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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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作られた存在



ゼーラが消え、クラウスを倒し、俺達はこの世界を救った。正義のダイヤモンドも手に入り、結果として全てが上手くいった。これで残された封印の宝石はアルマにあるエメラルドと奈落のアメジストだけだ。ソラリスの解放は近い。



その後、夜更けまで教会は信者に説明を行ったり、騒ぎを収めるのに大変だった。サキエルとラファエルが信者の皆に説明し、ラインハルトは邪神を討伐した英雄として称えられた。



コーネロは魂が抜けたように一言も話さなくなった。自分が人生をかけて作り出したものが、ただの怪物だった。そのショックから立ち直れていない。もうコーネロがこのゼーラ教を率いていくのは無理だろう。全てが明らかになった今、彼を支持する信者はいない。



ヒースクリフは途中で目を覚ました。そして、何事もなかったかのように教会のために働こうと動き出したので、ラインハルトが慌てて止めていた。



「この状況で私が寝ているわけにはいかない!」



空気が読めない石頭は折れる様子がなく、結局ラインハルトが折れた。ヒースクリフは精力的に騎士団員として働き出した。



ラインハルトに手を貸してくれたセイルという若い騎士はヒースクリフの復活を泣いて喜んでいた。仕事に向かうヒースクリフを「補佐します! 団長!」と言って後ろを着いていった。



俺達は騒動が落ち着いた夜遅くに与えられた客室に通された。ポチとフレイヤは疲れ果てて既に寝息を立てている。



俺は部屋を出て1人である場所に向かった。高級そうな革張りのソファがある部屋に入り、既に待っていた相手と向かい合った。今回の騒動のきっかけを作った元凶であるネロだ。



「こうやってゆっくり話すのも久しぶりだな」



俺はソファに腰掛ける。



「そうだね。レンくんは忙しい人だから」



「それでお前はこれからどうするんだ?」



「はは、もうレンくんの邪魔はやめるよ。レンくんが死んじゃったとき、さすがに辛かった」



「それは助かるよ」



俺が打った策は大成功していたようだ。これでネロに注意する必要がなくなる。



「本当にレン君は人が悪いよ。僕にゼーラへの興味をなくさせるためにわざと僕に死んだ場面を見せたんでしょ?」



ネロは俺の思惑に気づいていたか。



「さあな」



「僕はレンくんへの興味でいろいろちょっかいをかけてた。気になってたまらなかったから」



天才ネロ。彼の設定は知識欲が強くすぎることだ。知りたいことがあると我慢ができなくなり暴走する。そう性格が設定されている。



「でもね……本当にそれが僕の性格なのかな。ここまでいろいろなことがあって、僕に1つの仮説ができたんだ。聞いてくれる?」



ネロの雰囲気が変わった。俺への視線が鋭くなる。



「ああ、聞こう」



ネロは前のめりになり、俺に顔を近づけた。大きな瞳には純粋な輝きがあった。


















「この世界は人工的につくられた世界だと思う」


















俺は思わず動揺してしまった。それは核心を突いた言葉だった。NPCが自分でこの世界がゲームだと気づく可能性などないと思っていた。



「この世界は歪だよ。そもそもスキルや魔法の使用メカニズムも不明だし、魔法学は昔から研究されているけど、魔法が使える前提で研究されている。なぜ魔法が使えるのか、スキルが使えるのか、その根本的な部分は当たり前のこととして皆に刷り込まれている」



当たり前の前提すら疑える。ネロはこのLOLでイレギュラーだ。天才という作者が決めた設定が、作者の思惑を越えてきている。



今思うとネロはゲームでは取るはずがない行動ばかりして、ここまで強くなってきた。バクバクを『スキルコピー』したことだって、ゲームでは考えられない。この世界で唯一真実にたどり着く存在がいるとすれば、それはネロしかいない。



「ほとんどの人は気づいていない。何者かに恣意的に作られたルールに縛り付けられていることに。この世界の外側に誰かの意思が介在する」



ネロの大きな瞳は俺の反応をつぶさに観察している。こいつは俺で答え合わせをしている。



「そして、レンくん……君はその外側の人間だね」



ゲームの中のキャラクターがその世界がゲームだと気がついた。それは自分の存在すら疑うことになる。本来ならそこに信じたくないという心の葛藤が生まれるだろう。



だが、ネロは自分が作られたキャラクターであることさえ、客観的な事実として受け入れた。俺はもう否定をしない。



「そうだ」



ネロは無邪気な子どものように舌なめずりをした。自分の仮説が正しくて嬉しいのか。



「レンくんの戦い方は膨大な知識がなければ不可能だった。それに発想もこの世界の人が考えつくとは思えなかった」



「LOL、この世界を俺達はそう呼んでいる」



俺はネロに全てを話した。ここまでたどり着いているなら隠す必要もないだろう。この世界がゲームであること、世界最高の無理ゲーであること、俺が英雄と呼ばれるプレイヤーであること、俺がここに来た記憶が消えていること、ハルが俺と同じ現実世界から来たこと。



ネロはその柔軟な脳で全てをすんなりと理解した。既に自分を作り物だと確信しているネロだから、あっさりと受け入れることができたのだろう。



「それは興味深いね」



「ネロ……お前はショックじゃないのか? 自分が作られた存在だって知って」



「ショック? 僕にはその気持ちはわからないよ。むしろ真実が明らかになって嬉しくてたまらない。だからメリーに人の気持ちがわからないと言われるんだろうね」



ネロは新しく手に入れた情報を今、高速で整理している。そして、今まで解き明かせなかった事象にその手に入れた情報を合致させている。それが楽しくてたまらないのだろう。終始笑顔だった。



「レンくんはこの世界から出ていくの?」



「まだわからないな。一応脱出する方法は探すつもりだ」



「できれば行かないでほしいな」



「どうしてだ? 俺の正体も知れてもう俺への興味もそこまで強くないだろ」



「だって僕の初めての友達だし」



「……」



初めて知ったが、俺はネロと友達だったらしい。ここで否定するのも可哀想なので俺は口を閉ざした。



「僕も自分なりにこの世界を調べてみるよ。 もし元の世界へ戻る方法を見つけたり、記憶を取り戻す方法が見つけたらレン君に教えるね。メリーが友達なら相手に利益をもたらすものだって言ってたし」



ネロが友達の本当の意味を知るのはもう少し先になりそうだ。



「ああ、それは助かる」



「あとぺぺを連れていってほしい。この後、アルマに行くんでしょ? ちょっと小人族を救ってきてよ」



ぺぺか。元ドラクロワの部下の小人族。確かに小人族は人間から迫害を受けている。



「随分簡単に言うな」



「レンくんならできるでしょ?」



「……ああ、多分できる」



「やっぱり」



俺への信頼度がかなり高いようだ。ネロは通信用の黒水晶を俺に差し出した。



「これで僕に連絡できるから、何かあったら呼んでよ」



俺はネロから黒水晶を受け取った。ネロはその後、思い出したように付け足した。



「それと……1つ謝らないといけないことがある。レンくんから奪ったあのダルマ、探したんだけどなくなってた。多分クラウスじゃないよ。彼ダルマに近づくと意識失うから」



ダルマが消えた。誰が持ち出したのだろうか。悪用されれば厄介なことになる。



そして、俺にも1つの懸念があった。ゼーラとクラウスを討伐した後、俺は仲間と合流した。死んだふりをしていたこと、心配をかけたことを謝った。その場には1人足りなかった。



ハルの姿が消えていた。教会中を探してみたが、結局ハルはどこにもいなかった。




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