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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第1章 英雄の目覚め
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漢の信念



露店から東エリアへと進む。途中で俺達は町の定食屋イガグリ亭に寄る。ここは家族で定食屋を切り盛りしており、娘のクリコがせっせと働いていた。



「先にここで食事を済ませようか」



リンはお腹が空いていたのか異論はなかった。中に入ると、クリコが元気な声で挨拶をして、水を運んできた。



クリコは小柄で亜麻色の髪を三つ編みをした地味な女の子だった。丸メガネをしているが、前髪が長く目元が隠れている。



「ご注文は何にしますか?」



俺は適当に注文し、リンが大量に頼もうとするのを阻止して、席を立った。



「トイレを借りたいんですが」



「はい、お手洗いは二階の一番手前のドアです」



俺はクリコにお礼を言って二階への階段を上る。そして、一番手前のドアの前を素通りした。



一番奥のドアへ向かう。しっかりと施錠されているようでドアは開かなかった。俺は仕方なく、左肩をドアに密着させた。



『ドッペル』



_____________________________












俺たちは食事を終えて、城下町の東エリアにある鍛冶場を訪れた。ここが目的地だ。そこではムキムキの上半身裸のおやじ達が汗を撒き散らしながら鉄を打っていた。



異様な熱気に包まれている。



「おじゃましまーす」



俺は鉄を打つ音に負けないように大声で挨拶して、中に入った。集中しているのか誰一人反応しない。



真っ直ぐに工房を進み、一番奥の空いている竃に近づいた。



「小僧、ここは俺たち職人の聖地だ、女やガキが来ていい場所じゃねぇ」



鉢巻をした浅黒い肌で筋骨隆々な中年男が声をかけてきた。ハンマーを肩に担いでいる。他の男達と同様に上半身は裸で、下は黒い袴のようなものを身につけていた。



無精髭を生やし、険しい皺が刻まれている。眼光は鋭く、強面だった。



鉄火のダイン。仲間にすることができる鍛冶屋だ。平凡なパワータイプであり、あまり活躍は期待出来ないが、攻撃力1位の武器を作るためにはダインの固有イベントをこなさないとならない。



「えっと、俺たちは魔王を倒すために旅をしてます、だからここを使わせて下さい」



「無理だな、何度も言うがここは漢の技と信念が集う聖地だ、素人が立ち会っていい場所じゃねぇ」



やはりゲーム通り、ただでは使わせてくれないようだ。



俺は立ち上がった。既にダインを懐柔する方法は知っている。



「良かったらこれをあげるので、使わせてもらえませんか?」



俺はダインに近づき、懐からある物を取り出す。ダインの顔に青筋が浮かんだ。



「てめぇ、この俺を物で釣ろうってか!? そうゆう考えが腹が立つ! どんなものだろうと漢の信念は捻じ曲げられねぇ、 この俺を舐めんじゃねえ!」



俺が取り出したものを手に取り、固まるダイン。



「こ、こここここれは、スーパー美少女アイドル、マロンたんの第4回コンサート記念、先行入場者50名限定の激レア、直筆サイン入りブロマイドじゃねぇぇかぁぁあ!!」



ダインは膝をついて、涙を流し始める。



「ぐおおおお、感動した、俺はこの日のために生きてきたのかもしれない」



俺は若干引きながら、問いかける。



「それで……鍛冶場使ってもいいですか?」



「いいぞ、勝手に使え! うぅーこのアングルのマロンちゃんはまさに天使だなぁ……、これで俺の愛のコレクションも充実してきた、これが欲しくて2日前から並んだのに、まさかの抽選で順番決められたときは全てを破壊したい衝動に駆られたが、ついに俺はこれを手に入れた! 」



漢の信念はあっさりねじ曲がってしまった。俺は少し悲しくなった。これだけ鍛治一筋に見える職人が実は給料の全てをつぎ込むアイドルオタクという設定だった。



ゲーム時代。初めてこのイベントをこなした時はだいぶ苦労した。どうすればダインを説得できるのか全く分からなかった。あまりに頑固であの手のこの手で説得、買収を試みるも失敗に終わった。



しかし、ヒントは実はいくつかあった。ダインが鉄を撃つとき、途中で奇妙な動作を入れるのだ。実はその動作がマロンちゃんのコンサートでの合いの手の仕草と同じだった。



それとダインの家は地下室が開かずの間になっており、厳重な警備がされている。その部屋に鍵を盗み出したり、ドッペルピッキングで侵入すると、部屋一面にマロンちゃんグッズが溢れているのだ。



