絆
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ネロの話で俺は目的を決められた。ダンテに会いにいくしかない。
「ありがとう。ネロ。ダンテに会いにいくよ」
「それがいいだろうね。あ、そうだ。今回の件とはあまり関係ないけど、もう一つ教えておくと……」
ネロは思い出したように1つ付け加えた。
「プロメテウスさんが死んでるかも」
「え……プロメテウスが?」
俺が全く予想していない情報だった。ネロが言うのだから、ある程度の信憑性がある情報なのだろう。
「僕は魔王城でプロメテウスさんと協力した後、実はずっと関係を継続していたんだ。プロメテウスさんの持つ『天眼』は情報収集において破格の効果があったからね。僕も彼が魔王を復活させるために手助けしていたよ」
知らなかった。あれ以降もプロメテウスとネロは繋がっていたのか。だが、死んだとはどういうことなのだろうか。
「プロメテウスさんはレンくんたちがガルドラ地方でドラゴンスレイヤーを倒していたとき、かつての魔王軍幹部ティアマトに会ったと言っていた。その連絡が最後で、それ以降音信不通で連絡が取れないんだ」
プロメテウスは一応魔王軍幹部だ。そう簡単にやられるとは思えないが、音信不通なのは事実だろう。プロメテウスは嫌な奴だったが、そう聞くと少し不安になる。
「これは僕の仮説なんだけどさ。聞いてくれる?」
「聞かせてくれ」
「プロメテウスさんから元魔王軍幹部ティアマトの生存を聞いた。でもね、ティアマトが青い粒子に変わったという光景を見た部下が多数いるらしいんだよ。プロメテウスさん自身も見ていたし」
プロメテウス自身、『天眼』で見ていたのだろう。その状況を目にすれば、戦死したと誰もが思う。
「でもプロメテウスからティアマトが生きていたということを聞いた。これがどういうことかわかる?」
もし本当に粒子に変わった後に復活したなら、可能性は1つしかない。
「死霊術師が魂を保管した」
「そう。何者かが奈落の奥底に辿り着き、そこでティアマトを復活させた」
記憶の泉。だが、あんな場所まで普通の者にはたどり着けない。命がいくつあっても足りない。
死霊術師は魂を保管できる。しかし、生き返らせるために保管する者はほとんどいない。奈落に行くこともできなければ、その最深部に辿り着くことなど不可能だからだ。奈落で復活できるなどというのは、彼らにとってもはや一種の言い伝えのようなものだ。
死霊術師は大切な人の魂を形見のように持っておくだけの人や、ユースタスが俺にしたように魂を抜き出して、敵を殺すこともできる。
普通は死ねば肉体まで粒子に変わるが、魂が抜かれれば肉体は残る。その肉体を腐らせた後に戻せばアンデッドを作ることもできる。アンデッドは脳が退化しているので、死霊術師が意のままに操ることができる。
そのように魂に干渉できる者をまとめて死霊術師と呼んでいる。俺のように記憶の泉に行けることが前提の人間など誰もいない。
ネロの言いたいことが分かった。それをしたのが、ルーファウスではないかという仮説か。
「封印術と死霊術は全く別物なんだ」
唐突に話が変わる。ネロは賢いが、相手が理解しやすいように気遣いすることがない。
「僕は疑問だったんだ。クラウスの封印、あれは誰がしたのかなって」
先ほどネロがかなり高度な封印術と言っていた。それを死霊術師であるルーファウスが行うことができたのか。俺には封印術を極めている存在に心当たりがある。
「……ソラリス」
「ふふ、やっぱりソラリスは封印術が得意だったんだね。予想はしていたけど」
ネロが嬉しそうな反応をする。俺の持っている情報で自分の仮説の答え合わせをしようとしている。
「ティアマトは誰に負けたか知ってる? ソラリスだよ。ソラリスとルーファウスが繋がっていたなら辻褄が合う。クラウスの封印の手を貸したのもソラリスの可能性がある。
その仮説だと、ルーファウスという死霊術師は奈落へ行き、しかも記憶の泉までたどり着いたことになる。並の力では到底たどり着けるものではない。
