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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第6章 英雄の挑戦
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死霊術



俺達は一旦飛空艇でグランダル王国に戻ってきた。ゼーラはグランダル王国を消滅させたつもりだが、俺はサキエルの姿で嘘の場所を教えていた。グランダル王国は未だ健在だ。



ユースタスへの届け物もしないといけないが、飛空艇ではなく船で向かう必要があるため結構な時間がかかる。アンデットで待つことに慣れているだろうから後回しで良いかと、失礼なことを考えている。



ジェラルド達は自分達の家へと戻り、後は各自で自由行動とした。ドラクロワとポチとぺぺは意気揚々と遊びにいった。ドラクロワの性格のおかげか、ぺぺはすっかりと打ち解けている。あれは才能と呼んでも良いだろう。



女性メンバーは一緒に買い物をするらしく、楽しそうにはしゃいでいた。ギルバートは馴染の店に顔を出すと言っていた。彼はこの街で顔が広い。



久しぶりに俺は1人になった。まずは復興が進むグランダル王城に向かう。まだ工事中ではあるが、かなり元の形を取り戻してきた。この世界には魔法やスキルがあるので建築もその分早いのだろう。



門番に俺は顔パスだった。元気よく挨拶されたくらいだ。ちょっとセキュリティがぬるいのではないかと心配になる。城の中を進み、目当ての部屋に到着する。衛兵もあっさりと顔パスだった。