そこでマロンちゃんグッズを持っていくことで、鍛冶場を使わせてくれるようになることが判明する。



あとはひたすらマロンちゃんグッズを貢ぐ日々が始まる。レア度が低いと、「こうゆうものはお前は持つべきではない、俺が預かってやろう」と没収されるだけだ。ある一定のレア度を超えることで、先程のような反応が出てくる。



だから俺はレア度の高いマロンちゃんグッズを手に入れる必要があった。もうお分かりの通り、実はイガグリ亭の看板娘クリコの正体はグランダル王国トップアイドルのマロンちゃんだ。



仲間にすることもできる。看板娘クリコのステータスは低く、とにかく弱い。使い物にならないが、ユニークスキルの『へ〜んしん☆』を使うと、スーパーアイドルマロンちゃんになれる。



マロンちゃんはいろいろぶっ壊れた性能のスキルを持ち、時間制限付きだが、その間に無双できる。



俺はマロンちゃんの部屋に忍びこんで、レア度の高いアイテムを盗んできた。常識的に考えれば完全に犯罪者だが、ゲームだから許してほしい。それにトップアイドルの部屋に忍びこんだが、断じて他には何もしていない。俺は紳士だからだ。



気を取直して、俺はいよいよ鍛治を始める。竃には武器を入れる口があり、上に穴が空いている。



使い方は簡単で強化したい武器を中に入れて、アイテムを上の穴から入れるとアイテムに応じたスキルが追加されるというものだ。



因みに空きスロットがなければ、アイテムが消えるだけで何も起こらない。



この鍛冶場で販売しているリペアパウダーを穴に入れれば、武器の耐久値を回復することもできる。



俺は鞄から訓練用木剣を取り出す。それを見たリンが怪訝そうな顔をした。



「レンのいう強力な武器ってそれ? どうみてもただの木刀に見えるんだけど……」



「安心しろ、これはただの木刀なんかじゃない」



まず始めの訓練用木剣のステータスを紹介しよう。



訓練用木剣

攻撃力1

耐久値1

スキル

『空き』

『空き』

『空き』

『空き』


以上だ。さすが訓練用、最弱と言ってもいい。だが、この武器には隠された秘密がある。



本来この剣は戦士の国シュタルクでのイベントでの戦闘訓練で強制的に渡されて使うことになる。そして、イベントが終わると返却することになる。



そして、このアイテムはイベント限定アイテムであり、耐久値が1にも関わらず壊れることがないという特徴がある。



イベントアイテムだからゲーム作成者も深く考えずに耐久値1で空きスロットも4つにしたのだろう。本来それらは何の意味もないはずだった。



しかし、エルフの宝物庫の存在で状況は一変した。あの場所の一番下の段にはレア度が一番低い武器の全てが置かれている。面倒だからレア度が低いもの全てをまとめて配置してしまったのだろう。



そして、レア度が1のイベントアイテムだったはずの訓練用木剣が混じってしまった。これによって訓練用木剣の価値は跳ね上がった。



俺は訓練用木剣を竃に入れた。本来木製の剣を竃に入れたら燃えるだけだと思うが、ゲームだから仕方ない。そして、先程露店で手に入れた火薬を取り出す。それを上の穴から放り込んだ。しばらくして、自動的に訓練用木剣が転がり出てくる。



俺は手に持ってステータスを確認した。しっかりとスキルに『爆砕』の文字があった。



『爆砕』武器の耐久値が0になる攻撃をした時、必ずクリティカルが発生する。



LOLでの通常攻撃はダメージ量が一定確率で5倍になるクリティカルが発生する。クリティカルの発生確率は低く、また武器によっても確率が変動する。



最も確率の高い大斧でも2%くらいで、50回に1回だ。短剣などの低いものだと0.1%、1000回に1回しか発生しない。



『爆砕』は本来ゴミスキルだ。耐久値が0になる壊れた瞬間のみクリティカルが発生するので、同時に武器を失うことになる。武器を失いたくないので、耐久値が減ってきたら回復させるのが普通なので、このスキルは全く使えない。



だが、訓練用木剣だけは違う。内部的には攻撃した瞬間、耐久値が0になる。しかし、壊れずにまた耐久値1で復活する仕様だ。



つまり『爆砕』を付加した訓練用木剣は、壊れることがなく、全ての攻撃が100%クリティカルになるという、とんでもない効果を得ることができる。



そして、この訓練用木剣にはまだ先がある。俺は再度、訓練用木剣を竃に入れた。









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