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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
325/370

ゼーラ討伐


___________________



ああ、それで良い。それが英雄の思考だ。



これは賭けだった。ネロがいる中で、ゼーラを倒すにはこれしかなかった。



()()賭けに勝った。



七光りの冒険者は群衆の声により、神殺しの聖騎士へと成り上がる。神を騙る邪神を倒す。まるでお伽話のようなシナリオだ。



今回は主役を譲ろう。世界を、家族を救うのは俺じゃない。



俺は手に持った正義のダイヤモンドをゼーラに近づける。ゼーラがそれを受け取ろうと手を伸ばす。全てを弾く結界の中に俺は入り込んだ。



じゃあな、紛い物の神様。お前が思っているほど人間は弱くない。
















『スイッチ』

















ーーーーーーリンーーーーーー



光輝くラインハルトの姿。これはシーナポートのビーチバレーで見たことがある。ラインハルトが剣を振りかぶる。



次の瞬間、ラインハルトはサキエルの姿に変わった。私はこのスキルを知っている。対象範囲の人物と自分の居場所を入れ替えることができるスキル。あの人がよく使うスキル。



いつの間にかゼーラの側に光を纏うラインハルトが移動している。既にラインハルトはゼーラの結界の中にいた。



振り下ろされた片手剣から光が迸り、ゼーラの身体を貫いた。ゼーラから絶叫が聞こえる。侮り続けた人間に、自らを貫かれる。絶対の存在であるはずの自分が失われる。



ゼーラは唖然とした表情のままだ。まだ現実が受け入れられていない。なぜサキエルが消え、ラインハルトが結界の中に現れたのか。理解ができていない。



少し遅れ、ゼーラは自身の変化に気がついた。明らかな焦りが浮かぶ。



「あ、ありえない、な、なぜ、なぜ、この我が」



頭の中に直接ゼーラの声が流れ込んでくる。ここにいる全員に届いているのだろう。あまりに強い思念だ。



「わ、我が、消えていく? な、なぜ、たかが人間に?」



自分でも理解が追いつかないうちに、ゼーラはそのまま気を失うように倒れた。豪雨のように降り注いでいた圧が完全に消えた。



その様子を下から見届けたサキエルが、ガッツポーズをして叫んだ。それは見慣れていて、何よりも愛しい光景だった。















「よっしゃ! 勝ったぁあああ!」



サキエルが謎のダンスを踊り出す。私は視界が霞んでよく見えなかった。











ーーーーーーレンーーーーーーー



ユキが部屋にやってきてゼーラが現れたと伝えてくれた瞬間、俺は行動を決めた。ゼーラを倒すためにはこの方法しかなかった。



ラファエルはサキエルの説得に成功していた。全てはミカエルのおかげだ。ラファエルはミカエルからあるアイテムを授かっていた。時詠みの鏡。ある神族が作り上げた天界の宝具。



ラファエルは天界を出ていくとき、ミカエルにもそのことを伝えていた。そのミカエルがゼウスの許可を得て、ラファエルに時詠みの鏡を授けてくれた。結果、サキエルはゼーラの本性を知った。



俺達はネロとゼーラが来た時にはもう和解して戦っていなかった。だからユキが飛び込んできた時、一瞬で判断した。サキエルに透明マントを被せ、俺がサキエルを『イミテート』し同じ姿になった。



そして、俺を『捕食』しているバクバクは俺と同じスキルが使用できる。バクバクに俺を『イミテート』させた。同時にゼーラが姿を見せた。



内心正体がばれるかとヒヤヒヤしていたが、ゼーラは呆気なく俺の姿をしたバクバクを殺した。バクバクには申し訳ないことをしたが、テイムしたモンスターはアルマに行けば復活できる。マーカスから借りたモフメーも復活させるつもりだったから、この後アルマに向かうつもりだ。



『イミテート』の効果時間は持続の腕輪の両手付け替えによって延長することができる。これで俺はサキエルに成り代わることができた。更にもう1つの狙いであるネロの無力化に成功した。



ネロは本当に厄介な存在だった。ネロがいるだけで俺のやりたい作戦の成功率が一気に下がる。



だから、ネロを無力化するために目の前で俺の死を見せることにした。ネロが俺を邪魔してくるのは俺が危機を予想外の方法で乗り切るからだ。それがもし俺が何もなくあっさり死んでしまったら。ネロは恐らく深く後悔する。



