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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第6章 英雄の挑戦
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酒宴



ゲームではライガスとウルカンはどちらかを仲間に入れることができた。RPGではよくある1周目ではどちらかしか仲間にすることができず、選ばされるというパターンだ。



ただLOLの場合、ほとんどの人がライガスを選ぶ。ウルカンを選ぶとレジスタンスのイベントが進行し、最終的に帝国滅亡エンドになるからだ。バルトニア帝国に攻め込み、ウルカン達とともに帝国を滅亡させる。



あまりに後味が悪いイベント。罪のない人々、子どもや女でさえ、爪に切り裂かれて青い粒子になっていく。残されたバルトニア帝国は廃墟のような有り様になり、新たな王となるウルカンが今度は人間を奴隷にするという胸糞エンドだ。



このイベントをクリアすると、本来バルトニアであったあらゆるイベントが進行不可能になる弊害もある。仲間にしてみてもウルカンは大して使えないし得る物がない。更にこのイベントのフラグを立てるのもライガスパートに比べてあまりに険しい。



ライガスパートはライガスに旧友のウルカンを説得してほしいと頼まれ、それを受諾するだけでフラグが立つ。結局ウルカンを説得することはできず、戦闘になり倒して終了だ。ライガスから少し悲しい顔で感謝を述べられ、報酬を与えられる。その後、ライガスをパーティに加えることができる。



ウルカンパートはライガスの頼みを断った上で、帝国兵を殺害したことがあり、ジャングルにいるレジスタンスの一人ウルカンの部下が死ぬ間際の遺言を伝えることでフラグが立ち、ウルカンが仲間になる。



このウルカンの部下が満身創痍状態でジャングルにいるのだが、広大なジャングルから探し出すのも大変だし、そのまま救出してもウルカンパートには入らない。途中で死んでもらって遺言を聞かないとならない。



きっとLOLスタッフは死んでしまった部下の遺言をウルカンに届け、暴君だと思っていたウルカンが悲しむことでギャップを演出する、なんて考えていたのだろう。だが、そこはやはりLOLスタッフ、設定をまたやらかしてしまった。



満身創痍のくせにウルカンの部下が強いのだ。「もう俺は死ぬ」「俺を助けてくれて、ありがとう」「お前のような人間がいたとはな」「もう歩くのもきついぜ」みたいなセリフを連発するくせに、普通にジャングルのモンスターを倒しまくる。



そのまま行くと死なずに、レジスタンスのアジトに戻ってイベント失敗になってしまう。プレイヤーが殺しても遺言を残してくれるのだが、普通に反撃されてかなり強い。



だから安全に死んでもらうために、モンスターの群れに上手く誘導して、タコ殴りになっているのを死ぬまで眺めて待つという方法が正攻法だった。



もちろん検証班は遺言の内容が分かっているから、部下を殺さずにウルカンに遺言を伝えてみたが意味がなかった。この部下が死んでいることが1つの条件になっている。



イベントに入るのも面倒な上、得が何もないため、ストーリーを見てみたい人のみが行うイベントとなっている。そのストーリーも胸糞で満足感も何もない。



「どう倒せば……」



リンは早速シミュレーションを始めている。いろいろと案を出してくるが、俺がだめな理由を挙げて却下することを繰り返した。なんだかリンは楽しそうだった。



俺は別にウルカンの革命とかどうでも良い。関わらないのが一番だ。俺の計画だと、アニマでライガスにあっさりと勇気のエメラルドをもらい、そのままジャングルに潜って奈落を目指すつもりだった。ネロがぺぺのことを依頼してきたことで状況が複雑になっている。



ぺぺの故郷を救う方法はいくつかある。1つは全員バルトニア帝国から遠い場所に移住することだ。たとえばグランダル王国。ぺぺがそれを独立だと認めてくれるかはわからないが、これが一番現実的な路線だ。



もちろんウルカンイベントを進めて、バルトニアを滅ぼしても独立することにはなる。それはあまりに極論すぎると思うので実践したくない。まさにぺぺがしようとしていた力による独立だ。



