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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第6章 英雄の挑戦
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次の目的地



ーーーーーーーーーーー



「レン君、ヒースクリフを助けてくれて、本当に感謝をする」



俺達は翌日、飛空艇でシーナポートに戻ってきた。案内されたジェラルドの部屋で成り行きを説明し、ジェラルドに頭を下げられた。素直な気持ちで相手に感謝できる、それがジェラルドの人望を作っているのだろう。俺は逆に恐縮してしまう。



「今回はラインハルトがヒースクリフを救ったんです。俺は何もしていません」



何もしていないのは嘘だが、ラインハルトの功績が大きいの事実だ。もはやゼーラ教では神殺しの聖騎士の名が浸透し崇められている。ラインハルトは便乗して美しいシスターに声をかけようとして、ヒースクリフに怒られていた。



ジェラルドが壁にもたれて偉そうにしているラインハルトに目を向けた。



「ありがとう。ラインハルト、よくやったな」



ラインハルトは驚いたように目を丸くした。夢なのかどうかを確認するために頬をつねっている。



「父上が……僕を……ほめた?」



「父が息子を褒めることなんて普通のことだろう」



「僕は今まで……まともにほめられたことなんて……」



「それはお前が褒められることを何もしていなかっただけだ」



ラインハルトとジェラルドの関係が少し分かった気がした。ラインハルトは不満げな顔だが、どこか嬉しそうだった。



「ヒースちゃん! マリリン心配したんだよ!」



「母上、心配をかけましたが、子どものように抱きつくのはよしてください」



ヒースクリフも今回だけは周りから説得され、休暇をもらって実家へと帰ってきた。マリリンからの猛烈なスキンシップを鉄壁の防御でいなしている。絶対にハグしたい元海賊団船長と鉄壁の防御を誇る騎士団長の攻防が繰り広げられている。この幸せな光景を守れて本当に良かったと思う。



コーネロは自らの罪を全て認め、懺悔した。彼にどんな処分が下るかは未定だ。



一方でコーネロが作り上げたゼーラ教はとても強固な組織力を持っていた。今回の騒動で解散するような宗教団体ではなかった。また別の人間がゼーラの教えを守っていくのだろう。



あの後、ラファエルとサキエルは天界へと戻った。サキエルは複雑な表情だったが、ミカエルとちゃんと話をしてみると言っていた。ラファエルはそのことにやけに満足そうだった。



俺は良い感じの雰囲気に便乗してサキエルにある物をおねだりをしてみたら、あっさり成功した。彼女にとって俺は仇討ちを手伝ってくれた恩人だからだろう。



オリバーと妹のフィーネは両親をなくしているため、故郷を離れてレオンとニキータと一緒に暮らすことになった。ニキータにも何か心境の変化があったようで、実家の獣人の奴隷を解放して再就職の手伝いまでしていた。



この世界には奴隷制度が存在する。それは当たり前のこととして受け入れられている。きっと元いた生まれた国に奴隷制度がなかったから、俺は奴隷制度を受け入れられないのだろう。



それが普通の世界では誰も違和感を持たない。何が正しいという絶対的な評価基準はない。



俺はドラクロワと話すぺぺに目を向けた。ぺぺはネロから俺達と一緒に行くように指示をされ、同行することになった。



ぺぺはドラクロワを気不味そうにしていたようだが、ドラクロワが全く気にせずに話しかけてくるので、いつの間にか以前の2人の関係に戻って見えた。



小人族か。アニマで暮らす少数民族。人間によって侵略を受け、奴隷として迫害されている種族だ。ぺぺはその族長の血を引いているらしい。



俺達の次の目的地は獣人の国アニマだ。南にある広大な土地を持つ大陸にある。熱帯の気候でジャングルが存在し、その密林の中を獣人族や小人族、その他の少数民族が生活している。



ジャングルの危険度は極めて高い。まあLOLではそれが標準かもしれない。ジャガーのような獣のモンスターやピラニアやヒルや蚊、アリと言ったモンスターが登場し、特に病原菌での死亡が一気に増える。対策なしでジャングルに入ったら3分で死ぬ自信がある。



そのジャングルの最奥地に奈落への入口がある。生者が間違って入らないように番人となる部族がそこを守っている。俺はアニマで勇気のエメラルドを手に入れた後、ジャングルを進み奈落へと行く予定だ。そこで最後の宝石、夢想のアメジストを入手する。



アニマのジャングルに隣接するようにもう1つの国家がある。バルトニア帝国。かつて獣人を迫害していた人間による国だ。獣人達は悪魔の力により覚醒者を生み出し、この国から自治を獲得した歴史がある。



