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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第6章 英雄の挑戦
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あたたかい場所



_________セルバの手紙_________



私はまもなく死ぬだろう。君がこの手紙を見つけてくれると信じて書いている。鍵を持っているのは君だけだからな。



悲しむ必要は全くない。私は死を何一つ恐れていないのだから。



バーバラ。君もすでに気づいていたと思うが、私は何度も死に、何度も蘇っている。正確には魂を輪廻し、記憶を引き継いだまま、新しい身体に魂を移している。



今回はたまたま獣人だった。魔法が使えないから長居をする気はなかった。また死ねば、次の身体へと移動できる。最初はそう考えていた。しかし、予想以上にここは居心地がよかった。



長く生き過ぎた私は感性が一般人とはかけ離れている。それは自覚している。どんな身体に移動したとしても、今の時代に友を作ることなどほとんどなかった。お互いの考えがわからない者たちは決して友にはなれない。



そんな中、バーバラ、君と出会えたことに感謝している。とても聡明で知的な女性だ。柔軟な価値観に、優れた理解力、思考速度も極めて速い。この私と論理的に話ができる存在は貴重だった。



君が魔法さえ使えれば、私の3人目の弟子にしていた。きっとあの2人に匹敵する魔導士になっていたことだろう。



いや、魔法が使えないからこそ、友となれたのかもしれないな。君との談義は実に有意義だった。視点が新鮮で私の何千年前から凝り固まった価値観を変容させてくれた。



だから、柄にもなく手紙でも残そうと思った次第だ。私が君より早く死ぬことは決まっている。いくら居心地が良いと言っても、いつまでも魔法が使えないこの身体に居続けるわけにもいかない。



もし今の私に魔法が使えたら、君にも同じように永遠の命を与えていた。次の輪廻まで何年かかるか分からない。もし君が生きているうちにまた会えたら、輪廻の術を君にかけよう。



君が魔法が使える身体に生まれ変われば、優れた魔術師になれる。



私は魔法の才能のある者にしか、この輪廻の術をかけない。魔法の発展、真理の追求のために優秀な人材はこの世界に残しておきたい。



私がそう思える者は滅多にいない。我が弟子の2名は優れた才能を持っていたが、私が輪廻の術をかけなくても初めから永遠の命を持っていた。



最近では雪山にいた魔女か。君とは違い、そこまで賢くはなさそうだったが、信じられない魔力と魔法回路を持っていた。



溢れ出る魔力で意図することなく、気候まで変動させた。まさに異次元の才能だった。あれももう数千年は前のことか。



そして、私が久しぶりに永遠の命を与えたいと思えた存在がバーバラ、君だった。



君にまた会えることを心から願うよ。また君と談義をさせてもらいたい、君が魔法を理解してくれれば話したい議題は星の数ほどある。私たちには永遠の時間がある。いずれ魔法のすべてを解き明かそう。



私にとってあまりに短い時間だったが、君と話ができてよかった。生まれ変わったら君を迎えにいく。



そのときに君に気づいてもらえるよう、私の本名を伝えておこう。この名を覚えておいてくれ。



魔術師フレデリック。



__________________









「ふふ、あいつらしい」



バーバラは穏やかな表情で笑っていた。何かを思い出すように目を細める。



「セルバは……フレデリックか。いや、私にとってはセルバだな。あいつは人の気持ちがわからない奴だった。この手紙だって、本当に自己中心的でしょ? いつもどこかズレてる」



それは友への愛のある悪口だった。近い存在だから、口にできる悪意のない言葉。



「確かにセルバとの話は楽しかったけど、さすがに永遠の命があったら飽きるよ。私は永遠の命なんていらない。精一杯生きて、旦那と同じ墓で眠る。それでいいさ。迎えに来たらそう言ってセルバをがっかりさせてあげる」



「それはびっくりするだろうな。その時は俺もフレデリックに会わせてほしい」



「わかった。すぐに知らせるよ」



「ありがとう」



可能性は薄いかもしれないが、これでもしフレデリックが早く復活すれば話を聞ける。



その後、しばらくセルバの家を探索したが、特に収穫はなかったので、バーバラと2人でセルバの家を出た。



「結局、大した手がかりも見つからなくて悪かったね」



「いや、そんなこともないよ」



少なくともセルバがフレデリックという魔術師であり、ルーファウスではないと分かった。それに手紙にあった雪山の魔女はユキのことだろう。ユキに輪廻の術をかけたのはフレデリックだった。



