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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第1章 英雄の目覚め
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伝説の棒



訓練用木剣の素晴らしさはこんなものじゃない。俺は上の穴から今度はとがった石を入れる。



また訓練用木剣が自動的に転がり出てくる。俺はスキルを確認する。



『渾身』消費耐久値を5倍にする代わりにダメージ量を2倍にする。5倍早く武器が壊れるリスクを取り、ダメージを増やすスキルだ。



次に露店のゴミアイテム不発弾を入れる。これは敵に投げつけた時、まれに大爆発を起こして大ダメージを与える。ほとんど爆発しないので、使いどころはない。



『運任せ』ダメージ量が半分になる代わりに、クリティカル発生時のみダメージ量を2倍にする。



この『爆砕』と『渾身』と『運任せ』のコンボで、訓練用木剣は生まれ変わる。そもそも最大耐久値が1なので、『渾身』により消費耐久値が増えても関係ない。さらに常にクリティカルが発生するので、『運任せ』のデメリットもなくなる。



常に5×2×2=20倍のダメージ量を与えられる。攻撃力は1だが、装備キャラの素の攻撃力が100だとすると、一撃で2020のダメージを与えられる。



この訓練用木剣を英雄達はエクスカリボーと名付けた。木製で見た目が棒なので、エクスカリボーだ。



そして、エクスカリボーはあくまでベース。ここから残り1個の空きスロットに何を入れるかで更に進化していく。



たとえば、『五月雨突き』を付加すれば、一瞬で10連撃できる。その全てがクリティカルで20倍となる。マシンガンエクスカリボー。



状態異常を付加するのも効果的だ。状態異常スキルのついた武器でクリティカルが発生すると相手の耐性が100%でなければ、確実に状態異常になる。



『麻痺』を付加すれば、一撃攻撃を与えれば100%動きを封じることができる。パラライズエクスカリボー。



更に凶悪なのが、『即死』を付加すれば、完全耐性を持っていない敵ならば、100%即死させられるという悪魔の武器になる。ソウルエクスカリボー。



他には『ライフドレイン』のスキルは与えたダメージに応じてHPが回復する。クリティカルが発生すれば、ダメージ量の100%のHPが回復するので、攻撃を与える度にほぼ全回復する。ライフエクスカリボー。



同じ要領で、『マナドレイン』を付加すれば、攻撃を与える度にMPが全回復するマナエクスカリボー。全MP消費の技を連発できる。



このように残り1つのスロットに付加するスキルによって、多様な使い方ができる。それがエクスカリボーだ。



しかし、残念ながら今挙げたようなスキルを付加する為のアイテムはまだ手に入らない。俺は仕方なく、ここで強化をやめ、リンにエクスカリボーを手渡した。



俺が使ってもいいのだが、エクスカリボーはリーチが短く短刀に分類される。俺はゲームでは両手剣か片手剣二刀流がメインだったので、これはリンに渡した方が有効活用できると考えた。



ちなみに武器にも重さという数値がある。本当に素早さが必要な敵の時は素手で魔法中心で戦っていた。



リンはエクスカリボーを見つめて、怪訝そうな顔をした。やはり見た目では強く見えないのだろう。



「これ……本当に強いの?」



「安心してくれ、その剣は強い、試し斬りをしに行こうか」



実際試してみないことには納得できないだろう。それにもう残り期間が少ない。邪龍討伐までに出来ることはレベリングとリンの戦闘能力の向上だ。



レベリングはもう『養殖スライムレベリング』ではスピードが落ちている。LOLでは相手のレベルをこちらが超えると補正がかかり、経験値が減っていく。それにその方法ではリンの戦闘能力は向上しない。



