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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第6章 英雄の挑戦
350/370

勝ち筋



私の今の集中状態はそう長く続かない。自然とそれが感じ取れた。だから今、私は行動をしなければならない。



次々と襲ってくる覚醒獣人たち。私はその全ての攻撃を避けながら、ウルカンとライガスの戦いを観察する。今までは獣人たちを相手にするのに精一杯でそこまで見ることができなかったが、今の私ならそれが可能だ。ライガスがかなりの劣勢に見える。



私はウルカンの動きに注視しながら、他の獣人の猛攻を避けていく。この集中状態ではないと、とてもできない芸当だ。情報量が膨大すぎる。



私の未来予測は行うにつれて精度が上がっていた。ヒョウの獣人の攻撃さえ正確に予測できるようになった。



手に入れた情報を頭の中で計算する。英雄として望む結果へと状況を変えていく。



まず一番近くにいる獣人の攻撃をサイドステップで避ける。距離が近くなったヒョウの獣人は側面から襲ってくる。それを回転しながらかわし、ファミリアを打ち付けて吹き飛ばす。



これである程度ヒョウの獣人と距離が離れた。他の獣人たちの位置も理想的だ。若干、サイの獣人が遠くにいるが、仕方がない。



私は一気に後ろを向いて逃げ出すように走り出した。一斉に獣人たちは追ってくる。素早さは彼らの方が高い。すぐに追いつかれることになる。それで良い。素早さで勝っているのだから獣人たちは真っ直ぐ追ってくる。



私は石に足を取られて転倒しながら前に転がる。起き上がるのも間に合わず、後ろを振り向く。



好機とばかりに獣人たちは私に覆いかぶさるように飛び込んでくる。今まで散々避けられてフラストレーションも溜まっていたのだろう。このタイミングを逃すわけがない。



私は何もしない。ただ怯えた表情を作る。獣人たちが殺意を垂れ流しにして飛びかかってくる。



我ながら理想的だった。これが相手をコントロールするということ。私は普段レンがしている戦いを経験した。ロジックを構築し、敵を自分の思い通りに動かす。



きっとレンはもっと神がかったレベルでそれを成し遂げるのだろう。でも、私にしては上出来だと思いたい。


















獣人たちが一斉に青い粒子に変わった。















私はゆっくりと立ち上がり砂埃を払った。今ので5人を倒すことができた。残り2人。ヒョウとサイの獣人だ。



サイの獣人は素早さが他の獣人よりも低く、距離が遠かったため生き残ってしまった。ヒョウの獣人は吹き飛ばした後、突っ込んでくるかと思ったが予想が外れた。



2人は何が起こったのか分からず呆然としている。今までずっと優勢だったのに、一瞬にして仲間5人が殺されたのだから当然の反応だ。



これが私の見つけた栄光への道(デイロード)



私の問題点は攻撃力だった。防御力と最大HPが底上げされた覚醒獣人たちを相手にする場合、圧倒的に火力が不足していた。だから、私は違うものを利用することにした。私はレンからその情報を得ていた。



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ウルカンの爪での斬撃は30秒間その空間に残り続ける。私はウルカンとライガスの戦いを見て、どこにウルカンの斬撃が残っているかを全て記憶した。あとは回避を続けながら、その残った斬撃へと獣人たちを誘導すれば良い。



同じ覚醒獣人だがウルカンは格が違う。おかげで一撃で倒すことができた。



難しいのは全員をまとめてウルカンの斬撃に飛び込ませるための配置だった。もし先に1人倒してしまえば、残りのメンバーが警戒をしてしまう。



だから、できるだけ多くの獣人が同時にウルカンの斬撃に飛び込むようにそれぞれのスピードに合わせて位置を調整した。



私が石に躓いたのは演技だった。あのまま走っていては私がウルカンの斬撃にぶつかるので、こけるふりをして自然に残った斬撃の下をくぐった。あとは勝手に油断した獣人たちが飛び込んできて終わりだ。



「獣人って大したことないのね」



私は挑発するように残り2名に向けて指をくいっと曲げて誘う。サイの獣人が激昂して突っ込んでくる。単純で扱いやすい。私は一歩動いて、その獣人の軌道を誘導した。



ヒョウの獣人がサイの獣人を止めようとしていたが、無駄だった。あのヒョウの獣人は他の者よりも知性が高いようだ。



サイの獣人は不可視のウルカンの斬撃に自ら突っ込み、巨体を揺らす。しかし、最大HPが他の獣人よりも高いのか一撃では死なない。



私は突っ込んできたサイの獣人を軽く避けながら、ファミリアで側面から吹き飛ばす。吹き飛ばした先はウルカンが先程『スラッシュクロー』を放ち、斬撃が残っているドームだ。



その目に見えないドームの中に吹き飛ばされ、ウルカンの連続ダメージを受け、サイの獣人はあっさりと青い粒子に変わった。



ただ1人残されたヒョウの獣人はガタガタと震えていた。身体から青い光が消えている。覚醒が解けたのだろう。



「あなたはどうするの?」



「ひっ、ゆ、許してください。もう降参します」



種族は違っても目を見ればわかる。この獣人にもう敵意はない。レンならきっと殺さない。



私の集中状態も切れた。頭が強烈に痛い。反動で体が重い。まだまだレンの領域までは遠い。近づけば近づくほど、レンの凄さが分かってしまう。



「ぐおおおお!」



凄まじい音と共に洞窟が揺れる。振り向くとライガスが吹き飛ばされていた。ライガスはすでに瀕死の状態だった。



私が長時間かけないと倒せない覚醒獣人を、一撃で葬るほどの力を持つウルカン。そのウルカンと一人で戦っていたライガス。2人とも私とは次元が違う。



「くくく、弱くなったな。ライガス」



「がはぁっ!」



ウルカンに膝蹴りを入れられ、さらに吹き飛ばされる。ライガスが殺されるのは時間の問題だ。



「何の差か分かるか? 怒りや憎しみだよ。それらの感情が俺を強くさせる。そして、怒りを忘れたお前は弱くなった」



ウルカンの爪がライガスを切り裂く。ライガスも反撃するが、まともに攻撃できていない。もはや一方的になりつつある。



「お前は人間の仕打ちを見ただろう。なぜあれを見て共生などと口にできる? 奴らは駆逐すべき害虫だ」



「人間にも……心優しき者がいる」



ライガスが震えながら立ち上がる。気力を振り絞っている。



「我は……それを信じている」



「ふん……俺はな、お前とまた同じ敵に向かって一緒に戦いたかった。お前が人間を駆逐することに賛同してくれるなら、こんなことをする必要もなかった」



ウルカンの青いオーラが強まる。他の獣人たちとは明らかに異質。離れていても全身に鳥肌が立つ。



「もうお前を殺すしかない。そろそろ終わりにしようぜ」



私は限界の体に鞭を打って走り出していた。このままではライガスが殺される。ウルカンの目に見えない残った斬撃を掻い潜りながら、2人の下へ向かう。今のウルカンを私は倒せない。私が行っても何の戦力にもならない。それでも私にはまだできることがある。



ウルカンが近づいてきた私を認識した。怒りを浮かべる。2人の戦いに割り込んで邪魔をしに来たからだろう。



「俺たちの戦いの邪魔をするな! 死にたがりのガキがぁ!」



殺意の豪雨が私に降り注いだ。最凶の狼が私に牙を向けた。



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