表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第6章 英雄の挑戦
336/370

歓迎



俺達はアニマから離れた位置に着陸した。飛空艇でいきなり近づいたら警戒されるだろうから、ここからは歩いて向かう。



「わう……あつい」



外に出るとポチが不快そうに舌を出した。ジャングルの気候は蒸し暑い。現実の俺のいた国の夏を思い出す。ポチはそそくさとユキの近くへと移動する。涼しい場所を分かっているようだ。



「じゃあ、少し冷気出しながら進むね」



ユキが気を使ってくれる。いつもはリンによく懐いているポチは今日だけユキに浮気していた。



「どうして東側に着陸したんだ? 西側の方がアニマに行きやすいように思うが」



ギルバートが疑問を口にする。飛んでいる最中、俺は指示してあえてこちら側に着陸させた。



「向こうにはバルトニア帝国があるからな。目をつけられると厄介なんだ。飛空艇とか奪いに来そうだし」



国王がテンプレの権力バカで、何でも自分の物にしようとしてくる。飛空艇は見せない方が良いだろう。更にバルトニアの入国審査はやたら厳しいし、獣人とか入れないからポチは弾かれるし、武器とかも没収される。ゲームではちゃんと出るときに返却されるが、現実では返ってくるか不安だ。



いつもの武器が使えないのに帝国内で戦闘イベントも結構あるので、本当にやりづらい。ジェラルドには悪いが、ジークフリードの様子を見にバルトニア帝国に行くことはないだろう。



「問題はこっちからアニマに向かうと、少しジャングルの中を通らないといけないんだよな」



「何か問題なのか?」



フレイヤの問いかける。



「ああ、ジャングルにはとんでもない強敵がいるんだ」



「ここにいるメンバーなら大丈夫じゃないか」



「いや……考えが甘いよ。フレイヤはあのモンスターたちの恐ろしさを理解していない。少なくとも俺は奴らには勝てない」



「レンが勝てないなんて……強敵だな」



「はあ……フレイヤ。真に受けなくていいよ。私オチが分かった」



リンがため息をついて口を挟む。オチとは何のことだろう。



「む? リン、どういうことだ。私でも分かるように説明してくれ!」



「虫なの」



「むし?」



「レン。虫が嫌いなの」



「それがどうしたんだ?」



フレイヤはかなり鈍いようで頭をかしげている。仕方なく俺が続ける。



「フレイヤ、分かっているのか? このジャングルにはアリとかクモとかハエとか蚊とかハチとかのモンスターがいっぱい出現するんだ!」



「あ、ああ。まあ、そうだろうな。ジャングルだし」



「大きい虫は怖い!」



「う、うん」



「だから、俺は今回戦闘には参加できない! 虫は怖いからだ!」



俺はそれから必死に虫と戦う愚かしさを熱弁した。最後にはフレイヤも納得してくれた。俺が立案した作戦は、みんなが俺を囲んでフレイヤとユキで遠距離攻撃で虫を駆除するものだ。



「ちなみに虫系のモンスターは病原菌を持っている奴も多いから、攻撃受けたら疫病で死ぬ可能性がある。あと注意しておくべきなのは触れると即死級の植物がいくつもあるぐらいだな」



「レン……そっちの情報の方が大事」



疫病はヒドラの毒と同様に特殊なアイテムがなければ回復できない。神兵の腕輪でもレジストできない厄介なものだ。材料さえあれば研究施設の毒ガス部屋でワクチンを調合できる。



またはジャングルの中にいるドルイドと呼ばれる人たちに回復してもらうことができる。ただ一番手っ取り早いのは一度も攻撃を受けないことだ。



植物に関してはちゃんと種類を見分けながら進めば問題ない。他のモンスターの情報も一応共有しておく。ワニやピラニア、ジャガーのような見た目のモンスターが出現する。こいつらは別に虫と違って怖くないから問題ない。



