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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第6章 英雄の挑戦
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未来への布石



俺はみんなの視線が集まる中、奈落の門へと触れた。俺も成功している確信はない。ただ可能性は高いと思っている。
















「えい!」



普通に押したら、あっさり開いた。















「えええぇ!」



皆、目を丸くしている。カロンも見たことない表情をしていた。



「……てっきり何か特殊なことをするのかと思ってた。でも、どうして」



「わん! ふつうにあけた」



リンが拍子抜けしたような顔で言う。



「まあ、中に入れば分かるよ」



俺は先頭を切って奈落へと足を踏み入れる。赤黒い壁の洞窟が奥まで続いていた。皆が俺に続いて奈落へ入った。



「これが……奈落」



デュアさんが久しぶりに喋った。デュアさんは俺が話しかけてあげないと基本的に寡黙だった。奈落に来れたことに死霊術師として思うことがあるのかもしれない。



俺はドアの裏側を指差した。装飾の隙間に白いカードが挟まれている。



「あれがアスモデウスの名刺だ」



これが俺が簡単に門を開けられた理由だ。闇の遺跡の門突破委員会で検証した結果、アスモデウスの名刺は別に手に持っていなくても門から一定範囲に置いておけば開門のフラグが立つことがわかっていた。



逆に言うと、アイテムボックスにしまったままではフラグが立たないため、運よくアスモデウスの名刺を持っていたプレイヤーも門を開けないということが発生した。



最初に門を開けたプレイヤーは偶然、アスモデウスの名刺をアイテムボックスにしまい忘れていて、ポケットに入れっぱなしになっていた。かさばるものじゃないから、なんとなく入れたままだったのだろう。俺もレシートとかポケットに溜まっていくタイプだ。



だから、多くのプレイヤーにとって、わざわざアイテムボックスから出すのも面倒だし、なくしても困るから名刺を奈落の門に挟んでおくということが一般的だった。



それは門の内側でも例外ではなかった。つまり、奈落側の門に内側から名刺を挟んでおけば、外から自由に開けることができる。



ドラクロワやポチが開けられなかったのは単純にプレイヤー属性がないからだろう。NPCではドアを開けることができない。



「ちょっと待って。その理論だと、奈落で名刺を手に入れてこの門まで来て、名刺を挟まないといけないはず。レンはユースタスの術によって奈落に行ったけど、そんな時間はなかった」



俺の説明を聞いてリンが鋭い指摘をする。その通り、内側から名刺を挟まなければ成立しない。



「ああ。とても奈落でアスモデウスに会って、奈落の門に名刺を挟む時間なんてなかった。だから、俺はあの時に依頼をしたんだ」



ユースタスの海賊団の副船長、ブラック。俺は彼に今回のことを依頼した。俺がユースタスとのゲームで奈落へ行った理由はこのためだった。一度奈落に行き、ブラックと会話することが奈落のアメジスト入手には必要条件だった。



『リバース』の効果時間内でないといけなかったから、かなりシビアな時間だったが、何とか伝えることができた。



死の副船長ブラック。ゲームで、ブラックは奈落で仲間になるキャラクターだ。魂だけの存在だが、レベルは高く、亡者に負けることはない。



奈落の魔物には物理が効きにくい傾向にあるが、ブラックは特例で剣による物理でスピリット系やゴースト系のモンスターにも大ダメージを与えることができる。奈落の中専用のお助けキャラのような位置づけだ。



プレイヤーはレベル1になるのに、ブラックはなぜレベルが高いのか不満ではあるが、確かにエクストラステージの奈落で仲間にしてみてレベル1だったら、存在する意味のないキャラクターとなるから設定上仕方ないだろう。



ハーデスに会わなければ、奈落から出ることが出来ない奈落限定キャラだ。



俺はブラックに依頼として、アスモデウスに名刺をもらって、奈落の門に挟んでもらうように伝えた。



ブラックは亡者に負ける可能性はないし、アスモデウスは良い奴だから名刺をくれるはずという読みがあった。あとは奈落の門の位置を、ブラックの知識で分かるように教えておいた。



ブラックは俺の頼みを聞いて、アスモデウスの名刺を手に入れてくれていた。あとで合流する予定だから、お礼を言わないとな。



「レンは……どこまで先が見えてるの?」



ブラックのことを説明すると、リンはそう尋ねた。



「別にそんな先まで分かってないぞ。いつも予想外のことで慌てふためいている。ただ、その時の最善を尽くしているだけだ」



「ユースタスの時も、ゼーラの時も、レンの発想はいつも私たちの先を行っている」



「知識があるだけだろ。リンも同じ知識があれば、同じことをしてると思うぞ」



「だと良いんだけど」



リンは少し自信なさげに頷いた。きっと誰よりも俺に近づいたことで、俺との差が分かってしまうというジレンマに陥っているのだろう。そんなに落ち込む必要もないと思う。ゲーム知識があるかないかの差だ。