あとはバルトニアの偉い人に独立を認めさえるか。確かバルトニアの王様は本当にテンプレートな権力者で嫌な奴だった記憶がある。とても説得できるとは思えない。



ネロの前ではできると言ってしまったが、よくよく考えると結構大変なのかもしれない。小人族の村に行ったら、全員移住計画で説き伏せよう。飛空艇があれば何往復かすればそこまで長い時間をかけずに移住は完了するだろう。



グランダル王国なら王様に頼めば、小人族の自治領でももらえるはずだ。俺はそれだけの功績を挙げていると思う。次期王様らしいし。



「……ハルはどこに行ったの?」



話が落ち着いたときに、リンが聞いてきた。俺は首を横にふる。



「わからない。多分俺が死んだと勘違いして、どこかに行ったんだろう。そのうち戻って来るよ」



「なら良いんだけど」



リンはエールをくびっと飲んだ。



「レンとハルは同じ世界から来たんだよね? いつかは戻るつもり?」



「どうだろうな。俺はこの世界が好きだからな、少なくとも自由に行き来できる方法を見つけてから帰るかな」



「ふふ、それはレンらしい」



俺は他のテーブルを見回す。



ポチとドラクロワはアームレスリング大会を開いていて大盛りあがりだった。フレイヤが周りの客を扇動して金を賭けさせている。



みんなにポチのことが浸透したのか、明らかにポチの方が人気でドラクロワが大声で喚いている。ぺぺが当たり前のようにポチの前お金を置いて、ドラクロワがキレていた。



ヘルマンとダインはキレッキレの動きでサイリウムを振っていた。布教活動が順調に進んでいるのか、一緒に踊っている客が前より増えている。



ギルバートはデュアキンスとユキのテーブルにいる。周りの喧騒から隔離され、大人の空気が漂っている。その中でユキはリンゴジュースを両手で飲んでいた。



入口が開き、金髪イケメンが入ってきた。こいつと初めて会ったのもこの酒場だったな。



「実家に居場所がないんだ」



ラインハルトは俺と目が合うと気まずそうに言った。



「お! 神殺しの聖騎士様だ!」



ラインハルトに気づいた客達が一斉に盛り上がり始める。グランダル王国でもゼーラ教徒は多い。中継を見ていたようだ。一躍人気者となり、ラインハルトの周りには人だかりができた。



「本当にすごかった!」

「かっこよすぎ!」

「思わずときめいちゃった」



女性の客がラインハルトにアピールを始める。俺も一応この国を救ったんだが、イケメンというだけでこうも違うらしい。ラインハルトは髪を払った。謎のきらきらが空中に舞う。



「ふっ、僕にかかればあの程度造作もないさ。良ければあっちでその時のことを話そうか。おっと、男はいらないよ」



ちゃっかりと女性客だけをピックアップしながら奥の席に連れていく。相変わらずのラインハルトだった。



「くそがああ! 今のはフライングだぜ! 少しスタートの合図より早かった! もう一回だ!」



「ドラクロワ様、素直に負けを認めましょう」



「うるせえ! 次は絶対勝つ!」



「わん! ドラクロワ弱い」



ドラクロワはポチに瞬殺されたようだ。俺はいつも通りのそんな光景を見て思わず笑ってしまった。



「私はどっちのレンも……」



「ん? 何か言ったか?」



リンが俺の横顔を見て何かを言ったが、喧騒に紛れて最後の方が聞き取れなかった。



「フレイヤ、モノマネいきまーす!」



いつも通りに酔っ払っているフレイヤが酒場の中央に踊り出て注目を集めた。



「よっしゃ、かったぁぁ!!」



「フレイヤ、本当に、だめ、笑っちゃう」



フレイヤが奇妙な謎のダンスを披露して爆笑の渦ができている。それを見たユキが苦しそうに笑いながら、お腹を押さえていた。ものまねらしいが、俺には誰かわからなかった。



賑やかな喧騒の中で飲む酒は美味かった。



やっぱり俺はこの世界が好きだな。この仲間達が好きだ。置いていくという選択肢はない。改めてそう思った。




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