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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第6章 英雄の挑戦
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アリババとの決着

この度、初めて注目度で18位にランクインしました。いつも応援いただいている皆様のおかげです。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。



ーーーーーーーーーー



トールハンマー。全てを蹂躙する神の雷。この場にいるアリババ以外のほとんどが死ぬことになる超大規模特大ダメージスキル。



恐ろしいよ。アリババ。その判断をこの一瞬でできることが。



アリババはこのわずかな時間で天秤にかけた。ここでオズワルドの言いつけを破ることと、俺を殺すこと、どちらがウェンディの助かる可能性が高いか。



常人なら迷うところだろう。それを一切の迷いなく、最適解を選んだ。普通の人間にできることじゃない。



だからこそ、俺はアリババの行動が読めた。相手が常人ではないからこそ、俺もそれを想定した戦い方ができる。



俺は一気に走り出した。エターナルフォースの効果範囲へと足を踏み入れる。



今、アリババはトールハンマーのスキルモーション中だ。途中でエターナルフォースを使用することができない。この瞬間がエターナルフォースの効果範囲に入ることができる唯一のタイミングだ。



しかし、攻撃は届かない。アリババもそれは分かっている。俺がモーション中に突っ込んでも、トールハンマーの発動の方が早い。それを見越してトールハンマーを使用している。



俺は攻撃を届かせる必要がない。エターナルフォースよりも効果範囲が狭い、あのスキルを使用するために近づいた。



アリババのトールハンマーが振り下ろされる。地面にその槌が触れる瞬間、俺はスキル効果範囲へと入った。










『バニシング』












トールハンマーが地面へと打ち付けられる。しかし、全て滅ぼすはずの雷が発生しない。アリババが俺を見た。奴の目は全てを理解していた。



俺が『バニシング』のスキルでトールハンマーのスキルを打ち消した。トールハンマーのスキルはクールタイムがかなり長い。もう一度この戦闘で使用するのは不可能だ。



『バニシング』はエターナルフォースよりも効果範囲が狭い。だから、エターナルフォースを持つアリババに近づけないため発動ができなかった。だから、このトールハンマーのモーション中を狙った。



ここからは時間の戦い。1フレームという僅かな時間さえ、知覚できる英雄の戦いが始まる。



極限の集中状態により周囲の時が止まる。



俺はもうアリババに近い。アリババは先程の戦いで俺の素早さを理解している。俺の攻撃が次の一瞬で自分に届くことを理解している。



そして、俺はもうエターナルフォースの効果範囲内にいる。ここから逃れる時間はない。つまり、俺の攻撃が先か、エターナルフォースの方が先か、その勝負になる。



そうなるように俺が()()()()()()()()()()



この状況、アリババには選択肢がない。一瞬でもためらえば俺の攻撃が届く。四宝の盾のスキルは発動までエフェクトによる僅かなタイムロスがある。その時間で俺の攻撃はぎりぎりアリババに届く。つまりすぐにエターナルフォースを発動する以外にアリババが助かる道はない。



俺は状況を制限して選択肢を減らした。アリババの行動を誘導するために。



時が動き出す。ここからは1フレームの戦い。











『スイッチ』

『エターナルフォース』













俺はエターナルフォースの効果範囲外にいる帝国兵と『スイッチ』で場所を入れ替えた。『エターナルフォース』は帝国兵を捕らえたまま発動している。



全ての時が止まるエターナルフォースの効果範囲内で、唯一動けるアリババが俺を見ていた。その表情は驚愕に染まっていた。



優秀であるがゆえに、俺が何をしたのか理解したのだろう。すぐに四宝の盾の効果を発動する。ほぼ同時、しかし、確実に俺の方が早いタイミングで『スイッチ』を使用した。



5秒後、エターナルフォースの効果は切れることになる。当然、エターナルフォースにもクールタイムは存在する。



俺の狙いは『エターナルフォース』を使用させることだった。そのためには『スイッチ』の使用タイミングが重要だった。あまりに早くしては『エターナルフォース』を使用してくれない。遅ければ俺の時が止められる。



だから、今使用しなければならないという状況を作り出した。アリババの選択肢を縛り、行動をコントロールした。



5秒が終わる。エターナルフォースの効果が切れた。俺は一気に走り出す。アリババはもう四宝の盾で無敵状態を作り上げている。



四宝の盾で守られているアリババにはあらゆるダメージが与えられない。そのスキル効果中にまたエターナルフォースのクールタイムが終わる。だから、持ち堪えられる。アリババはそう考えている。