「門を閉めておいてもらえるか?」



俺が声をかけると、ドラクロワが頷いて門へと戻る。一番後ろにいたエレノアは邪魔をしないように横に移動した。ドラクロワが門を閉めようと手をかける。



「おい。動かねえぞ」



NPCでは開けた後の門も動かせないようだ。仕方なく俺が戻って門を閉める。ふとエレノアと目が合った。彼女が気にしていることはわかる。



俺はエレノアに見せるように、アスモデウスの名刺を引き抜いてポケットに入れた。エレノアは安堵したように微笑んだ。



これでハルが外から追ってくることはできない。ハルもNPCではなく、プレイヤー属性があるから名刺があれば奈落の門を開けることができる。エレノアはその点を心配していたのだろう。



「よし。先に進もう」



俺たちは奈落を慎重に進む。奈落は洞窟のような道になっており、目印がほとんどない。どこに行っても赤黒い壁と床が続いているだけだ。それが複雑に入り組んでおり、マッピングがとにかく難しい。



俺は記憶を頼りに足を進めていく。まずはアスモデウスの部屋に向かう予定だ。バレンタインとはそこで合流する手筈になっている。



「まずはバレンタインと合流し、その後、ブラックと合流する」



「ユースタス船長の仲間ね」



「ああ、連れて帰る約束だからな」



結局、あの開くことができない本もまだ渡せていない。アンデッドだから待つことには慣れているだろうと失礼なことを考えていたら渡しそびれた。わざわざ船に乗らないといけないから、結構手間だ。



あの本も、俺の中で1つの仮説があった。できれば当たってほしくない仮説だ。もし俺の仮説が正しければ厄介なことになる。



「メフィストフェレスだけとは会いたくないなー」



「レン。それ言ったらだめなやつ。レンが言うと現実になるから」



「いや、言わなくても本当に出会う気がしたから今回言ってみた」



「……たしかに。言わなくても出会いそう」



これがフラグにならないように祈ろう。赤いローブを被った亡者が何体か現れる。奈落にいる以上、こいつらの相手は避けられない。



「フレイヤ、ギルバート、頼んだぞ」



「承知した」「任せとけ!」



亡者は絶対に触れてはいけないので、念のため、遠距離攻撃で蹴散らしてもらう。ポチとか素手だから、間違ってパンチしそうなので、絶対に赤いのはだめと教えといた。



俺たちは亡者を蹴散らしながら先へと進んでいった。








ーーーーーーー鉄壁の男ーーーーーーーー



俺は瓦礫を持ち上げて外へと出る。ようやく体が動くようになった。



この俺にここまでのダメージを与えるなんて、とんでもない威力の雷だ。あれを受ければ、さすがにあの鬱陶しい原住民共を全滅しただろう。



俺も雷が直撃し、かなりのダメージを受けた。滅多にダメージなど受けないから回復アイテムなど持たないことが仇になった。自然回復で動けるようになるまでかなりの時間がかかってしまった。俺以外であの雷の中で生き残れる存在はいないだろう。



少し前、俺がまだ瓦礫に埋まっているとき、外から人の声が聞こえた。最初は原住民の生き残りかと思ったが、あれは理性のある者の会話だった。



誰かがこんな辺境の地まで来た。原住民が全滅したタイミングでの来訪。あまりに都合が良すぎる。あの雷の攻撃もその来訪者の仕業であると考えて良い。



計画的な行動だ。それならば、あの遺跡の門を開ける方法も知っている可能性がある。



俺は闇の遺跡に向かう。相変わらず、門は閉ざされ悪魔は何もせずに立っている。



「おい。俺を中に入れろ」



「またあんたか。あんたは定められし証を持っていない」



「あんたはってことは、少し前にこの門を開けた奴がいるな」



「あんたに教える義理はないな」



悪魔の反応を見て確信する。悪魔は嘘をつけない。だから、来訪者が門を開けたことを否定することができない。



やはり俺が動けない間に誰かが、この門を開けた。俺は運が悪い。そいつらと合流できたら奈落に入れたかもしれん。



「待たせてもらうぞ」



俺は悪魔とは反対側の石に腰掛けた。待っていれば、中に入った奴らがまた門を開けて出てくる可能性が高い。



「あんたもしつこいな」



「俺はこの先に用があるんだ。いくらでも待つさ」



そう。俺にはすべきことがある。




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