ネロは一気にゼーラから興味を失う。そうなれば俺のことがバレる可能性は低くなる。俺はネロの心理を誘導するためにこの作戦を考えた。



問題は仲間にそのことを伝えることができないことだ。絶対に俺の正体がばれてはいけなかったし、サキエルの姿ではゼーラの側を離れることが難しかった。



俺の正体を知っていたのはあの時一緒にいたユキとラインハルト、そしてラファエルとサキエルだけだった。念のため一番不安なラファエルには絶対に口外しないように釘を刺しておいた。



他の仲間には申し訳ないことをした。最後に偶然現れたリンには心の中で謝った。辛い思いをさせることがわかっていたから。



そして俺の最終目標、ゼーラ討伐のためにはもう1つのピースが不可欠だった。ラインハルトだ。俺は最初からラインハルトを連れていくつもりだった。まさか自分から名乗り出てくれるとは思わなかったが、ヒースクリフが依り代にされたのなら当然かもしれない。



ラインハルトのユニークスキル『ヒーロータイム』、シーナポートでジョニーとの戦いで見せた技だ。『自己陶酔』により、ラインハルト専用隠れステータスであるテンションを上げ、テンションがマックスになることで発動できるスキル。



効果は全てのステータスの向上と、剣で切ったものの()()()()()()()()()()()



LOLでラインハルトをパーティに入れる人が多かった理由はこのスキルにある。『ヒーロータイム』の汎用性は異常に高い。本来の趣旨とは異なり、回復スキルとして重宝された。



たとえば、味方にかかったデバフや状態異常も全てリセットできる。石化状態や麻痺状態などの厄介の状態異常になっても、『ヒーロータイム』中のラインハルトに味方を攻撃させれば全て回復することができる。



悪魔との戦闘では、憤怒や暴食などの7つの大罪系状態異常が非常に厄介となる。その効果すら、ラインハルトは打ち消すことができる。



ラインハルトがいないと討伐が難しい敵はいくつも存在する。これがLOLプレイヤー達がラインハルトを重宝した理由だ。



ある村で呪われた女の子を助けるために洞窟に向かうという、いかにもRPGっぽいイベントがある。ゲームではこのイベントの設定である呪いさえ、ラインハルトの『ヒーロータイム』で回復できた。



女の子が元気になって走り回っているのに、周りの大人のセリフは変わらず、元気に走れなくなったこの子が不憫でとわけのわからないセリフをNPCが口にしているという構図になってしまう。



結局イベントクリアするために、もう解かれている呪いを解くために洞窟でボスを倒すという意味のわからないことをする必要があった。



だから俺は今回、ラインハルトの『ヒーロータイム』でゼーラに依代にされたヒースクリフをリセットできるのではないかと考えた。『ヒーロータイム』の効果から考えて勝算はかなり高いと思った。



最後の障害はゼーラの結界だった。いくら『ヒーロータイム』を発動していても、あの結界があればラインハルトの剣は届かない。



俺はイベントの強制力を利用することにした。ゲームではゼーラが完全に覚醒した後のお披露目で、サキエルが正義のダイヤモンドを手渡すという演出があった。あの時、明らかにサキエルは結界の中に侵入していた。



俺はそのサキエルのゲームでの行動を忠実に再現した。イベントの強制力もあり、ゼーラは受け取ってくれた。



ラインハルトにはその瞬間に『ヒーロータイム』を発動した状態で俺の『スイッチ』の範囲内にいるように指示をした。中々難しい指示だったが、よくこなしてくれた。



ラインハルトはずっと群衆に紛れて『自己陶酔』をし、テンションが最大になったときに行動を始めたが、途中クラウスに邪魔をされたことで『ヒーロータイム』がキャンセルされた。



その後のラインハルトの動きはまさにファインプレーだった。俺のタイミングに合わせるために、ラインハルトは群衆を利用した。



テンションが上がるシステムに関しては事前に伝えてあった。自分を応援してくれる観客が多ければ多いほどテンションが上がりやすくなる。



だからラインハルトは自らを邪神を討伐する英雄と名乗り、その美しい外見と迫真の演技力により群衆の支持を得た。まさにラインハルトでしか為し得ないことだ。



全てのピースが揃った。これが俺が探し出した神討伐への栄光への道(デイロード)だ。



ゼーラがいなくなればもう怖いものはない。クラウスは確かに強いが、もう奴への対策は考えてある。もうクラウスは何もできない。





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