条件が十分な広さが周囲にあることだ。狭い部屋では『悪魔化』を発動することができない。



しかし、特殊な方法で狭い通路で『悪魔化』させると挟まってしまい、身動きが取れなくなる。これを利用して身動きが取れない悪魔をちまちまと倒すこともできた。



ちなみに完全に『悪魔化』してしまうと狭い通路では『スイッチ』を使用することができない制限がある。『スイッチ』は相手がこちらの空間に収まることが発動の条件になっているからだ。



そのため、『悪魔化』が完成する前の、まだ内部フラグが人型状態のときに『スイッチ』を使用する必要があった。内部的にはまだ人型だが、スキルが進行していて後戻りができないタイミング。このタイミングで『スイッチ』を発動することで成功する。



ただルシファーは鉄壁の防御と自動回復のスキルがあるから、身動きが取れなくても倒せない。俺の勝ち目は確かに消えた。



だから、ここに放置する。俺からすると逃げ延びれば良いだけなのでわざわざ倒さなくて良い。『悪魔化』したルシファーは人型のときに使用できる『光歩』を使用できない。『悪魔化』のクールタイムが回復するまでこのままだ。



「皆に追いつこう」



俺はコミカルに後ろ足をばたばたするルシファーを放置して、避難させた皆を追った。



嫌な予感がしていた。



ストーリーメーカーは俺がルシファーと対峙したとき、他のメンバーを逃がすと予測していたのではないだろうか。あの状況では、俺にはそれしか選択肢がなかった。



もしそれを想定していたとすれば、俺をルシファーと引き合わせた理由は仲間との分断だ。ドラクロワの件も含め、ストーリーメーカーは明確に俺とパーティメンバーを引き離そうとしている。



俺の悪い予感は当たった。結局、俺は他のメンバーを追ったが、どこにも姿がなかった。完全にはぐれてしまった。



決められた脚本(シナリオ)に従わされているように思える。これがストーリーメーカーの手口。全てを計算して仕組んでいるとしたら、極めて知能が高い。



ネロとはまた別のタイプ。どちらかと言うと俺に近いのかもしれない。人間の心理というものをよく理解している。相手の行動原理を利用し誘導をしている。



一体何者なのだろうか。現実世界から来てなぜ俺を狙っている。記憶が消えていることがもどかしい。



結局、俺とアスモデウスとバレンタインの3人になってしまった。





ーーー竜王ーーーー



「気をつけてくれ。亡者は触れると死ぬから」



「わかった」



このハルという男、かなり奈落の情報に詳しい。自分も初めて来たと言っていたが、モンスターの性質や地理まで多少頭に入っているように思える。



戦闘能力も申し分ない。制限時間はあるようだが、瞳が金色に光るスキルを使用した後の能力値は、防御力以外全て俺を凌駕しているように見える。



「先輩なら最下層を目指すはず。とりあえず中間層に向かおう」



「ふん。俺はその先輩とやらに興味はないんだが、途中までは同行はしよう」



モンスターを蹴散らしながら、ハルの道案内で最短距離を進んでいく。



「ティアマトはどうして奈落に?」



「ある悪魔を殺すためだ」



別に隠す必要もない。



「それなら名前を教えてくれれば、持っている情報を共有できる」



「ベルフェゴール」



「……また厄介な名前を出してくるね」



「知っているのか?」



「場所もわかる。けど手伝うことはしない。俺は先輩に会わないといけないから」



「そこまで期待はしていない。情報さえくれれば自分で倒す」



「わかった。説明するけど、絶望しないで」



ハルがベルフェゴールのことを話し始めた。7つの大罪系の状態異常、『怠惰』を使用する悪魔。『怠惰』は受けるあらゆるダメージが1になり、代わりにその場から移動することができなくなる。



ベルフェゴールにはそのデメリットはほとんど意味をなさない。もともと一切移動せず、本体が動くことも攻撃することもない。ただ寝転んでいるだけらしい。代わりに優秀な部下たちを従えている。



