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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第6章 英雄の挑戦
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金色の丸焼き




せっかく奈落に入ったのだから、俺には一つ行きたい場所があった。



バレンタインとの合流が遅くなるが、これは今後のために必要なことだ。少しくらい待たせても良いだろう。



「ちょっと寄り道させてもらうぞ」



記憶を頼りに進んでいくと開けた空間に出た。先が暗く、光がないため見通すことができない。



ゲームの設定だが、洞窟の壁は本来少し光を放っており明るくなっている。本物の洞窟では真っ暗で視認性を確保できないからだ。しかし、演出としてこれより先は明かりがなく、暗闇となっている。



「おい。この先に進むのか?」



ドラクロワが嫌な顔をして問いかける。



「ああ。この先に目的地がある」



「なんだ? ドラは暗いのが苦手なのか?」



「別にそんなんじゃねえよ……ただ、戦いづらいからな」



それが問題だ。この暗闇の中にも通常モンスターが出現する。絶対に触れてはいけない亡者を相手にする必要もある。



「タールを浸した布を投げてフレイヤに着火してもらう。その明かりで敵を視認しながら進んでいこう」



久しぶりに活躍するタールだ。俺はタールを浸した布をいくつも用意して、ポチに投げさせた。



「くーん。べとべとする」



ポチが投げ終わると、フレイヤが前方に広範囲の爆裂魔法を発動する。爆炎が引火し、複数の松明のようになった。ただ火の明かりだけではやはり視認性は悪い。注意して進む必要がある。



「足元に気をつけてくれ。この辺りは地面に亀裂があって深い穴になっている。落ちるなよ」



俺たちは慎重に足を進める。360度円形になり、視覚がないように配置につく。寄ってくるのを亡者を僅かな光で発見し、声を掛け合う。まるでホラーゲームをプレイしているみたいだ。



「わん! ちがう匂い!」



ポチが得意な嗅覚で、違うモンスターを認識した。俺はポチが指さした方向を見る。淡い光に照らされて辛うじてシルエットがわかる。



「インプだ」



インプ。悪魔のなり損ない。小さな黒い身体に獰猛な牙を持っている。一見するとただの弱そうな雑魚モンスターだが、そこはLOL、ゲームで多くのプレイヤーを殺した強敵だ。



インプが厄介なのは素早さが高く、闇の炎をブレスとして吐き出してくる。これは邪龍の炎同様の効果となっている。一撃でも食らえば、自然に炎が消えることはない。



しかも、こいつらの爪には素早さをダウンさせるデバフ効果がある。大体ここまで来るプレイヤーは神兵の腕輪を持っているから、スタッフがレジスト可能な状態異常枠のスロウではなく、デバフにしたのだろう。



こいつらは一定距離からブレスを吐き出し、また一瞬で近づいてヒットアンドアウェイを繰り返してくる。攻撃を受ける度に、こちらの素早さが下がっていく。



インプは大体群れで移動しており、一体見つけたら10体以上いると思っていい。インプの独特な笑い声が360度から聞こえてくる。



辺りは暗闇だ。その中で亡者とインプに囲まれた。足場には深い穴がいくつもある。



一瞬、暗闇の中で何かが近くで光った気がした。本当に一瞬でしかも僅かな光だった。気のせいかもしれない。



インプたちが奇声を上げて、飛びかかってきた。



「仕方ない」



本当はクールタイムが長いので温存したかったが、この際仕方がない。敵の姿が見えないのならば、見えなくても良い攻撃を加えるしかない。



『霧雨』



霧の秘術書で身につけたスキルの1つ。攻撃が広範囲攻撃に変化する。



『閃光連撃』



一撃でインプも亡者もまとめて粒子に変える。インプに長期戦は不利だ。一気に攻撃される前に範囲攻撃で殲滅するのが基本的な対処方法だった。



「すごい……」



エレノアが呟いている。美少女に褒められると少し照れくさい。最近、仲間たちは俺が何をしてもあまり驚かなくなっている気がする。



そのまま、足元に注意しながら暗闇を進むと、前方に明かりが見えた。どうやら無事に目的地までたどり着けたようだ。



その先は天井が広い大空間だ。地面にはゴツゴツとした岩が乱立している。壁の色が少し青っぽい。ここが俺の目的地だ。



「わん! また別の匂い」



「大丈夫。今度は警戒しないでいいよ」



俺は岩陰から向こう側を覗き込む。そこには金色スライムがいた。



「なんだ? あれは?」



ドラクロワがもっと近くで見ようと岩陰が出る。その瞬間、その黄色いスライムは消えた。



「あ? 消えた?」



「あれはラッキースライムだ。基本逃げることしかせず、防御力が異常に高い。そして、素早さが尋常じゃなく高くて、逃げられると目に映らない。だが、倒すことに大きな価値があるモンスターだ」



そう。RPGではもはや王道。逃げ足の早く倒すのが困難なレアモンスター。某国民的ゲームでも金属ボディで有名なあの枠だ。



このラッキースライムは王道にしっかりと乗っかり、ぶっ壊れた経験値がもらえる。落とすレアアイテムもかなり価値があるものだ。その経験値のぶっ壊れぐらいは他のゲームの比ではない。



通常フィールドにもかなりの低確率だが、出現する可能性があり、1匹討伐するだけでアホみたいにレベルが上がる。当然討伐難度は他のゲームとは比べ物にならないほど高い。



素早さ9999。カンストしている。もはやただの移動ではなく、瞬間移動。さらにこいつの感知能力も異常で、円形のドーム10m半径以内に入り込むと、全自動でその場から逃げる。



