ルシファー戦
一瞬で紫の霧が広がる。拡散する速度は速く、俺たちやルシファーも避けることもできず、その霧に飲まれる。
アスモデウスが色欲を発動した。判断が早い。色欲は霧に触れたものに複数のランダムな状態異常を付与し、さらに霧に触れた者からの攻撃で逆にHPとMPが回復するようになる。
幸い俺たちはエレノア以外の全員が増殖した神兵の腕輪を装備しているのでデメリットはない。エレノアは一番後方にいるため霧の影響は受けていない。
これで霧に触れたルシファーがアスモデウスにダメージを与えることはできなくなった。
俺はバクバクを召喚し特攻させる。同時にアスモデウスと俺が声を上げた。
「全員逃げろ!」「皆さん逃げてください!」
アスモデウスは色欲により負けることはないが、ルシファーを倒すことはできない。俺たちを守り切ることもできないと、本人もそう判断したのだろう。
ルシファーの身体が光り始める。7つの大罪系状態異常、傲慢を発動した。これでルシファーはクールタイムなし、消費MPなしで無尽蔵に攻撃することが可能になる。
ルシファーは移動スキルも持っている。傲慢状態になりクールタイムがなければ好き放題連発できる。どう考えても逃げ切れない。だから、誰かが残って足止めする必要がある。
「バレンタイン! アスモデウス! 手伝ってくれ!」
『不死』を持つバレンタインと色欲状態のアスモデウスなら死ぬことがない。
そして、ルシファーのターゲットは俺だ。俺がここにいれば逃げる仲間を追うことはない。
みんなと一緒に逃げようとしていたバレンタインが嫌そうな顔をして戻ってくる。
ギルバートは優秀だ。さすがに俺と一緒に旅をしてきただけある。俺の意図を組んで、逃げるのをためらうデュアキンスとエレノアを強引に避難させている。
今は仲間を置いて逃げるのが正解。変な同情や仲間意識なんていらない。ギルバートも成長している。ポチは何も考えずに俺の指示を聞いて走っている。
先行したバクバクが凄まじい速度でルシファーに向かう。しかし、一瞬でルシファーの姿が消え、攻撃は空振りに終わる。
ルシファーがまばゆい光と共に別の場所に現れる。そして、魔法を発動する。
【ホーリー】
俺は咄嗟にアスモデウスと『スイッチ』した。【ホーリー】は範囲攻撃で発動が異常に早い。まさに光の速さだ。発動されてから回避は不可能。貴重なスイッチをここで使用して回避する。
聖なる光の攻撃がアスモデウスに降り注ぐが、色欲状態のアスモデウスにダメージは与えられない。むしろHPとMPを回復させる。
バクバクには間髪をおかず、攻撃し続けるように指示している。ラッキースライムレベリングを行っていてステータスは明らかにルシファーを凌駕しているはずだが、それでも攻撃が当たらない。
『光歩』
ルシファーはバクバクの攻撃を回避し、俺の真横に瞬間移動する。まさに光の速さで移動するスキル。ただし、使用者が視認できる範囲にしか移動できない。
『光刃』
光の刃が俺に振り下ろされる。俺はそれを当たり判定ぎりぎりで回避する。この光の刃は見た目以上に当たり判定が広い。
カウンターで反撃するが、『光歩』でまた瞬間移動される。次の瞬間、背後に現れ攻撃をしてくる。
目がちかちかするようにまばゆい閃光が走り続ける。クールタイムが0のルシファーは『光歩』を連発できる。もはや制限なしにどこにも移動できる。
だが、こういった攻撃は英雄である俺の得意分野だ。俺はその猛攻を回避し続ける。エルザの『天歩』と同じ原理だ。
光の速さで移動できたとしても、攻撃をするときに姿を現すしかない。純粋に素早さが高いのではなく、スキルによる高速移動の弊害だ。
だから回避が間に合っている。それでもエルザの『天歩』よりも明らかに速い。俺の回避術は詰みにならないように、膨大な計算の上に辛うじて成り立っている。
しかし、『光歩』が速すぎて、バクバクの攻撃もまともにヒットしない。『光歩』を使われるかぎり、こちらの攻撃手段はない。
バレンタインにクラウスのときのように魂を抜いてほしいが、あたふたしているだけで働いてくれない。そもそもゲームではバレンタインは死なないだけで、まともに役に立たないキャラだったことを思い出した。
きっとクラウスのように自分が入れた魂を抜き取るのと、そうではない悪魔の魂を抜き取るのは条件が違うのだろう。
ルシファーが俺から離れた位置に姿を見せる。接近戦では倒せないと悟ったのだろう。俺はそうなることを予想していた。
ルシファーはこの後、広範囲魔法攻撃を使用するだろう。【カタストロフ】究極殲滅魔法。無属性でレジストもできず、300レベルのプレイヤーの最大HPの5倍近いのダメージ量を誇る、回避不可能なオーバーキル魔法だ。
さらに傲慢状態はクールタイムが0になるので、連発できるという鬼畜仕様。『バニシング』で打ち消しても、クールタイム0の傲慢状態なら意味がない。すぐに再び使用される。
今まで使わなかったのは発動時の隙が大きいからだ。足を止めて発動する必要があり、その間にバクバクの攻撃を与えられる。
「夜を切り開くのは、聖なる力……」
ルシファーが足元に魔法陣を広げて【カタストロフ】のモーションに入った。今なら回避ができない。バクバクの攻撃がやっと当てられる。ここでHPが削り取れるかが勝負だ。