違うんだよ、アリババ。



俺には四宝の盾を突破する必要なんて初めからないんだ。アリババは俺の勝利条件を勘違いしている。俺はアリババに刀が届く距離まで来た。アリババは冷静に俺の目を見ている。



俺の勝ちだ。


















ーーーーーアリババーーーーー



僕は何と戦っているんだ。



僕は最善手を打ち続けている。いや、打たされ続けていると言った方が良い。目の前にいるこの男に全てを誘導されている。



選択肢が1つしかない状況に持っていかれ、完全に行動をコントロールされている。



こんな存在、今まで見たことがない。ただステータスが高いだけ、強力なスキルを持つだけの強者には山ほど出会ったことがある。その誰とも違う。強さの意味が違う。この男は自分の望む状況に持っていく能力が異常すぎる。



エターナルフォースの効果が終わり、男が攻め込んでくる。僕には四宝の盾がある。いかなる手段でもダメージは与えられない。それでも恐怖していた。この男ならそれすら超えてくると本能が訴えている。



ステータスで劣る僕に回避なんてできない。あっけなく男は間合いに入った。しかし、彼は武器を振り被るそぶりを見せなかった。代わりに予想もしていなかった行動をした。



僕はそこで気がついた。この男の真の狙いに。こいつは初めから僕に勝つ気なんてなかったんだ。信じられない。彼は僕の全てを知っている。



彼の手が僕の手に触れる。腕輪の効果で頭に情報が流れ込んでくる。



明確な思考。普段なら相手の無意識の思考を読むが、彼は伝えようと意図して思考している。今まで感じたことがないほどの鮮明な思考が伝わってくる。



「ウェンディを人質に取られているんだろ?」



白い世界に彼がいた。彼はレン。この世界とは違う場所から来た英雄。彼の情報が勝手に流れ込んでくる。



「ウェンディを救うために協力してほしい。アリババだって分かっているだろ? このままオズワルドの言いなりになってもウェンディは戻ってこない」



僕が常に装備している読心の腕輪。手に触れた者の思考を読み取ることができる装備品。商人としては何よりも重要な宝具。この腕輪のおかげで僕はオズワルドの本性にも気づけたし、ハインリヒの思惑もわかった。



いつもは一方的に相手に触れ、こっそりと読み取るだけだった。だから読み取った思考の中でその対象から話しかけられることなんてなかった。



レンは初めから僕に自分の思考を読み取らせることが目的だった。だから、四宝の盾など無意味だった。僕に手に触れること、それが彼の勝利条件だった。



「バルトニア帝国のマップは全て頭に入っている。監禁されている可能性がある候補は2つだ」



バルトニア帝国のマップ情報とウェンディが監禁されている可能性がある箇所の候補。そこを算出する理由。情報が洪水のように流れ込んでくる。こんな経験は初めてだった。情報が過多すぎて処理が追いつかない。



レンがとんでもない量の情報を当たり前のように処理していることが分かった。それも複数の事柄を同時に並行思考している。彼はそれをみんなもできる当然のことだと思っている。自分の異常さを自覚していない。



僕は自分が優秀だと勘違いしていた。レンに比べれば僕は遥かに劣る。別格。もともと同じ土俵に立っていない。まさに知恵の怪物だ。僕では彼に勝てないことに納得した。こんな人を敵に回すことなんて絶対にできない。



ウェンディを救うためのプランがいくつも頭に入ってくる。その成功率と根拠も教えてもらえる。どれも成功率がかなり高い。



一方でその情報の洪水の中に、彼がなぜこんな情報を知っているのかという根本的なものが一切ない。レンは僕に流す情報とそうでない情報を無意識下のレベルで選別している。こんな芸当、他の誰にもできない。



僕はどちらの味方になるかを決めた。ウェンディを救うためにはオズワルドを裏切り、レンにつく。それがウェンディが助かる可能性が最も高い。そして、レンは僕がその判断をすることも想定していた。



レンの手が離れる。流れ込んでくる思考が消えた。僅か数秒しか経っていないはずだが、僕は全身に汗をかいていた。情報量が過多で目眩に襲われている。



レンと目が合う。明らかに先程までとは眼差しが違う。それは仲間に向けられたものだった。



わかっているよ。この戦いは君の勝ちだ。全て従おう。



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ほんまにオモロい
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