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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第6章 英雄の挑戦
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分析と仮説



クラウスがかなりのダメージを受け、地面に手をついている。立ち上がろうとするが、ふらついてまたバランスを崩す。



同時にダンテがまた瞬間移動した。ダンテを背中側から狙っていた影の剣は、先程までダンテがいた空間を突き刺した。



クラウスは本当に抜け目のない男だ。ダメージを受けている間にも影の剣を操り、完全にダンテの背後になる場所から狙えるように準備していた。そして、音を消す暗殺用スキルまで付与していた。



他の剣は高速で動くときにかすかな風の音がする。しかし、今の剣には一切の音がしなかった。満身創痍の演技でダンテの油断まで誘っていた。



しかし、死角からの音もない一撃をダンテは回避した。もはや攻撃を当てられる気がしない。



ダンテの気配察知能力が高いのか、それともあの移動スキルは攻撃を受けそうになると自動的に発動するものなのだろうか。広範囲攻撃でダメージを与えるしかないのかもしれない。



その時、俺たちの後ろの城門が勢い良く開いた。



「妾の研究の邪魔をするのはどなたかしら?」



真紅のドレスに包まれたダイナマイトボディ、美しいブロンドの髪、すべての顔のパーツが整った絶世の美女が現れた。ただこめかみだけは怒りでひくひくさせている。



手には真っ赤な液体が入ったフラスコが握られている。



「うるさいのよ! 喧嘩はよそでしていただける?」



フラスコの液体を妖艶に飲み干すと、体から凄まじい魔力がにじみ出た。



「やばい! 全員、伏せろ!」



俺たちは一斉にアリアテーゼから離れて地面に伏せる。全身から火花を散らしたアリアテーゼが無数の魔法陣を同時に生成する。



耳が聞こえなくなるほどの轟音と光が発生し、クラウスとダンテは橋の上から湖のほとりまで一気に吹き飛ばされていった。



「ふう……静かになりましたわ」



そして、バタンと扉を閉めてアリアテーゼは戻っていった。見た目は麗しいが、相変わらず沸点が低くて、俺の理想郷(ユートピア)に入れるか迷う。



「私よりもすごい爆裂魔法はじめてみたぞ! 悔しいけど、美しい爆発だったな!」



フレイヤは目をきらきらさせて、アリアテーゼが去っていた扉を見つめている。爆裂の美しさ基準は未だに分からない。



「こっちも良い勝負だったしな!」



そう言って自身の体の一部を誇張するので、とりあえず目をそらしておく。確かにフレイヤとアリアテーゼは良い勝負なのかもしれない。



そんなことより、アリアテーゼのおかげであることが判明した。あのクラウスがどんな攻撃をしても当てられないダンテが、アリアテーゼの爆裂魔法に当たったのだ。クラウスと一緒に吹き飛ばされていた。



やはり広範囲攻撃ならば当てられるの可能性がある。あるいはアリアテーゼの攻撃だからあえて回避しなかったのか。怒っている美女からの攻撃は自分で受けたいタイプの紳士なのかもしれない。



かなり離れていて戦闘中なのに、ダンテが振り向いて俺を見た。俺は慌てて首を振った。ダンテはアリババ以上に人の心を読めるのかもしれない。恐ろし過ぎる。



「もう少し前に行くぞ」



俺たちは離れてしまった2人に近づくために橋を渡り始める。



ダンテはまだ本気を出していない。魔王を貶されて怒ってはいるのだろうが手を抜いている。なぜならまだ魔眼を使っていないからだ。



ダンテは複数の魔眼を使用できる。人の言葉が嘘がどうか判断できる真偽の魔眼。約束を決め、それを破ったと本人が認識すれば命を奪う誓約の魔眼。それ以外にも魔眼を持っている。



できれば魔眼も使用してほしいが、躊躇っている気がする。きっとダンテは俺が観察していることにも気づいている。



クラウスを諦めさせて追い返したいという理由と俺にあまり手の内を見せたくないという両方の理由だろう。



吹き飛ばされて2人は体勢が崩れていたが、お互いに立ち上がり、また戦闘が再開された。



今度はクラウスが召喚獣を召喚する。剣技が強すぎるからそちらが目立つが、クラウスは召喚術も使えるらしい。巨大な鷹のような見た目だ。鷹は空高く舞い上がり、かなりの上空でダンテに目には見えない衝撃波を連続で放つ。



極楽鳥も使ってくる『ソニックウェーブ』に見える。ダメージは極楽鳥のそれとは桁違いだろう。



クラウスはダンテの手を振ることによって起こす衝撃波が近距離専用だと見抜いて、遠距離攻撃のみで仕留めるつもりだ。実際は瞬間移動によって一瞬で接近されるのだが、移動距離の制限もあると予想しているのか。