ルシファーのような悪魔には2段階目がある。ベルゼブブが巨大な蝿の怪物になったときのように、力を解放して巨大化することができる。人型のうちでないと倒すことはできない。
バクバクの猛攻が始まる。同時に俺も接近して攻撃を与える。凄まじいダメージが蓄積されていく。
【カタストロフ】のスキルモーション中はスーパーアーマー状態だ。どれだけダメージを与えてもキャンセルすることができない。
エネルギーがルシファーに溜まっていく。そのエネルギーは限界まで溜まった。
『バニシング』
発動する瞬間に『バニシング』で打ち消す。すぐに【カタストロフ】は再使用できるが、また溜め時間が生まれる。
ルシファーが『光歩』で離れた位置に移動し、再び【カタストロフ】のモーションに入る。同時に俺とバクバクが全速力でルシファーを追う。
俺とバクバクの高火力連続攻撃でHPを削っていく。途中でアスモデウスも攻撃に加わってくれた。俺の作戦を理解したのだろう。
また光が最大まで溜まる。もう俺に打ち消す方法はない。ポチも避難させているため、『ワンモアチャンス』も使用できない。膨大なHPを削り切ることはできなかった。
「裁きの鉄槌を、【カタストロフ】」
究極殲滅魔法は容赦なく発動される。まばゆい白い光に包まれ、光と共に黒い放電が辺りに広がる。凄まじい轟音と共に、白と黒があらゆる生物を崩壊させる。
俺はこれまで受けたことのないほどの超絶ダメージを受け、HPは底をついた。
「ぎりぎりセーフ!」
ルシファーは俺を呆然と見ていた。今まで【カタストロフ】で倒せなかった存在などいなかったのだろう。
バレンタインも俺を見て、口をあんぐりと開けている。
やっぱり『不死』のスキルは便利だな。
俺は『イミテート』でバレンタインの姿になった。これがバレンタインにいてほしかった理由だ。バレンタインさえ近くにいてくれれば、『イミテート』することで効果中に死ぬことがなくなる。
アスモデウスになることも考えたが、『イミテート』した姿が色欲状態になっていないため、ダメージを受けることになるからやめておいた。『イミテート』はその時の状態異常はコピーしない。
俺は消していたバクバクをすぐに召喚し、再度ルシファーを攻撃させる。バクバクは任意に消せるから、【カタストロフ】の発動前に消しておいた。
しかし、HPが削りきれなかったことは痛い。『イミテート』の効果時間は長くない。『リバース』でクールタイムを回復させることはできるが、傲慢状態で無尽蔵に【カタストロフ】を放てるルシファー相手には分が悪い。
『イミテート』をできていないタイミングで【カタストロフ】を受ければそれで終わりだ。
それに、ルシファーが自分のHPが予想以上に削られたことで全力を出してくる可能性がある。自分を抑えている制限を完全になくし、人型から怪物の姿になることができるスキル『悪魔化』を使用されてしまう。
悪魔は魔力の制限により、自身を人型にして力を制限している。それを解放することで、全力を出すことができる。
ただでさえ、人型でも強いのに、『悪魔化』した後はさらに異常な強化がされる。だから、ゲームで悪魔を倒す際は、人型のときに倒し切る戦法が主流だった。
一度『悪魔化』すると、一旦退却して時間をおいてからもう一度向かっても『悪魔化』状態のままになる。『悪魔化』したキャラが、人型の時に話しかける必要があるイベントフラグになっていたら最悪だった。イベントの進行ができなくなる。
そのため、戦闘中に『悪魔化』したらリセットしてやり直すというのが英雄たちの基本動作だった。
これには悪魔の設定が関係している。『悪魔化』は効果が切れるというものではない。もとの姿に戻るということだ。だから、再び『人型化』のスキルを使用する必要がある。
『人型化』は『悪魔化』を使用してからのクールタイムが必要になる。そのクールタイムは3日間ほど。リセットした方が何倍も早かった。
ちなみに『悪魔化』状態では、討伐がミレニアム懸賞イベントになる悪魔もいる。こいつらは人型のとき倒せないと討伐が不可能になる。ちなみに運が悪く、ルシファーもその悪魔に該当する。
ルシファーの本当の姿は白い龍のような巨大な怪物だ。防御力と魔法防御が恐ろしいほど向上し、まともにダメージが与えられなくなり、その上で自動回復スキルまで発動するようになる。
それでいて、傲慢により【カタストロフ】を連発できるのだからチートすぎる。鉄壁の防御性能と攻撃性能を併せ持つまさに怪物だ。
ルシファーが『悪魔化』すれば、俺の勝ち目は完全に消える。
俺にはルシファーが『悪魔化』しないことを祈るしかない。
「奇妙な技を使う罪人だ。仕方がない。汝には私の全力を持って裁きを下そう」
そして、早速嫌な予感がしている。
「いやいや、全力なんて出さなくても俺なんて倒せますよ! ほら今だって瀕死だし!」
「今の戦いでわかった。貴様には得体の知れぬ力がある。私も全力を出すべきだろう」
「その……遠慮しておくとか……できますか?」
「却下だ」
「ですよねー」
ルシファーの体が再び違う色の光に包まれる。『悪魔化』のエフェクトだ。
これで俺の勝ち目はなくなった。