それが分かっただけでも大きな前進だ。問題はフレデリックが死んでしまったこと。再びバーバラに会いにくるのは何年後になるかわからない。



「レンたちはもうアニマを出るのか?」



「ああ、あまりゆっくりしている暇はないからな」



「そうか。また会いにきてくれ。話し相手がいなくなったから私も暇になる」



「ああ。アニマは俺も好きな国だからな。また来るよ」



バーバラ、マーくん、ライガス、ニーナさん、兵士のみんな、アニマの獣人たちは本当に良い人ばかりだ。フレデリックが居心地が良いと言ったのはそのことも理由の1つだろう。



俺は広場に戻り、旅立ちの準備をしているとギルバートが戻ってきた。ギルバートには獣人の兵士たちを連れて、飛空挺を取りに行ってもらっていた。



バルトニア帝国が滅んだ今では、直接飛空挺をアニマに着陸させても問題ない。一緒に行った獣人の兵士たちは空を飛んだことが新鮮で大騒ぎしていた。



「旦那、いつでも出れるぞ」



「こっちも準備は大丈夫だ」



俺たちのパーティはアニマ皆に見送られながら、入り口の門へと向かった。リンは名残惜しいのか、執拗にマーくんの毛皮をもふもふしていた。



「私はここまでですね」



ぺぺがそう言って足を止める。彼には小人族の族長としてみんなを束ねる役割がある。彼の目的は果たされた。



「レンさん。ネロさんの言ったことは本当でした。あなたを信じてよかったです。ありがとうございました」



「礼なら散々言ってもらったからもういいよ。頑張ってくれよ」



「ええ。私は私のできること精一杯します」



ぺぺはドラクロワに視線を向ける。



「ドラクロワ様、一度は裏切ったこの私に力を貸していただき、ありがとうございました。感謝してもしきれません」



「ふん。ダチを助けるのに理由なんていらねぇ。礼を言う必要もねぇ」



「私はドラクロワ様を……刺して……命を奪いかけました。あの時の後悔がずっと消えません。謝って許されることではありません」



「あ? あんなのただのかすり傷だろ。たまにはダチでも喧嘩くらいする」



「私を……まだ友だと……思ってくれるんですか?」



ぺぺの目から涙が滲んでいる。



「そんな当たり前のことを聞くんじゃねぇよ。気恥ずかしい」



ドラクロワは頭をガシガシとかく。



「ぺぺ、てめぇは真面目すぎるんだ。一緒にいて楽しいと思った。それがダチだ。それだけで十分なんだよ」



彼らには魔王城での思い出がある。きっと俺が知らないところで、大切な2人だけの時間があったのだろう。



「私は……魔王城で……ドラクロワ様に出会えて、本当に幸せでした」



深く頭を下げる。涙が地面にこぼれ落ちた。



「馬鹿が……男が簡単に泣くんじゃねぇよ」



ドラクロワはそう言って後ろを向いてぺぺに背中を見せた。



「まあ……あれだ。また遊びにきてやるから、上手い酒と飯でも用意してくれ。その時は最強になった俺様の武勇伝を聞かせてやる」



「ふふ、はい……、旅のご無事を祈っています。これからもいつでも会いにきてください」



「おう」



顔を見せないまま、ドラクロワは大きく手を振って歩き出した。



またアニマに来よう。絶望が溢れるこのLOLで、この場所は本当に温かい。














「あれ? ドラ、目が赤いぞ! 大丈夫か!?」



「う、うるせぇ! てめぇは黙ってろ!」



フレイヤが空気を読まずにドラクロワに話しかけ、ドラクロワは切れてデストロイヤーを振り回した。



本当に賑やかで、頼もしくて、信頼できる最高の仲間だ。



「よし! 魔王城に向かおう!」



俺たちは飛空挺へと乗り込んだ。





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