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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第6章 英雄の挑戦
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3人目の友達



我は『不死』を手に入れて長い年月を生きていた。今でこそ何も思わなくなったが、最初は時間の感覚がなくなっていくのが恐ろしく、少しずつ精神的に追い詰められていった。



すでにレンブラントは亡くなり、フレデリックも輪廻により、この世のどこにいるのか見当もつかなかった。



友を失った我は実家に引きこもっていた。当然ながら家族は全員亡くなり跡取りも途絶え、貴族としての我が実家は消滅していた。残されたのは廃墟と化した大きな家だけだった。我は何年もその家から出なかった。



『不死』のスキルは我の精神を少しずつ蝕んでいった。予想もしていなかった副作用だった。我は食事すらしなくなり、屍のようにただ生きていた。何度も死のうと試みた。しかし、『不死』のスキルは決してそれを許さなかった。永遠に続く時間の牢獄に捕らえられているようだった。



あの絶望はきっと同じ年月を生きた者にしか、想像できないだろう。



そんな時だった。嵐の夜、急に大きな物音がした。その音のした方へと向かうと、若く青い髪をした青年が入口に倒れていた。満身創痍の状態だった。我はその青年を手当した。それがクラウス君との初めての出会いだった。



翌朝、クラウス君は目を覚ました。我は長いこと人と話していなかったから、喋り方を忘れてしまっていたが、クラウスはそんな我に感謝を述べた。人から感謝されるのも久しぶりだった。



話を聞くと、彼はこの近くで龍と戦っていたらしい。龍というのは、当時最強と呼ばれていた生物だ。



「俺もまだまだだった。最強目指して龍に挑んだけど返り討ちにあったよ」



そう言って、クラウス君は悔しそうに笑っていた。彼はすぐにリベンジに行くか、と立ち上がった。



我は慌てて引き止めた。彼が我を救いに来てくれたと錯覚していたからだ。この何もない地獄の日々から、我を助けてくれるのではないかと、そんな淡い期待を持っていた。



「ここに俺が強くなれる要素があるのか?」



彼は強さに渇望していた。彼を引き止めるための理由を必死で考えた。生憎、戦闘能力なんて皆無だし、教えられることなんてない。仕方なく、フレデリックからもらっていた書籍を引っ張り出して見せてみた。



「俺は魔法だってかなりの腕だ。今さら魔法の勉強なんてしてもな」



「し、しりょうじゅつ、とか、どうだ?」



「おいおい、死霊術ってあれだろ。アンデッド作って戦わせる奴だろ? あんなの弱くて価値ないな」



「……」



唯一得意な死霊術を否定され、落ち込んだ。



「お、これは?」



クラウス君が興味を示したのは召喚術の本だった。召喚術は極めて高度な術で、扱える人間はほとんどいなかった。そもそも召喚獣を従えるためには、その召喚獣を倒せるほどの実力がないといけない。



つまり自分より強い召喚獣は従えることができない。それは致命的な欠点だった。召喚術を扱う魔法使いは自身も強くなければならない。そのハードルはあまりに高く、実際ほとんど使い手がいなかった。



「これだな。龍に挑んで負けたときに気付いたんだよ。個人の力だけでは限界があるってな。でも仲間とか作るのは釈然としない。群れるのは弱いヤツだけだ。その点、召喚術なら俺の手先として働いてくれる」



我はクラウス君が興味を示してくれたことが嬉しく、教育係を買って出た。召喚術の才能などなかったが、勉強だけはできる。理論を教えることぐらいはできるだろうと思った。



「今のまま龍に挑んでもまた負けるだけか。ならしばらく修行するか」



こうして我とクラウス君との生活が始まった。毎日、一緒に召喚術の勉強をし、実験を繰り返した。クラウス君は身体能力も異常に高かったが、魔法に関する理解も極めて深かった。彼は驚くほどの速さで、召喚術を身につけた。