バルトニア帝国はとにかく好戦的な国だ。周囲に侵略を続け植民地化し、領土を次々と広げている。幸いグランダル王国とは距離が離れているため影響はないが、もし近くにあれば容赦なく攻めているだろう。



俺はゲームでバルトニア帝国にはあまり良い思い出がない。LOLスタッフでも特に性格が歪んだ者がこの国のイベントをデザインをしたのだと思う。バルトニア帝国のイベントは陰鬱で救いのないもの、人間の醜さを象徴するようなイベントが多い。



人間のエゴを浮き彫りにし、力あるものがなきものから搾取する実力社会。なぜ楽しいはずのゲームでそんな鬱な思いをしなければならないのか。だから俺はあまりバルトニアには行きたくなかった。



「そういえば、次はアニマに行くんだったな」



「はい、次の目的地ですね」



「ちょうどジークが手紙をくれてね。今武者修業でバルトニア帝国に向かっているようだ」



次男のジークフリートか。シュタルクで会ったが3兄弟の中で一番好戦的な性格だ。純粋な強さを求めて定職にもつかず放浪している。そう考えればラインハルトの方が冒険者として働いている分、ましなのかもしれない。



「バルトニアは物騒だ。もし余裕があれば様子を見てくれないか。マリリンが心配しててな」



ジェラルドが優しい眼差しをマリリンに向ける。この3兄弟は本当に世話が焼ける。本当なら断りたいが、俺にジェラルドの頼みを断るという選択肢はない。



「わかりました。余裕があればバルトニアで探してみます」



「ありがとう。もちろん時間があればで良い。君のやることを優先してくれ」



やんわりとした約束をしておく。正直アニマの獣人達には会いに行くつもりだが、バルトニア帝国に行くかは迷っている。ぺぺの故郷を取り戻すと安請け合いしたが、俺が本気になると帝国丸ごと敵に回すことになる。



いや、それも別に悪くないかもしれない。戦闘面で言えばバルトニア側にはあまり脅威はなかったはずだ。今の俺達が負ける相手はいない。



一方でアニマの獣人の覚醒者は俺達でも勝てない。王様のライガスとか強すぎて意味がわからない。ライガスも含めて普通に生活していれば敵対することはないから大丈夫と思いたい。



注意すべきは狼の獣人ウルカンだけだ。ウルカンだけは覚醒者の中でイベントで戦闘になる可能性がある。絶対に避けなければならない戦闘だ。ゲームでこの狼に1000回以上殺されたことがある。そこからは数えるのをやめた。



俺は頭の中で行動計画を組み立てる。アニマは大した問題はなくクリアできるだろう。俺には切り札があるし、ゲームではドラゴンスレイヤーとかリヴァイアサン、神の使徒よりも難度はかなり低い。



問題は奈落だ。まともに戦闘していては勝てない悪魔が大量にいる。あのベルセブブ級の強さを持つ奴らがごろごろいる。命がいくつあっても足りない。



奈落の王とか勝てる気がしない。一応ゲームで勝てた人がいるからミレニアム懸賞イベントにはなっていないが、俺は一度も勝ったことがない。俺にとってゼウス戦と同じくらいの無理ゲーだった。



幸い戦闘を避けながら夢想のアメジストを手に入れることはできる。今回の目的は一度も戦闘にならないように奈落に侵入して、お宝だけ奪って戻って来るというものだ。コソドロ上等、それが英雄の戦い方。



奈落に行く目的はもう1つある。記憶の泉。奈落の最奥部にある泉。たどり着くことすら不可能と思えるほどの超難度。俺はゲームで何度も死にながら、運にも助けられながら記憶の泉へ到達した。そこであいつを仲間にした。俺のゲームでの最終パーティの1人。



覇王ウォルフガング。LOLの物理系最強キャラ。



ゲーム同様に仲間になってくれるなら、戦力の増強には申し分ない。もしかしたら生き返らせたことでアリアテーゼに感謝されて彼女も仲間になるかもしれない。そうなれば一石二鳥だ。



俺の脳裏にアリアテーゼの姿が浮かぶ。豊満な肉体を持つ絶世の美女。彼女は鬼の形相で俺に殺意を向け、魔法を連発している。



……やっぱりやめておこう。俺の理想郷(ユートピア)に入れようという案もあったが、怒った時が強すぎて恐怖の対象になってしまっている。あれは軽くトラウマだ。



アニマに向かう前に連れていかなければならないキャラクターがいる。一度グランダル王国に戻って迎えに行こう。



ウォルフガングを復活させるためには彼が必要だ。まだ承諾は取っていないが、彼なら絶対についてきてくれるはず。俺は確信している。



なぜなら彼は生粋のイエスマンだから。





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