「私は……何をする?」



「デュアさんは俺の横にいてください。虫が近づいてきたらデュアさんの影に隠れるんで!」



「……承知した」



俺達はフォーメーションを組み、密林の中へと足を踏み入れる。多種多様な植物が遠慮もなく生い茂り、かき分けながらでないと、先に進めないほど密度が高い。



「フレイヤ。そこのくるくるした蔦、触れると巻き付かれて一瞬で殺されるから気をつけて」



「ギルバード。そこの苔、踏むとガス噴射して死ぬから気をつけて」



「ユキ。その花、近づくと食われるから気を付けて」



「ポチ。そのきのこは猛毒だから食べるなよ」



「わん! 美味しそう!」



俺たちは危険な植物を回避しながら進んでいく。懐かしいものだ。このジャングルはあまりに植物によるトラップが多いので、英雄たちで植物図鑑を作ろうとなった。



LOLスタッフは力の入れようを間違っていて、プレイヤーを苦しめるためなら労力を厭わない。なんと300を超える危険植物がこのジャングルにはある。



俺も英雄の一人として植物図鑑を埋めていったものだ。植物図鑑でちゃんと勉強をしておかないと、このジャングルを3分歩けば基本的に死ねる。あの時の知識が役に立っている。



「ぎゃああーーーー」



俺は慌ててデュアキンスのマントに隠れる。ついに現れたこのジャングルで最大の敵。



「ん? どこだ?」



ギルバートが辺りを見回す。俺は震える手で該当の方向を指差す。ギルバートが目を細める。



「あ……確かに蚊っぽいのがいるが、かなり遠いな。旦那、よく見つけられたな」



「フレイヤ! 最大火力で対象を駆逐しろ!」



「了解した!」



フレイヤの爆裂魔法で対象は塵になった。



「ふうー、何とかなったな。危なかった」 



「わん!もう1匹来た」



「ぎゃああああああ!」



そこから俺の絶叫とフレイヤの爆発音を轟かせながらも、順調に進んでいく。



しばらくすると濁った川に到着した。向こう岸までかなり遠い。ちなみにこの川の中にはピラニアやヒル、ワニのモンスターなどが山程いて入水した瞬間に攻撃される。



「どうやって川を渡るんだ? 泳ぐか?」



ドラクロワが脳筋の発言をする。とても泳げる距離じゃないし、入水したら大量のモンスターに食い殺される。



「ユキのフリーズで水面を凍らしていく」



ヒドラの沼で行った方法だ。水面を凍らせてその上を移動して渡ろう。川を渡ればアニマはすぐそこだ。



ユキが水面に指をつける。



【フリーズ】



指先から円状に高速で水面が凍結していく。俺はその上に乗って感触を確かめる。氷はかなり厚く、下からモンスターに攻撃される可能性は少なそうだ。



俺達は凍った川の水面を歩きながら向こう岸へと移動する。



「順調だな」



俺はそう呟いた。それもそうかと納得する。ソラリス復活イベントの中で勇気のエメラルドは入手難度が低い。



カルデニアのドラゴンスレイヤーとアトランティスのリヴァイアサン、そしてゼーラ神山の神の使徒が極めて難度が高いと言われている。これらが攻略できずにソラリスを諦めたプレイヤーは五万といる。



俺はそれを既にクリアしている。もちろん夢想のアメジストの入手難度もそこそこ高いが、ボスはいない。戦闘を回避しながら入手が可能だ。



「レン、縁起悪いこと言わないで」



リンが隣で言う。俺は何か変なことを言っただろうか。



「レンが順調だと何かトラブルが起こる気がする」



「おいおい、そんなわけ……」



ああ、なぜだろう。なんだか俺もそんな気がしてきた。



「旦那、あれを見てくれ!」



ギルバートが近づいてきた向こう岸を指さす。岸には多くの獣人達が並んでいる。随分と盛大なお迎えだ。



俺はにこやかな笑みで手を振った。



「ほら、みんなも手を振ろう! 獣人たちは温厚で友好的な種族だからな、すぐに打ち解けられるさ」



近づいていき、獣人達が鮮明に見える。彼らは全員完全武装していた。



「なあ……気のせいかもしれねぇが、すごく睨まれてないか?」



「ドラクロワ、偏見は良くないぞ。獣人の戦士は目つきが鋭いからな。彼らは温厚で友好的な」



獣人達が空に向けて、大量の矢を撃ってきた。



「わん! ゆーこーてき!」



歓迎の矢の雨が俺たちに降り注ぐ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