その部下たちは心から従っているのではなく、呪いにより魂を乗っ取られている。ベルフェゴールの呪いは強力で、呪われた部下が他の者に呪いをかけ、広がっていく。



そうして戦闘能力がある者を自分の部下にしていき、ベルフェゴールは勢力を拡大している。奈落の中はもちろん、奈落の外でも意のままに動かせる大軍を持っている。



自分は一切動かないくせに、野心は人一倍持っている悪魔。奈落の王ハーデスの陥落を密かに狙っているらしい。



呪いのことはハルから聞かなくともあらかじめ知っていた。呪いが発動すれば、その者は魂を乗っ取られ、魂が消耗していく。寿命が削られていく。



その呪いを解く唯一の方法は本体であるベルフェゴールを倒すことだけだ。呪いは非常に強力で、呪術師などによって進行を遅らせることはできるが、やがて発動してしまう。だが、それを止める術が1つだけあった。



失われた古代の魔法、時魔法の使い手であれば、呪いの進行を永久に止めることができる。それが俺の調べたことだった。



「ベルフェゴールが厄介なのは、怠慢の効果が永続的に切れないことだ。怠惰が切れなければ倒すことはできない。まさに常に無敵状態」



本来、7つの大罪も含め、状態異常には効果時間が存在する。永続的に続くことはない。



だが、ベルフェゴールは例外だった。ユニークスキル『献上』を持っている。これは周囲にいる対象の特殊効果の効果時間を吸収し、自分の効果時間を伸ばすことができる。



ベルフェゴールは常に大量の部下を近くにおいており、お互いにバフの魔法やスキルを掛け合っている。それにより怠惰の効果時間が延長され続けていく。



ベルフェゴールとの戦いでは、こちらの特殊効果もすぐに『献上』の効果で吸収されて効果時間が終わってしまう。実質上、バフやデバフ禁止の戦いとなる。



戦闘においてバフやデバフは非常に重要な要素だ。先程ハルが見せた目が金色に光るスキルも使用できないのだろう。



「だから、ベルフェゴールにダメージを与えるためには、まず部下たちを全員倒して、ベルフェゴール1人にしないといけない。怠惰の効果が切れてやっと攻撃することができる。その部下は一体一体がかなり強いし、当然回復役などもいる。千人規模の大軍が常にベルフェゴールを守っている」



絶望とはこのことだな。皮肉にも俺と同じ鉄壁の守りということか。



「それでも戦うのか?」



「当然だ」



「冷静に考えれば、ティアマトが勝てる可能性はない」



「持久戦に持ち込もう」



「大量の回復役もいるし、部下一人一人の戦闘力はかなり高い。千人規模に物量で攻められたら、いくらティアマトでも勝てない」



「それなら考える。俺が勝てる方法をな。俺は絶対にあの悪魔を倒さなければならない」



「意思は硬いか……」



それでも俺はやるしかない。あの約束を果たすために、今まで進んできたのだから。



ハルは下に続く階段の前で足を止めた。



「この奥に中間層の守護者、ヘカテがいる。彼女のイベントをこなすか、戦闘で勝利すれば通ることができる」



「早い方が良い」



「なら戦闘しよう。ヘカテは闇魔法の使い手で、そこそこ強い。『悪魔化』される前に……」



ハルはヘカテという悪魔の詳細を話し始める。ハルのおかげでヘカテという悪魔との戦いはシミュレーションできた。俺とハルなら負けることはないだろう。ベルフェゴールの強さとはまるで別物だ。



「行こうか」



俺たちは階段を降りていく。広い円形の部屋に出た。反対側に下へ降りる階段がある。



その部屋には誰もいなかった。



「おかしい。ヘカテがいない」



俺たちは辺りを警戒しながら進むが、隠れている気配もない。



「ヘカテは仲間にできるキャラだから、ここを離れることもできるけど、それは……」



ハルがぶつぶつと独り言を漏らしている。



「ふん。いないならそれに越したことはない」



無駄な手間が省けた。俺たちは奥の階段を降り、中間層に到達した。




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