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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第6章 英雄の挑戦

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奈落観光



ーーーーーー竜王ーーーーー



俺はただじっとその時が訪れるのを待つ。



信念。決して揺るがない思い。一度守ると決めたものを守り通す。俺は不器用だから、それしかできない。



あの日の約束。それを人生をかけて守ると決めた。そのためなら、どんなことだってできる。



いや、違うな。もう約束だからという理由で行動していない。その約束はいつの間にか、俺の希望になった。これは紛れもない俺の意志だ。



「あんたも相当頑固だな」



カロンが話しかけてくる。



「そうなのか。俺にはわからん」



「こうと決めたらテコでも動きそうにない」



「そうだな。中に入っていた者がいる以上、待ち続けるつもりだ」



「もし中に入れたら、ある悪魔に伝言を頼めるか?」



「俺は自分の目的以外に動くつもりはない」



「偶然出会ったらでいいさ。タナトスって悪魔だ。俺の兄貴でな」



「悪魔にも家族というものがあるのだな」



「人間たちのように血がつながっているとか、そういうものじゃない。でもタナトスは兄貴だ」



「良いだろう。もし会えたら伝えよう」



「助かるよ。俺はこの場を動けないからな。こう伝えてくれ。カロンは元気に見張りをしているとな」



「悪魔というのも難儀だな」



「決まりだから仕方ない。兄貴といつかまた再会する。それが俺の望みだ」



足音が聞こえた。また来訪者が来た。俺は顔を上げる。若い男だ。



「あんたも懲りないな」



カロンはこの男を知っているようだ。



「さっきはどうも。幸い飛ばされたのかそんなに遠くなくて良かったよ。もう俺と戦うつもりはないでしょ?」



「ああ。俺はただの門番だ」



「そうだと思った」



男が俺へと視線を向ける。



「ティアマトだね。俺はハルだ」



「ほう。俺を知っているのか」



敵意は感じない。俺のことを知っている者がいるとは驚きだ。



「君もこの先に行きたいのか?」



「ああ。だが、門が開かなくてな。足止めを食らっている」



「なら一緒に行かないか。君が戦力になってくれるなら心強い」



「お前はこの門を開けられるのか?」



ハルは俺の問いに答えず、門の前へと歩み寄った。



「俺は信じているんだ。あの人は常識では測れない。きっと先輩なら……」



ハルは門へと触れ、祈るように目を閉じていた。そして、息を吸い込んで腕に力を入れた。



門は音を立てながらゆっくりと開いた。



「……そうだと思ったよ。あなたはそういう人だ」



ハルは楽しそうに笑っていた。











ーーーーーーーーーーーーーーー



アスモデウスがいてくれるだけであまりに順調だった。アスモデウスが雑魚モンスターを片っ端から倒してくれるし、ガイドまでしてくれている。



何だか意気込んで来た割に拍子抜けするほど奈落の探索はヌルゲーになった。おかげで、みんなで話をしながらの遠足気分だ。



デュアキンスとバレンタインはよくわからない死霊術談義をしている。デュアキンスが持ち上げるものだから、バレンタインは天狗になっている。



フレイヤとエレノアはいつの間にか仲良く話をするようになっていた。フレイヤ持ち前のコミュニケーション能力によるものだろう。



「そう。そしてここがかの有名な奈落墓地の入口です。歴史は古く……」



アスモデウスは誰も聞いていない解説を延々と喋りながら、先頭を進んでいく。



そうこうしている内に俺たちは中間層へ向かう階段へと到着した。先程のインプの件もあり、もう少し波乱があるかと思っていたが、良い方向に予想外だ。



「ここから先が中間層です。門番の悪魔ヘカテがいますが、私がいるので問題なく顔パスです」



本来であれば、中間層を守るヘカテも最深層を守るタナトスも戦闘で倒すか、通行許可イベントをクリアしなければならない。それが顔パスできるとなると大幅な時間短縮となる。アスモデウスが有能すぎる。



階段を下りると、そこは円形の広い空間に続いていた。その中央に紫色のローブを着た小柄な人物が立っている。フードを深く被っていて顔は隠れている。



深淵の魔術師ヘカテ。悪魔では珍しく魔法攻撃を得意とするキャラクターだ。ゲームでは仲間にすることもできる。



闇属性魔法最強枠と言われている。多くの闇属性ブーストのスキルがあり、それを全て使用すれば、闇属性に限ってソラリスやアリアテーゼを凌ぐほどのダメージ量を誇る。ただその火力を維持することが難しく、意外に使い勝手は悪い。



「お久しぶりです。 ヘカテさん」



アスモデウスが丁寧にお辞儀をしてヘカテに近づく。



「アスモデウス……私、その人、いやだって、言ったのに」



バレンタインが旧友に会ったかのように両手を広げてヘカテに近づいた。



「久しぶりではないか。ヘカテ君、元気にしていたかい?」



ヘカテの口元がフードから見えた。明らかに引き攣っている。



「バレンタイン……久しぶり……さようなら」



「またまたヘカテ君は相変わらずギャグセンスが抜群でないか! まだ会ったばかりなのにさようならなんて。はははははは」



「さようなら」



「良いんだろう。こうなったら我もギャグを披露しないといけない。渾身のドラギャグ三百連発を!」



アスモデウスがここで解説を入れる。



「解説しましょう。ある日観光に来ていたバレンタイン氏が独特のギャグを披露して、ヘカテさんが愛想笑いをして社交辞令で面白いと答えてしまったんです。そのことからバレンタイン氏の中でヘカテさんは生粋のお笑い好きという幻影が生まれました。それからヘカテさんはバレンタイン氏のギャグに付き合わされることになったのです」



その光景が容易に想像できてしまう。



十字架クロスが苦労する!」



【ダークボール】



強烈な闇魔法がバレンタインにヒットして凄まじい勢いで吹っ飛ぶ。壁にめり込み、首が変な方向に曲がっているが、バレンタインは何事もなかったかのように立ち上がった。相変わらずの不死身だ。



「はははは。さすが、すばらしいツッコミだ! 我とヘカテ君ならコンビが組めるかもしれない」



「……もうやだ」



ヘカテが不憫すぎる。



「話を戻しますが、ヘカテさん。観光のために中間層に向かいたいのですが、通していただけますか?」



「許可する。早く行って」



ヘカテは高速で何度も頷いている。よほどバレンタインと離れたいのだろう。ある意味バレンタインのおかげであっさり通してもらえたのかもしれない。



「本当はヘカテ君に見せたいギャグがいくつもあるのだが、今は急がなくてはならない。申し訳ないね。」



「問題ない。さようなら」



ヘカテが塩対応すぎるが、バレンタインには全く意図が伝わっていない。



俺たちが次の階層への階段を降り始めると、ヘカテが思い出したようにアスモデウスに声をかけた。



「アスモデウス。その人、メフィの探していた人?」



フードで顔は見えないが、明らかに俺を見ている気がする。



「そういえば、少し前に探していましたね。ちょうど、レンさんぐらいの身長で、レンさんぐらいの年齢で、レンさんのような見た目の人を見かけたら教えてほしいと」



いやな予感がする。



「メフィ、中間層にいる。謎に鼻が効く。気をつけて」



「大丈夫ですよ。たまたま探し人とレンさんが似ているだけでしょう。まさかメフィストフェレスさんとレンさんに面識なんてないですよ。レンさん、心当たりなんてないですよね?」



心当たりがありすぎる。




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