俺には1つだけ疑問があった。ここまでの背景を持っているキャラクターをLOLの公式が表に出さないことなんてあるのだろうか。
ソラリスはLOLで最も有名なキャラクターと言って良い。誰もが憧れる最強の魔法使いだ。ルーファウスもそれで言うならば、有名なキャラクターであるべきではないのだろうか。
LOLスタッフの遊び心で作られた隠れキャラなのか、またはゲームに実装されていないキャラである可能性も考えられる。
「これはあくまで仮説だよ。証拠なんて何も無い。まあ、話半分に聞いておくのがいいね」
「そうしておくよ」
この件は今考えたところで答えは出ない。ネロの言う通りだろう。
「どう? 少しは役に立った?」
「ありがとう。おかげで進む道が見えた」
「ふふ、それは良かった。友達の役に立つっていうのは嬉しいものだね」
ネロに聞いて正解だった。ネロは各国の図書館の全ての蔵書、そして、白を動かして情報収集をしている。この世界で俺に次いでさまざまな情報を知っている存在だろう。いや、俺が知らない情報でも持っている。あれだけ苦しめられた相手だが、味方になるとやはり心強い。
ネロとの話が終わり、俺たちは明日魔王城へと行くことに決めた。少しだけ希望が見えた。
俺はもう1つ心の中で引っかかっていることについて仲間に聞こうと思った。
「なあ、みんな。1つ聞かせてくれないか」
パーティ全員が揃っているこのタイミングで、ユキを失った瞬間に頭を過ったことを確認する。俺が彼らを危険な旅に巻き込んでいるのでないか。その僅かな不安があの時から消えない。
「今俺たちがしているソラリス復活や、ユキの魂を追うことは、すべて俺が勝手に決めたことだ。これからもかなり危険な道になる。俺はみんなのことが大切に思っているし、失いたくない。だから、もし厳しいなら旅に同行せずグランダル王国で待ってもらってもいい。俺はそれで恨んだりとか怒ったりは……」
「おいおい! くだらねえ事言うんじゃねえよ」
ドラクロワが呆れたように口を挟む。
「自惚れんな! 俺はてめえのために一緒にいるんじゃねえよ。俺は俺のために動いてんだ。てめえと一緒にいればソラリスに会える。そうすればあのクソ親父を見つけてぶん殴れるしな」
「レンはきっと仲間を失うことが怖くなっている。それは私たちも同じよ。私たちはレンがいないとここまで生きてこれなかったし、レンだって私たちがいないと生きてこれなかったんじゃない? みんなが一緒にいることで不可能を変えられる。私たちは一緒にいた方が生存率が高い」
リンの言う通りだ。俺は今まで何度も仲間たちに助けられている。俺一人ではこのLOLを生き残れない。
そうか。俺は自惚れていたんだ。自分が仲間を守らないといけないと考えていた。義務のように感じていた。違うんだ。俺もみんなに守られていた。
ポチがお手をするように俺の肩に手を置いた。フレイヤは俺に飛びついて身体を密着させた。
「わん! おやつくれるならがんばる!」
「私はレンが大好きだからな! これからもついていくぞ!」
ポチとフレイヤは特に難しく考えずに即答だった。俺が難しく考えすぎているのかもしれない。もっと単純で良い。仲間と一緒にいたい。その気持ちだけで十分なのかもしれない。
「旦那。俺たちを甘く見ないでくれよ。俺たちは旦那に鍛えられたんだ。そこらの絶望的な状況なんて慣れたもんだろ? 旦那はいつも通り、俺らのことなんて気にせずに先頭を走ってくれ。それがリーダーってもんだ」
俺は仲間に恵まれた。この仲間に出会えたことに感謝した。自分の力だけでこの世界を生き抜いてきたんじゃない。そんな当たり前のことに今更気付かされた。
「悪い。ユキを失って少し弱気になってた」
今は前を向こう。俺にはやるべきことがある。拳に力を込める。
「これからも俺についてきてくれ。一緒にユキを絶対に復活させよう!」
ここに足りない大切な仲間。俺はユキのためにあらゆる不可能を覆すことを決意した。