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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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神を操る者



ーーーーーネローーーーー



僕はゼーラの下へと向かった。レンくんの最終的な目的はゼーラ討伐。最終的にはゼーラの所に向かう可能性が高い。僕が中央塔を登ると、コーネロが落ち着かない様子でそわそわしていた。



「ネロ! 良かった、君が来てくれて」



コーネロから状況を聞く。サキエルがラファエルという旧友に呼び出され、その間に下で侵入者による暴動が起きたので不安だったようだ。クラウスや僕がいなかったことで、その不安に拍車がかかっている。



ゼーラが完全に覚醒するまでコーネロは過敏になっている。ここまで計画を進めるために、彼は膨大な時間と労力を注いできた。最後にゼーラが討伐されることなどあってはならない。そう考えているのだろう。



ラファエルはサキエルをおびき寄せる餌だ。レンくんがサキエルを呼び出すために利用していると考えて良い。どのような理由があるのかは不明だが、レンくんはゼーラより先に取り巻きのサキエルを倒すことを優先した。



今どこかでサキエルと戦闘をしている。レンくんの場合、ドラクロワのように派手な騒ぎは起こさないはず。実際に今、ドラクロワ以外の騒ぎは起きていない。



レンくんが、周囲の者を自分と同じステータスにするサキエルのスキルを知っている可能性もある。彼は普通なら知り得ない情報を持っている。



ラファエルという神族を利用して、サキエルを単独で孤立させていると思って良いだろう。ゼーラ教会はかなり広い。使われていない部屋もいくつかある。



僕はゼーラ教会全ての見取り図を思い出す。ここに来たときに暗記しておいた。この中央塔から移動可能な範囲で使用用途がない部屋を4つまで絞り込む。



その部屋のどこかにレンくんはいる。僕もサキエルに加勢しに行こう。僕は歩き出した。



「ちょっと待ってくれ、ネロ、今ゼーラ様の護衛が足りない、君にはここにいてもらわなければ困る」



コーネロが慌てて止めてくる。煩わしい。どうせレンくん以外にゼーラを倒すのは不可能だ。そのレンくんが戦闘中なのだから、護衛など無意味。コーネロが見えている景色と僕の見ている景色が違いすぎる。



僕は無視して部屋を出ようとした。しかし、そこで立ち止まった。コーネロがそんな僕を見て、安堵の息を漏らしている。



違う。僕が立ち止まったのはコーネロのためなんかじゃない。面白くないからだ。サキエルの戦闘能力はかなり高い。クラウスなら可能だと思うが、僕では倒せない。そんな僕がサキエルに加勢して何の意味があるのか。



レンくんはまた何らかの手段で強くなっている。先程のリンやもう一人の男を見てそう感じた。僕は『捕食』により多種多様なスキルを手に入れている。しかし、そもそも戦闘が得意ではない。ステータスとスキルを利用しているだけだ。レンくんにとって、僕の戦闘力はそこまでの脅威じゃない。



そう考えた時、僕の脳裏に1つのアイデアが舞い降りた。



「……面白いな」



リスクはある。だが、面白い。僕は自分のアイデアに賞賛を送る。僕がただ加勢するだけなんて物足りない。



レンくんはいつも緻密な計画によって、無理難題をこなしている。その計画を大きく崩したら彼はどうするのだろうか。



そう、レンくんはきっと僕が雪山から戻って来る可能性まで考慮している。その後、僕が戦闘に加勢することも可能性の1つとしてシミュレーションしているだろう。レンくんはそんな芸当ができる相手だ。



だから、レンくんの計画を狂わせるためには、アイデアを飛躍させないといけない。



「ネロ? 何を笑っているんだ?」



どうやら顔に出てしまっていたようだ。コーネロからしたら悲鳴を上げるようなことだろう。彼には悪いけど、僕は僕のやりたいことを優先する。僕は踵を返して、入口とは反対の方向へと歩き出す。