一度聞いたことがあった。どうしてそんなに強くなりたいのかと。クラウス君は答えた。



「この世は弱肉強食なんだよ。力がない者は生き残れない。そんな理不尽な世界だ。少なくとも俺が育った場所はそうだった」



だから、最強を目指す。誰よりも強くなれば誰よりも自由になれる。それがクラウス君が強さを求める理由だった。



自由。本当に最強になれば自由になれるのだろうか。我は喧嘩になるのが怖くて、口には出さなかったが少し懐疑的だった。



召喚術の勉強が終わり、実際に召喚獣を見つけようということで、召喚獣を探しに旅に出た。



何百年ぶりの友達との旅行のようで楽しかった。ただ我はずっと引きこもっていたからか、日光に弱くなっていた。日光を浴びるとまともに活動できなかった。



クラウス君曰く、呪いの一種だろうと言っていた。我は知らなかったが、我の実家の最後はかなり悲惨な事件があったようで、近くの人は誰もあの家に近づかなかったらしい。呪われた一族とか呼ばれていたらしい。我の末裔は一体何をやらかしたのだろうか。そんな場所にずっといれば、呪われても不思議じゃないと言っていた。



仕方なく、クラウス君が背負って移動してくれた。クラウス君の背中に乗ったときは驚いた。信じられない速度だった。我は一度も経験したことのない疾走感を覚えた。景色が一瞬で流れていく光景を目に焼き付けた。



クラウス君は街で傘を買ってくれた。ずっと背負っていると動きづらいからと。クラウス君が得意な闇魔法も付与してくれて、我は日光の下でもその傘があれば移動できるようになった。



その後、2人で様々な場所へ行き、召喚獣を探した。召喚獣はどれも強敵ばかりだったが、クラウス君は強かった。惚れ惚れするほどの美しい剣技と、洗練された闇魔法で次々と召喚獣を倒して従えていった。



我は何度も召喚獣の攻撃を受けたが、この時だけは『不死』のスキルに感謝した。クラウス君に『不死』のことは伝えていなかったが、我の最大HPや防御力が異常に高いと勝手に納得していた。



そして、旅は終わった。クラウス君は各地で集めた強大な召喚獣の力を手に入れた。



再びあの家に戻り、2人で宴会をした。嫌な思い出が溢れた実家だったが、いつの間にかクラウス君との思い出で上塗りされていた。



明日クラウス君が龍を倒し、この生活は終わる。我の中では漠然とした確信があった。この後もクラウスくんの旅に同行したいと言ったら断られる。暗黙の了解のように、これが別れだと直感していた。



だから聞いてみた。龍を倒しても、たまには会いに来てくれるかと。クラウス君は笑って言った。



「ああ、友達にはまた会いに来るさ」



「ともだち……」



「ん? おい、何泣いているんだよ。相変わらず変なやつだな」



我の3人目の友達だった。クラウス君に出会う前と出会った後で間違いなく世界が変わった。いつか友達が会いに来てくれると思えば、あの無意味な時間に、待つという意味が生まれる。それ以降、我は長い月日に心を蝕まれることはなかった。



翌朝、我とクラウス君はこの近くを縄張りとしている龍の下へ向かった。あの嵐の夜、クラウス君が負けた相手だ。



激しい戦いだった。しかし、最後はクラウス君が勝利した。2人の修行の成果だった。



「ふう……これで地上では最強になったな。次はどこに行こうか。噂では空の上にとんでもなく強い神ってのが住んでるらしい。今度は神にでも喧嘩を売るか」



クラウス君の目標は最強になること。その目標は龍を倒してもまだ終わらないらしい。



「正直、はじめは変なヤツだと思った。でも、今はお前に会えて良かったと思っている。おかげで強くなれたしな。ありがとう、ルーファウス」



「我もクラウス君に会えて良かった。また会いに来てほしい」



「ああ。約束しよう」



我を苦しめた『不死』のおかげで、クラウス君と仲良くなることができた。それは今まで乗り越えた苦痛の日々が全て報われたように思えた。




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