さっき、ドラクロワがその範囲内に入ってしまったから、ラッキースライムが消えたように移動したのだ。



素早さがカンストしているので、追いつくのは不可能。範囲外からの遠距離攻撃しかないが、10mの射程がある攻撃はあまりなく、もし当てられたとしても攻撃を受けるとまたすぐに移動してしまう。



『ド根性』のスキルもあり、遠距離からの高火力一撃死も不可能。もはやスタッフは倒させる気がないとしか思えない。運よくラッキースライムを見つけて、討伐できずに頭を抱えるプレイヤーを嘲笑っているのだろう。



この奈落の部屋は、そのラッキースライムのみが通常モンスターとしてリポップする夢のような場所だ。



しかし、やはり悪意に満ちたLOLスタッフがそんなにプレイヤーに優しいはずがない。この部屋もスタッフの意地の悪さが顕著に出ている。



実はこのラッキースライム。レベルが300に設定されている。本当は莫大な経験値を持っているのだが、300レベルを超えてしまうと経験値補正が入り、ほとんど経験値を得ることができなくなってしまう。



そして、この奈落には300レベルを超えていないプレイヤーが来ることはほとんど想定されていないエクストラステージ。あえてそんなステージにラッキースライムが通常モンスターとしてリポップする夢のようなゾーンを作り、はじめはテンションを上げさせ希望を見せ、あとで経験値がほとんど入らないという経験をさせて絶望させるという、鬼畜の所業だ。



つまり俺たちがここでラッキースライムを倒しても何のレベリングも行うことができない。以上のことを説明すると、一同は明らかにテンションを下げていた。



「だが、1つ俺たちに大きなメリットがある。だから、今からラッキースライムを乱獲するぞ」



やり方は簡単だ。過去にこの技でレベリングをしたことがある。俺は邪魔な岩をドラクロワとポチにどけてもらって、できるだけ平坦で広い場所を用意する。そこに石を並べる。



久しぶりの登場。ブルースライムレベリング御用達の尖った石だ。トラップ用アイテムで踏むとダメージを与えることができるが、どれだけ巧妙に隠してもモンスターが踏むことがないことが有名だ。



俺は入口を開けた円形状に石を配置する。これだけで準備完了だ。



「追い込み漁をするぞ」



俺は全員に指定した場所へと移動させる。



運よくラッキースライムを倒せる場合はどういう場合か。それは移動不可能なマップの端に追い詰めることだ。ラッキースライムは範囲内に入った瞬間、逆方向に超高速で移動するという習性がある。



それを利用すれば移動不可能な壁で逃げ道を塞ぐことができる。それが今回利用した尖った石だ。これだけ人数がいれば上手く計算して配置して、効率よく追い込み漁をすることができる。



あえてほぼ全自動で反対方向に逃げていくから、誘導は容易い。人で壁を作りながら、石を並べたところだけ移動できるようにしておく。



数分後には異常な光景となっていた。石の円の中には高速で点滅するラッキースライムが何体もいた。素早さが高すぎて、移動しているのが点滅に見える。



「レンの言う通りに集めたけど、これ倒しても経験値はほとんどもらえないんでしょ?」



「ああ、もらえない。俺たちはな」



俺はタールを外から投げ込み、着火する。無限ブルースライムレベリングと全く同じ要領だ。これなら防御力が高くてもじわじわとHPを削ることができる。HP自体は高くないからあまり時間はかからないだろう。



「よし! じゃあ、いっぱいお食べ」



俺はバクバクを石の円の中に出現させる。これが俺の狙いだ。



バクバクは『捕食』により、スキルを自分のものにすることができる。そして、もうひとつの効果、『捕食』すると経験値を補正なしでそのまま手に入れることができる。



つまり、バクバクのみはラッキースライムのぶっ壊れた高経験値の恩恵を得ることができる。300レベルどころかそれ以上にレベルを上げられる。



『捕食』は対象のHPが半分以下にならないと発動できないから、火でこんがりと焼く必要があった。バクバク専用のご馳走、ラッキースライムの丸焼きだ。



バクバクは俺の指示通り、HPが半分以下になったラッキースライムを『捕食』していく。ありえない速度でレベルが上がっていく。『テイム』しているからステータスはわかる。



俺でも引くほどのステータスになっていく。もはやバクバクが敵に回れば俺たちじゃ手に負えない化物だ。



「よし。30分くらいでリポップするから、みんなそれまで休憩しよう」



そう言って、俺たちはマイペースにキャンプの準備を始めた。この場所はラッキースライム以外の出現がない。奈落ではどこでも湧いてくる亡者がいないということだ。これだけで貴重な休息場所となる。



俺たちの動きを見て、エレノアだけが目を白黒させていた。



「みんなはこれが日常なの?」



手際よくキャンプの準備をしていたギルバートはおかしそうに笑った。



「ああ。旦那のやることにはついていけないが、これは日常だな」



「あ、私も手伝います」



準備が済んで、各自食事をしたり、眠ったりして時間を潰す。30分後に数人で追い込み漁をしてバクバクに『捕食』させて、また休むを繰り返した。



太陽がないから昼か夜かもわからないが、全員が十分に休息が取れた。バクバクのレベルは800を超えていた。俺が見たことのないステータスをしている。もうバクバクだけに戦わせれば良い気がしてきた。




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