「ネロ! な、何をしている!」



コーネロを無視する。彼は本当に愚かな人だ。僕を仲間だと勘違いしている。僕はただレンくんに興味があるだけなのに。コーネロの掲げる理想など何の興味もない。



ドアを開ける。王座のような椅子に目を閉じた男が座っている。元々はヒースクリフという男だったと聞いていた。



ゼーラは顔を上げる。目を閉じていても関係ないのだろう。僕のことを認識している。



「お前は誰だったかな?」



「ネロです」



僕は片膝をついて頭を下げる。既に面識はあるはずだがゼーラは忘れている。彼にとって人間など些細な存在なのだろう。固体を区別することさえもしていないかもしれない。



「ゼーラ様に報告がございます」



「なんだ?」



「今、ゼーラ様を討とうとする者がこの教会に侵入しています」



「我を討つ? ははは、そんなことは不可能だ」



「はい、私も不可能だと思います、しかし、どうもゼウスの手先のようでして」



空気が変わる。明らかな反応が見える。神を名乗っていても所詮はただの生物。神族は人間と違う特徴を持つ種族というだけだ。特別な存在でも何でもない。



「ゼウスだと……」



事前にサキエルから情報は引き出している。彼女は単純な女だった。ゼーラを持ち上げ、サキエルに共感すれば自分から自慢するように詳細を語ってくれた。



ゼウスの名前が出れば、ゼーラは放っておけない。神を操ることも簡単だ。



「はい、ゼウスが刺客を送ってきました、今サキエル様が下で戦っていますが……恐らくこのままでは負けてしまいます」



なぜ僕がそんなことを知っているのか。冷静に考えれば疑問に持つ。しかし、彼は僕のことなど全く興味がない。だからこそ騙されてくれる。



サキエルという貴重な戦力を失うことは嫌がるだろう。ゼウスにやられたのならばなおさらだ。既に自分を守る鉄壁の結界は復活している。ゼーラは自身を守る障壁に絶対の自信がある。これで彼の取りうる行動は1つに限定できた。



「なるほど、では我が直接のその刺客を殺そうか」



ゼーラが王座から立ち上がる。そう、それで良い。僕が考えたアイデア、それはこちらからレンくんにゼーラを差し向けること。



もちろんレンくんがゼーラを倒してしまうリスクはある。でもその可能性はほとんどないと思っている。レンくんは今まで入念な準備と計画の上で不可能を越えてきた。準備ができていない状態で、予想外にゼーラと戦闘になればレンくんの計画は大きく崩れるだろう。



「な、何を言っているんです! ゼーラ様、今は完全復活の前の大切な時期です! どうか冷静にお考えください!」



違うよ、コーネロ。そうじゃない。それだと逆にゼーラは止まらない。



「貴様は我が負けると思っているのか?」



コーネロが言葉に詰まり、冷や汗を流している。



「あ、あなたは私にとって、大切な存在です、万が一も……」



呆れてしまう。だからコーネロ、君は長い年月を無駄にしてきたんだよ。ここで自分の願望を言っても意味はないどころか逆効果だ。そんなことも分からないとは。ゼーラは人間のことなど、コーネロも含めて虫けらとしか思っていない。なぜ神が虫けらの気持ちを汲まなければならばいと思っている。



どちらにせよ、残念だけどコーネロの夢は叶わない。彼はゼーラのことが書いてある古文書を解読し、復活へとたどり着いた。だけど彼はその全てを解読できていない。彼が長年かけて解読できなかったものを僕は既に全て解読している。



ゼーラは救済の神なんかじゃない。ただの傲慢な破壊神。ゼーラは完全に復活すれば、ただ力のままに世界を蹂躙するだろう。コーネロはそこで絶望する。自分が長年かけて復活させた存在は世界平和どころか、世界を滅ぼす存在だと。



別に同情なんてしない。コーネロの能力が足りなかっただけ。この人は平和を願いながら、世界を滅ぼす凡人だ。



「貴様の気持ちなどどうでもよい、我に指図をするな!」



小さな神雷がコーネロの頬をかすめる。コーネロは怯えたように尻もちをついた。



「小僧、案内しろ」



表情には出さないように注意する。思わず頬が緩んでしまいそうだ。本当にゼーラは単純だな。これが神を名乗るのだから余計におかしい。



「はい、分かりました、案内します」



これでレンくんとゼーラの戦いを最前列で見れる。ゼーラは完全復活していないとはいえ、戦闘能力だけでいえば僕やサキエル、クラウスよりもはるかに強い。結界に守られているからどんな攻撃でも受けつけないし、神雷の威力が凄まじい。僕でも一撃で死ぬ威力だ。



さあ、レンくん、僕からの贈り物だ。ゼーラとの戦いの舞台を用意してあげたよ。君の戦いを見せて。




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