自分の剣による単発では永遠に攻撃を入れられないと判断し、遠距離からの物量に頼る。判断が早く正確だ。影の剣も更に本数が増えている。



ダンテは最初に到達した『ソニックウェーブ』を軽く横に跳んで回避した。



たったそれだけだった。自然に違和感がない動作に見えた。だが、俺なら分かる。



今、ダンテはさりげない動作で必死に隠そうとした。自分があのタイミングだけ瞬間移動のスキルが使えないことを。



なぜだ。クールタイムはないはず。だが、アリアテーゼに吹き飛ばされて、すぐには使用できない。どんな制限があるのか、俺は思考する。



そのあと、無数の影の剣がダンテを狙う。ダンテは手を振り、衝撃波で弾いてはいるが、かなり厳しそうだ。2発目の『ソニックウェーブ』が襲ってきたときにダンテは瞬間移動した。



そうか。『ソニックウェーブ』は剣のように実体がないから、手を振ることで弾くことができない。だから、先程は回避しかなかったんだ。



ダンテが現れた場所は橋の上だった。やけにクラウスから離れたところに移動している。



「仕方がない」



ダンテはそう言って目を光らせた。魔眼の発動だ。しかし、何も起こらない。



「くく、何かの状態異常か? あいにく俺の体は特別でな、あらゆる状態異常がかからない」



死滅の魔眼か石化の魔眼などだろうか。状態異常完全耐性があるクラウスにはそれらは一切効かない。



「そうか。ではこれはどうかな?」



ダンテはすぐに瞳の色を変えた。違う魔眼に切り替えたようだ。



「……これは」



クラウスが急に手に膝をついた。空中にあった影の剣が全て地面へと落ちる。鷹の召喚獣も凄まじい速度で地面に落下する。



おそらく重力だ。ダンテの視界の範囲のみ重力が何倍にもなっている。クラウスはまともに動くこともできていない。



「本当はあまり見せたくないんだが」



そう言ってゆっくりクラウスに近づいていく。すぐそばまで来たが、クラウスは立っていることがやっとのようで攻撃ができない。



「この眼の前で、立っていられる人に会ったのは初めてだ。命は助けてやるから消えろ」



ダンテはあくまで殺しはしたくないのだろう。俺としては殺してもらっても構わないんだが。



クラウスは膨大な重力にガタガタと身体を軋ませながら言った。



「……誤算だ」



その瞬間、黒い影が一気に広がり、2人を飲み込んだ。ゼーラ神山でも使用した【シャドウカーテン】だ。黒闇を広げ、音も視界もない空間を広げる目眩ましのスキル。



なるほど、あの暗闇の中では何も見えない。見えなければ魔眼の効果が解除される。クラウスの咄嗟の戦略には敵ながら舌を巻く。



ダンテはすぐに暗闇の外に瞬間移動していた。焦らずに暗闇が晴れるのを待っている。



暗闇の霧が消えたときに、クラウスの姿はどこにもなかった。



大体予想はしていた。ゼーラ神山の時もそうだったが、クラウスは戦闘狂のふりをするが極めて冷静だ。自分が死ぬ可能性があると判断した相手には無理せず退却を選ぶ。



「ふう……」



ダンテはクラウスが退却したとわかり、安堵の息を漏らした。メガネをかけてポケットから新しい紙紐を取り出した。それで慣れた手つきで髪を結んだ。いつものダンテに戻った。威圧が嘘のように消えていた。



「やっと帰っていただけましたね」



そう穏やかな表情で言った。



「お疲れ様でした。俺たち何もできなくてすみません」



「いえいえ、あなた方は大切な客人ですから、気になさらないでください」



そう言いながら、俺はずっとあることにひっかかっていた。



ダンテが魔眼を使ったタイミングだ。



なぜ渋っていた魔眼をあのタイミングで使用したのか。俺には誤魔化すためだと思えた。



あの時の瞬間移動、明らかに今までよりクラウスから遠かった。まるで魔眼で視界に広く入れるためだったと言い訳するように、後付けで魔眼を発動しているように見えた。



あれはあの場所にしか移動できなかったんだ。俺の中ではダンテの移動方法にある仮説が生まれた。だが、今それを確かめることはできない。



「……できれば、いつまでも仲良くいたいものです」



ダンテが俺だけに聞こえるように小さな声で言った。ダンテはすべて分かっているのだろう。俺たちがいつか敵対する可能性もあることも。



「はい。俺も心からそう思います」



魔王はそんな理不尽な奴じゃない。復活しても良好な関係は保てるはずだ。そう願いたい。



「ダンテさん。じゃあ、俺たちはここで」



城門に入るところで、俺は立ち止まってダンテに告げた。



「まだマリーに話を聞かなくて良いのですか?」



「はい。もう大丈夫です。おかげでルーファウスの居場所はわかりましたから」



ルーファウスに会いにいこう。




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