氷華
初めてファンタジーの日間ランキングにも載りました。評価いただいた皆様、ありがとうございました。これからも頑張ります。
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アリババが『アイテムボックス』を使用する。どうやら無事に俺の意図が伝わったようだ。
アリババは大商人であり、読心の腕輪により手で触れた者の思考を読み取ることができる。俺はあえてアリババに思考を読み取らせた。
アリババをバルトニア帝国側にバレないように仲間に引き入れるために。
俺はアリババを攻撃する。当然、四宝の盾によりダメージは通らない。これはバルトニア帝国に向けた戦っている演出だ。アリババは『アイテムボックス』からある道具を取り出す。
転移の鈴。鳴らすことでランダムで周辺へと瞬間的に移動することができる。『イリュージョン』のアイテムバージョンだ。『イリュージョン』より優れていて、最低でも30mは離れた位置に移動できる。すぐ隣に現れて範囲攻撃を受けるデメリットがない。
一方で鈴の音が鳴り、効果が発揮されるまで僅かなタイムロスがある。俺のような素早さを持つ者との近接戦闘中には使えないのが難点だ。
アリババはこの鈴で姿をくらまし、このままウェンディの救出に向かう。
鈴を手に持ったアリババが一瞬頭を下げるような素振りをした。お礼を言われたのだろう。俺はそれに応えるように刀を振りかぶり、わざと少しスピードを抑えて攻撃を放つ。
アリババが俺の攻撃をアイテムを使用して回避したように見えるように。
澄んだ鈴の音が聞こえて、アリババの姿が消えた。アリババなら後は上手くやるだろう。
今、バルトニア帝国にはオズワルドがいない。アリババの裏切りが知られるのも、もっと後になる。
俺が渡した情報があればすぐにウェンディを救い出せる。ウェンディの安全さえ確保できればもうバルトニア帝国には、アリババに勝てる者などいない。
俺たちもすべきことをしよう。
俺は遠くにいるユキに合図を送る。アリババの脅威がなくなった。ここからはただバルトニア兵に壊滅的なダメージを与えるだけだ。
ギルバートとポチ、マー君たちアニマ兵もユキから合図を受けて前へと出てくる。
オズワルドの策略を知り、俺は行動を決めた。ここでバルトニア軍を壊滅させる。小人族の独立のために様々考えていたが、この状況になればもう悩む必要もない。このままバルトニア帝国が存在し続ければ、アニマにはいつまでも平和は訪れない。
バルトニア帝国を滅ぼそう。
遠慮はいらない。暴れよう。俺の指示でパーティメンバーが行動を開始する。
ポチが弾丸のようにバルトニアの軍勢に突っ込んでいき、凄まじい衝撃波を発生させ、全員を吹き飛ばす。地面には巨大なクレーターができている。一撃で大量の青い粒子が舞う。
ギルバートは踊るように回転しながら、銃を連射する。適当に撃っているのではなく、確実に人間の弱点である頭を撃ち抜いている。敵は近づくこともできず倒れていく。
マー君たち、覚醒獣人もさすがだ。身体能力は段違いであり、バルトニア兵を次々倒している。
そして、最も凄まじい戦力が氷雪の魔女ユキだった。もはや戦略兵器と言っても良い。今まで俺たちは大人数の乱戦はしてこなかった。戦争という場において、ユキがここまで圧倒的だとは予想していなかった。
ソラリスやアリアテーゼが持つ『魔導の真髄』により、ノータイムで凄まじい数の広範囲魔法が放たれる。戦場では絶え間なく、青い粒子が空中に舞い上がっている。ユキ1人でこの戦争に勝てるほどだ。
「あ、ありえん……」
近くにいたイワンが口を大きく開けて、唖然としている。信じられない光景だろうな。イワンは冷や汗を流しながら、慌てて撤退を開始した。
この戦争にもう俺が出る幕はなさそうだが、撤退に切り替えたイワンを追いかけることにした。あれでもバルトニア帝国の最大戦力の1人だ。ここで倒しておこう。
正宗の『剣域超拡大』により、離れていても斬撃を与えられる。俺は連続でイワンを切りつけて、ノックバックさせる。足が止まった隙に、一気に接近し間合いにとらえた。
『閃光連撃』
今はバクバクがいないから、『天命龍牙』が使えない。しかし、『閃光連撃』でもイワンはあっさりと青い粒子に変わった。
もはやバルトニア軍に戦意はない。指揮系統もなく、ただ生き残るために撤退している。
俺は戦略ストラテジーゲームも現実世界で何本も経験している。敵が弱っている時は徹底的に叩く。それが定石だ。
このままバルトニア帝国に攻め込む。オズワルドが戻ってきた時には手遅れの状況を作ろうか。軍を再編する暇さえ与えない。
俺は後ろを振り返った。さらに戦線を上げる指示を出そうとした。その時、俺の目はユキに近づく、ある人物を捉えた。
___________ユキ____________
溢れ出る魔力を凍てつく冷気に変える。私が魔法を発動する度に、大量のバルトニア兵が死んでいく。
私に罪悪感などない。私はもう全てを恨んでいた昔の私とは違う。
戦う理由がある。私に名前をくれた人のために。レンの役に立つことが私の全て。
『魔導の真髄』は私の魔法の常識を塗り替えた。このスキルがあれば私はもっとレンの役に立てる。
レンが封印を解こうとしているソラリス。私は会ったこともないその人に嫉妬していた。
魔王軍幹部アリアテーゼを超える魔導士。レンが間違いなく最強と言わしめる強さ。口には出してないが、私よりも強いと思っているのは明白だろう。
もしソラリスの封印が解かれて仲間になれば、私の居場所はなくなる。氷雪魔法ですら、ソラリスの方が秀でているだろう。
私ができることは全てソラリスができる。そんな上位互換の存在がいつも側にいる。私はきっと耐えられない。
わがままなのは分かっている。大人ならパーティの為に、レンの為に、ソラリスのことを受け入れるはず。でも、私は大人になりきれなかった。そんなに気持ちを上手に操れない。
レンにこんなことを言ったら嫌われるかもしれない。だから、ずっと黙っていた。
私は嫉妬して、自分のことばかり考えている嫌な子だ。
きっとレンはそんな私でも認めてくれる。それは分かっている。私が自分で自分のことを受け入れられないだけ。
だから、これはただの自己満足。もっとレンの役に立てるようになる。それが私が勝手に決めた目標。
名前も知らない獣人が残してくれた巻物。あの巻物のおかげで私は新しい力を手に入れた。強くなれたことが嬉しかった。
ソラリスが仲間になっても、氷雪魔法だけは私でも勝てるかもしれない。そんな希望が持てた。
そして、この戦場で私はレンの敵を倒すことができる。この舞台は私のためにある。
パーティの仲間はみんなすごい力を持っている。でも、今回の戦いだけは私が主役だと思う。
レンにもっと見てほしい。私の活躍を。
遠くにいるレンがこっちを振り返った。それだけで心が弾む。
あの時、私を永遠の牢獄から助けてくれた人。私に名前をくれた人。忘れていた暖かさを教えてくれた人。
私の大好きな人。
あの時のシチューの味はいつまでも忘れられない。
何かが飛んできた。生き残っていた兵士が攻撃してきたのかもしれない。
私には魔法も物理もあらゆる攻撃が効かない。そのことだけは氷雪の魔女であることに感謝している。危険なレンたちとの旅に着いていけるから。
飛来した何かが私に当たる。
それは私のHPを一気に削りとった。
「え……」