「国王、レン様がお見えです」



「通してくれ」



俺も偉くなったものだ。いつの間にか国王に簡単に謁見できる立場になった。



「レン、またこの国に戻ってきたのだな」



「はい。またすぐに旅立ちますが、国王にお願いがございまして」



「君は次期国王なのだから、遠慮せずに何でも言いなさい」



あれ、何故か勝手に次期国王にされている。



「……国王にはなりませんが、ありがとうございます。アニマのライガス王への紹介状を書いてほしいのです」



「ほう、ライガスか。アニマと我らは同盟国、私の書状があればアニマでは動きやすくなる。良いだろう、至急用意しよう」



「ありがとうございます」



「それはそうと少しエリスに会ってくれないか? 最近ストレスで剣を振り回していて大変なのだ」



「すみません。ちょっと急いで……」



「今回のライガスへの書状だが、やはりなかったことに……」



「いえ、会わせていただきます」



この国王、書状を人質にしてきた。それを言われたら仕方がない。



俺は大人しくエルザの執務室へと向かった。エルザは国王が復帰した後も国政を手伝っている。いずれは自分が王になるという自覚が生まれたからだ。



エルザの執務室の前に来ると騒がしい声が聞こえてきた。



「もうやだ! 勉強したくない! 全部切り刻むもん!」



「エリス王女、税金の勉強は国政に必要なことです!」



「やだやだやだ! 難しすぎて無理だもん! ぜいきんって何? わかんないもん!」



「危ないので剣を振り回さないでください!」



俺は気乗りしないが仕方なくドアを開ける。



エルザは剣を振りかぶったまま俺を見て固まった。そこから顔が赤くなっていく。無言の時間が流れる。しばらくして、エルザは取り繕ったように涼しい表情を作り出した。



「ふう、なるほど……税金というのはこの剣のようなものか。美しくも強く、人の命を守るもの」



凛々しい表情で剣を鞘にしまって残身を取る。さもそれが当然であるかのように振る舞う。こいつは税金というものを全く理解していない。



「レン、戻っていたのか。 今、私は勉学に励んでいる。この国を収めるために必要なことだからな」



ツッコミたくても指摘できない勉強係が口をぱくぱくしていた。



「この後すぐにアニマに行くんだが、ちょっとお前の様子でも見ようと思ってな」



「そ、そうか。すぐに行ってしまうのは残念だが、会いに来てくれたのは嬉しい」



本当は国王に言われて仕方なく会いに来たのが、そのことはあえて言わないで良いだろう。よほどストレスが溜まっていたのか、エルザは勉強なんてそっちのけで話を始めた。



結局手合わせをしようとなり、中庭で遊ぶことになった。俺がエルザの全ての斬撃を見切って回避し、撃沈したエルザは悔しそうだったが、どこか楽しそうでもあった。



俺はエルザと一通り遊んだ後、国王から用意してもらった書状を受け取った。



次は本題の人探しを始める。ゲームではだいたい出現場所が決まっていたから、その辺りを周る。



何ヶ所か不発で終わった後、俺は墓地でやっと彼を見つけた。なぜ墓地にいるのか不明だが、ゲームでは落ち着くからと言っていた。



「こんにちは! デュアさん!」



死霊術師デュアキンスが振り向く。相変わらずボロボロの包帯を顔に巻き付け禍々しい装飾品で着飾っている。どこからどう見ても敵キャラだ。



「お、お前は……」



デュアキンスはあからさまに嫌な顔をした。俺は今までに何かしただろうか。心当たりが全くない。



「デュアさん、聞いて下さいよ、俺今度アニマまで行くんです」



「あ、ああ、そうか……私には関係ないが」



「アニマでジャングルの奥地に古代遺跡があるんですよね」



「それは知らなかった……私には関係ないが」



「その古代遺跡、実は奈落への入口なんですよ! びっくりですよね」



「それは驚きだ……私には関係ないが」



「奈落では死霊術師の人がいてくれないと困ることがありまして」



「そうなのか……私には関係ないが」



「そこでです! ふと気付いたわけですよ! 知り合いに優秀な死霊術師がいることに!」



「ほう……そんな、知り合いがいたのか……」



「てことで、デュアさん、アニマまでついてきてください!」



「いや、私も自分の仕事で……」



「デュアさんってホント良い人ですよね、困ったときに頼りになるというか」



「あの……だから……」



「ああ、移動手段の心配ですか? 安心してください。俺飛空艇持っているんでひとっ飛びですよ」



「その……」



「デュアさん、感謝しています。俺はデュアさんがいてくれなかったら、アニマに行って死んでいたかもしれない。これが友情っていうものですね! さあ、行きますよデュアさん」



「あ……ああ……」



俺はデュアさんからの快諾ももらい、アニマまでついてきてもらうことになった。



デュアキンスと一緒に歩きながら、話題を考える。待っていてもデュアキンスから話題を提供されることはない。



「デュアさん、死霊術ってどんなものなんですか?」



「……興味があるのか」



「はい。ちょっと」



俺の脳裏にクラウスのことが浮かぶ。かつてユースタスとブラックを襲い、アトランティスを海底に沈めた男。その一味にかなりの腕の死霊術師がいたと言っていた。



「死霊術は魂を扱う技だ」



「魂ですか?」



「本当に魂というのかは知らぬ……生物は死ぬと青い粒子が出る……我々はあれを魂と呼んでいる」



あの死亡エフェクトにも設定が作られているようだ。



「死霊術は……魂を保管する」



「保管した魂をもう一度肉体に戻せば生き返るんですか?」



「生物は生き返ることなどない……」



デュアキンスはローブの懐から水晶を取り出した。中に青い粒子から舞っている。



「きれいですね」



「きれい……か。これが保管された魂……この魂を死んだ肉体に戻したもの……それがアンデットだ」



死んだときから肉体は朽ち始める。完全に白骨化した後に戻ったのが、ユースタスやスケルトンのような骨のアンデット。肉体が残っているうちに戻ったのが、グールなどのゾンビだ。



「でも、この前、グランダルを襲った悪魔は死んだ人間を生き返らせることができるとカーマインに伝えていました」



「ああ……器になる肉体を作り出すことができるスキルを……一部の悪魔は持っているらしい」



「あのときのカーマインの奥さんは一瞬で風化しました」



「魂の欠損が激しかったのだろう……私のように保管がされていなかった」



「魂が完全に保管されていたら、そのスキルで完全に復活できるんですか?」



「私は……知らぬ。だが……それはないと思っている。恐らく魂が拒否反応を……起こしにくい入れ物を作るスキル……一時的なものだろう」



「その人の肉体以外の物質に、魂を入れることはできますか?」



「……不可能だ」



これはユースタスの言っていた通りだ。それこそ人智を超えるほどの死霊術師と言われる所以なのだろう。



「レン……奈落に行くと言っていたな」



「はい。アニマで一仕事したら奈落へ行く予定です」



「奈落には……魂の記憶から……完全な肉体を作り出せる場所がある……そう聞いたことがある」



話が早くて助かる。



「記憶の泉。俺はそこを目指すつもりです」



デュアキンスは立ち止まって俺を見ている。表情が読めず何を考えているかわからない。



「お前は……いや……何でもない」



「そ、それ一番気になるやつですよ! デュアさん!」



その後、いつになく饒舌だったデュアキンスは口を閉ざし、俺が何を聞いても大した反応をしてくれなくなった。




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