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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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天空の神



ーーーーークラウスーーーーー



ネロが執着したレンという男の強さを結局俺は知ることはなかった。呆気なくゼーラにやられた。ネロの買いかぶりだろう。その程度の男だったというだけだ。



ネロは脆かった。レンという存在を失った後はまるで抜け殻のようになってしまった。それはレンの仲間も同じだ。精神的支柱を失い、もう反抗する気力も失っていた。殺すこともできたのだが、相手が無気力過ぎて俺のやる気までなくなったので、捕らえて教会の牢屋に入れた。



このままだとこの世界はゼーラの思い通りになるだろう。ラグナロクの再来か。



あの当時は何も思ってなかったが、今なら冷静に考えれば分かる。もしゼーラがこの世界を手に入れれば、ゼウスが放って置かないだろう。天界との全面戦争。まさに終末だな。



ネロの見立てだとゼーラがレンに負けると言っていた。だから、俺は静観していた。ゼーラがどうなろうと俺はどうでも良かった。結果としてネロの予想は外れた。



ならば一度ゼーラに挨拶でもしにいこうか。この後のことを考えたら、ゼーラに媚を売っておいた方が良い。ネロは使いものにならなくなる可能性がある。これが俺の処世術。



俺はコーネロの目を盗んで、ゼーラの部屋へと入る。ゼーラは相変わらずサキエルを従えて王座でふんぞり返っている。



「何の用だ?」



「ちょっと自己紹介しておこうと思いまして」



「別にお前のことなど知りたくもない」



「そんな連れないこと言わないでくださいよ、ウラノスさん」



「……お前は何だ?」



本名を知っているとアピールすれば食いつくとは思っていた。ゼーラという名はコーネロが作った架空の名前だ。こいつの本名はウラノス。かつて天界でゼウスに次いで2番目の権力と力を持っていた神族。神族の優位性を信じて疑わず、地上を征服しようと企てた男。



「ほら、ウラノスさんがこの世界を侵略しようとしたときのラグナロクの一員ですよ、覚えていないですか?」



「驚いたな、あの組織の一員か……さすがに1人1人のことなど覚えていないが」



「まあそうでしょうね、一応これでも剣技もそこそこ強くて、当時は神獣の召喚も扱えたんですけど、覚えてないですよね」



「神獣だと……待て、思い出した、心当たりがある、確かに自力で天界までやってきた男がいた、それを我が目をつけて部下に引き入れた」



「そうです、そのクラウスです、お久しぶりです」



ウラノスにはじめて動揺が見えた。信じられないことがあるのだろう。理由は分かる。



「馬鹿な、あの男は人間だった、あれからどれだけの年月が経っていると思っている、生きているはずがない」



「そう、俺は人間ですよ、まあ元と言った方がいいですね」



「アンデッドか?」



「まあ似たようなものです、こっちもいろいろありまして」



当時、俺はウラノスの指示を全うするため、地上で仲間を集めた。ウラノスの手足となる地上の実行部隊、それが俺達ラグナロクだった。俺達が行う破壊活動なども世間ではラグナロクと呼ばれていた。



ウラノスは上手く動いていた。天界のゼウスに悟られないよう、ラグナロクを使って少しずつ水面下で計画を進めていた。しかし、ゼウスにそのことが露呈し怒りを買った。結局ウラノスは負け、ゼウスの手先によって封印された。



俺は1つ後悔していることがある。当時、俺はラグナロクの組織するためのメンバーを集めていた。あの時、俺があいつを引き込まなければこんなことにはならなかった。



その男の戦闘能力は大したことがなかった。だから、使い捨てのその他大勢一人の認識だった。だが、奴は死霊術の分野において最強だった。その実力をずっと隠していた。この世の理すら変えるほどの力を持っていた。



俺は奴に裏切られた。俺の目的はこの世のどこかにいる奴にもう一度会うことだ。ネロが俺を自由にしてくれた。ネロは俺が力を貸す代わりにその男の所在を探すことを手伝ってもらっている。ゼーラ教の白に世界各地の情報収集をしてもらっている。



「ふっ、懐かしいな、人間でありながら天界まで乗り込んで神に喧嘩を売っていたあの男か」



「若気の至りってやつです、またウラノスさんの下で働けて光栄ですよ」



「今の我はゼーラだ、そう呼びなさい」



「分かりましたよ、ゼーラ様」



「ふふ、神にも匹敵する貴重な戦力だ、期待しているぞ」



さすがに昔の強さには遠く及ばないが、ここは言わない方が良いだろう。上手くウラノスを利用しながら、ゼウスの影がちらついてきたタイミングでこっそり逃げ出そう。さすがにゼウスたちと真正面からやり合うのはごめんだ。



どうせゼウスが動き出したら、ウラノスが負ける。泥舟に乗るつもりはない。









ーーーーーハルーーーーーー



先輩がいないのなら、もうLOLにいる必要はない。やはりこの世界は異常だ。あの先輩ですら、死んでしまうのだから。



『デバックスキルβ』によって、俺もここまで何とか生き延びてきたが、クラウスと戦って分かった。俺もそう長い時間かからず、このLOLに殺される。ここはそうゆう場所だ。



俺は本来の目的と同時並行でこの世界からの脱出方法をも探っていた。しかし、まだ見つけることができていない。恐らく失った記憶を取り戻す必要がある。記憶阻害により俺は重要なことを忘れてしまっている。



俺は部屋の中を見渡した。鉄格子はあるが、きれいな洋室ような場所だ。ここがこの教会の牢屋なのか。教会に牢屋がある時点でまともな宗教じゃないな。



他のメンバーは別々の部屋に個別に監禁されている。助け出そうとは思えない。先輩がいなくなった今、彼らと仲間でいる意味はない。



リンの顔が頭に浮かんだ。先輩を生き返らせると言っていた。彼女はあきらめていない。少し眩しく、そして羨ましく思えた。



空中に霧散してしまった魂は絶対に生き返らせることができない。死霊術師でもあの場にいたら話は変わるが、そう都合良くもいかない。



今更だが、先輩はデュアキンスを正式なパーティに入れておくべきだった。デュアキンスは戦闘能力が高くないが、貴重な死霊術師だ。リスク管理の面で、もし死んでも奈落で復活できる状況にはしておくべきだった。



きっと先輩は自信があったから、自分が死ぬ可能性なんて考えなかったのかもな。



英雄というのは、ある一線を越えれば狂人の類だ。この世界には覆せる不可能と、覆せない不可能がある。全てを覆そうと足掻くのは一種の病気と呼んでもよい。



俺には分かる。先輩を生き返らせるのは、覆せない不可能だ。



「あれ……」



頬に冷たい感触がした。



俺は泣いていた。涙が頬を伝っている。ああ、一人になって今更、悲しくなってきた。



俺の憧れた先輩、先輩のおかげで俺は救われた。俺は先輩を守りたかった。なのに、俺は先輩を守りきれなかった。



その悔しさと悲しさで頭がおかしくなる。












「なんで……あなたが死ぬんですか……俺は……俺は……まだ……」













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