少し上の敵を倒さなければならない。城下町から行ける範囲で高レベル帯、訓練になると考えるとあの場所以外ないだろう。



「よし、リン、ポチ、修行に出かけよう」



修行という言葉で、リンの顔が輝いた。



俺たちは写真に頬ずりをしているダインにお礼を告げて、鍛治場を後にした。



__________________________



目的地に向かって歩いていると、リンが不思議そうに問いかけてきた。



「ねぇレン、どこに向かうの? この道、町の中央に向かってるよ、外に出るなら反対だけど……」



「ああ、分かってるよ、こっちの道でいいんだ」



俺は城下町の中心へと向かっている。中心にある建物が目的地だ。



グランダル王城。オープニングで俺が召喚された城だ。俺は門にたどり着き、衛兵に一声かけて素通りしようとした。



「ご苦労様です」



衛兵もぺこっと反射的に会釈して、急に槍を構える。



「っ何をさらっと素通りしようとしている、ここは王城だぞ」



「え、俺のこと知りませんか? 俺ですよ俺」



まるでマニュアル通りのオレオレ詐欺っぽくなってしまったが、召喚された勇者ならば王城は普通顔パスだ。



衛兵は俺の顔をじっと見つめる。そして、しばらくして納得したように告げた。



「知らないな」



俺はがっくりと肩を落とした。ゲームでは衛兵はただのお飾りNPCで止められることなどなかった。



「ほら、この前、召喚された勇者ですよ」



全力でアピールするが、石頭の衛兵は首を横に降らない。



「騒がしい……」



後ろから声がして、俺は振り返る。そこには黒いローブに神官のような長い帽子を被った男がいた。



ローブから覗く手足は枝のように細く、死人のように白い。悪趣味な邪悪っぽい指輪やネックレスなどをジャラジャラとつけている。ボロボロの包帯で顔を包み、虚ろな目だけが光っていた。



「おっ、デュアキンス! ちょうど良かった」



この男は死霊術士デュアキンス。他のキャラでは覚えないユニークスキルをいくつか持つ仲間だ。魔王軍幹部を仲間にするためにはパーティにデュアキンスを入れる必要があったから、英雄なら誰もが仲間にして鍛えた経験がある。



「なぜ我の名を……」



「まあまあデュアさん、とりあえずこっちに来てくださいよ」



俺は強引に肩を組んで引っ張って行く。衛兵から見えない裏路地に到着してデュアキンスを離した。



「失礼な奴だ、我を誰と……」



「固いことはいいじゃないですか、俺とデュアさんの仲ですし」



もちろん初対面である。



「我はお前……」



「実はデュアさんにお願いがありまして、デュアさんはきっと王城の騎士宿舎で原因不明の体調不良が出ていることの調査で呼ばれたんですよね、その調査に俺を同行させて下さい!」



「なぜそのことを知って……」



「大丈夫です、弟子ということにしましょう、いやー、ここでデュアさんに会えて本当に良かった」



「い、いや、ちょっと待て、我はまだ……」



「さすがデュアさんは心が広いなー、ここで断られたらどうしようかと思いましたよ、さあ、頑張って共に悪霊を退散しましょう」



「あの、我にも少し話をさせ……」













____________________________







衛兵は頭一つ大きい不気味な男を見上げていた。



「我は王の勅命により、調査を依頼された魔法協会のデュアキンスである……、そして、この者達は我が弟子である」



「弟子のレンです!」



衛兵は唖然として、立ち尽くしていた。そして、何か反論しようとしたとき、デュアキンスが被せた。



「何か……問題でも?」



恐怖を煽る顔が衛兵に近づく。デュアキンス本人は普通に話しているつもりだが、慣れていない者からするとかなりの迫力だろう。



「ひっ! どうぞお通り下さい!」



こうして俺とリンとポチは王城へ入ることに成功した。



死霊術士デュアキンス。彼は見た目に反して気が弱く、頼まれると断れない性格だった。とにかく押せば何でもしてくれる究極のイエスマンだ。



彼の固有のイベントでは悪徳商人から大量に押し売りされた商品を返品するという馬鹿げたものもある。



デュアキンスは見た目がもはや敵キャラだが、俺にとってはとても親しみやすい仲間だった。








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