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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
312/370

想像できない



ーーーーードラクロワーーーーー



ぺぺが俺の顔色を伺っている。何となくだが直感で分かった。こいつは嘘をついていない。少し腹が立ってきた。俺はぺぺに一度もそんな相談をされなかった。



「何でそれを俺にもっと早く言わねえんだよ! 俺なら国ぐらい楽に取り返してやれるぜ」



「ドラクロワ様……失礼ですが、それは無理ですよ、力は必要ですが、力だけでは足りません、ネロ様のような頭脳もなければ独立など不可能です」



「ふん……久しぶりだな、お前にそうやって否定されるのは」



いつも俺が大口を叩いて、ぺぺが否定するのがお決まりの流れだった。今思うと結構良いコンビだったように思える。



「どうしますか? 私をここで殺しますか? それとも見逃しますか?」



ぺぺの野郎、答えが分かってて聞いてやがる。何だか気に食わないが仕方がない。



「ふん、なんだかどうでもよくなった、勝手にしろ、でもな、あの白いガキは信用しない方がいいぜ」



「ネロ様のことですか?」



「ああ、理由はねえ、俺の直感だ、あいつは信じない方がいい」



俺はふと考えた。別にぺぺを許したわけじゃない。俺にはきっとぺぺの願いを叶える力なんてないだろう。だが、1つだけ俺に心当たりがある。もしかしたら、いや、あいつならその望みを叶えられる。



「きっと……あいつならお前の願いを叶えられる」



自分で言って自分で驚いている。俺はいつからそんなにレンを信頼していたんだろうな。あの男は特別だ。それは認めている。



一緒に旅をすれば嫌でも分かる。あいつは賢い。だが、レンの凄さは賢さだけじゃない。上手く言葉にはできないが、もっと別のものだ。あいつが集中をするとき、俺はぞっとすることがある。話しかけられない凄みというのか、何というのか。



俺は魔王城にいたとき、ネロとも何度か会話している。確かにあいつは頭が良いんだろうな。でも、レンとは似ているようで別物だ。



レンは俺が知る中で最強の男だと思う。普段は間抜けな部分とかちょっとおかしい部分とかいっぱいあるが、本気になった時のレンはまさに異常だ。求める結果を手に入れるために、あいつはその道を強引に作り出す。ダンテや魔王すら倒せるんじゃないかと感じてしまう。



俺はあいつが負ける姿が想像できない。



「それはレンくんのことかな?」



背後で声がした。この声には聞き覚えがある。リンが下手を打ったな。



「よう、ネロ、久しぶりだな」



白髪のガキが背後に立っている。俺はデストロイヤーを構えた。あの時の借りは返させてもらおう。



「ごめんね、君を相手にしている暇はないんだ、レンくんの居場所を教えてくれないか?」



「ああ、いいぜ! 俺を倒せたら教えてやる」



デストロイヤーを思い切りネロに叩きつける。ダメージ反射とか、カウンターとかそんな難しいことは考えねえ。駆け引きなんて奴の土俵だ。俺はただ力で叩き潰す。



床がえぐれるが、そこにネロの姿はない。一瞬で少し離れたところに移動している。速いな。これは移動スキルか。レンが注意するように言っていた。ネロがいつの間にか短剣を抜いている。



ギルさんが一瞬で狙いをつけて銃を撃つ。俺はその攻撃を邪魔しないように軽く周りこんで、ネロを追撃する。ここで仕留めてやる。



ギルさんの弾丸はネロに当たるが、すり抜ける。俺のデストロイヤーも何の手応えもなく振り抜いた。よく見るとネロの姿が半透明に透けている。くそ。また厄介なスキルを使いやがった。



ネロが俺の懐に一歩で入り込む。デストロイヤーを振り抜いた俺は隙だらけだ。とても回避なんてできない。俺の防御力はまともな攻撃じゃ突破できない。回避の必要もないはずだ。



ネロが笑っている。



『破硬掌』



ネロの掌底が俺に当たる。特にダメージはない。間髪をおかず逆の手で短剣を振られた。



「なっ!」



俺にダメージが入り苦痛を感じる。俺の防御力をあっさりと突破しやがった。しかも体が動かない。これは麻痺か。俺の状態異常耐性は元からかなり高い。ヒドラの毒は無理だが、普通の麻痺なんてまともに通るはずがないんだが。



「ふーん、やっぱり便利だね、防御力と耐性を数秒だけ無効化にするスキルなんだ」



ネロの姿が消える。また移動スキルだ。俺を無力化した後、もう1人のギルさんへ向かっている。駄目だ。ギルさんじゃ近接戦でネロには勝てない。



ギルさんは冷静に銃を置いて両手を上げた。ネロの短剣がギルさんの寸前で止まった。



「悪いが無茶をしない主義なんだ、俺じゃあお前に勝てないよ、降参だ」



悪い判断じゃない。どのみち勝てないなら戦闘不能になるより自分から降参した方がいいか。恐らくネロは俺達を殺さない。



「レンくんはどこ?」



「俺は知らないな、……分かってくれよ、ネロ」



「……そう」



絶対に口を割らない。そうギルさんは意思表示している。拷問しても時間の無駄だ。



「ぺぺ、メリー、この2人を拘束しておいて、いざとなったらレンくんの人質に使おう」



「は、はい!」



麻痺している俺とギルさんは武器を取り上げられて、拘束用の腕輪をつけられた。体の自由を制限される。俺達用に用意していたのだろう。準備の良いことだ。



ネロはもう俺達に興味をなくしたように見切りをつけて、レンを探しにいった。



「申し訳ありません、ドラクロワ様」



ぺぺが謝ってくるが麻痺で口が動かないから文句も言えない。体が動けないからか、俺は冷静に思考ができている。



やはり俺とネロでは相性が悪い。それはレンにも指摘されていたし、実際に戦って痛感した。力技でゴリ押せる相手じゃないっていうことだな。



まあいい、しばらく休憩するか。ぺぺと話ができた。それで十分だ。心のどこかでぺぺを助けてやりたいって思っているのは、俺が馬鹿すぎるのかもしれないな。裏切られて殺されかけたのに、俺はそいつを助けようとしている。馬鹿以外の何者でもない。



今回の件が終わったら、レンに言ってみるか。どのみち、なんちゃらって宝石を手に入れるためにアニマには行かないといけないしな。



捕まっちまったけど俺もギルさんも別に焦っちゃいない。ここに来る前、レンはこの可能性も予期していた。本当に恐ろしい奴だ。レンの読みでは、5割の可能性でネロが気づき戻って来ると言っていた。だから、今回のネロの行動もまだレンの想定内ということだ。



やっぱり俺はあいつの負ける姿を想像できない。




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