名案
ーーーーードラクロワーーーーーー
「見つからねえ……」
この教会、どれだけ広いんだよ。片っ端からドアを開けて探しているが、これじゃあ埒が明かない。
「ドラ、もう少し静かにしたほうがいい、俺達が侵入者だってことは忘れないでくれよ」
ギルさんから忠告を受ける。どうも焦り過ぎていたようだ。
「ぺぺを見つけたらどうするんだ?」
「ん? ああ、なんだ、その……あんまり考えてねえな」
確かに俺はぺぺに会ってどうするつもりなんだろうな。とりあえず一発ぶん殴ることは決めている。その後は特に決めてない。会ってみてから決めればいいか。
今更だが、俺は別にあいつを憎んではいねえ。毒付きのナイフで殺されかけたが、なぜか憎しみは湧かないな。ただ理由が知りたいと思う。
俺は褒められるような上司じゃなかったし、きっと不満もいっぱいあっただろう。けど、俺はぺぺを信頼していたし、あいつと一緒にいて楽しかった。
部下ではあったが、あいつのことも友だと思っていた。裏切られたときはショックだったが、きっと何か理由があるはずだ。ネロのクソ野郎に騙されたのかもしれない。
それにしても、この広い教会の中から特定の人物を探すってどうするのが手っ取り早いんだろうな。
さっきギルさんに静かにしろと注意されたが、焦って片っ端からドアを開けてたから周りから不審な目で見られている。このままなら騎士団を呼ばれるのも時間の問題だろう。
ん。待てよ。むしろ逆じゃないか。
「なあ、ギルさん、1つ名案を思いついたんだが、聞いてくれねえか」
「何だか、悪い予感がするが、一応聞くよ」
「派手に暴れれば、向こうから現れてくれるんじゃないか」
「いや、さすがにレンの旦那に怒られるだろ」
「逆転の発想だぜ、俺が暴れればこっちに戦力が集中するだろ? そうすればレン達が動きやすくなる、それにネロはどうせ雪山だろ? 暴れてもネロには情報が行かねえ」
ギルさんが俺の提案を吟味するように考える。
「……確かに一理あるかもな」
「思い切り暴れれば、様子を観に来るかもしれねぇだろ? それに俺とギルさんなら白や騎士団くらい負けねぇしな」
「はぁ……旦那に怒られても俺は知らないからな」
ギルさんはやれやれといつもの仕草をするが、俺は知ってるぜ。これは満更でもないって感じだ。
よし。それなら行動を起こそう。俺達は一番人が多くいる中央広間まで移動した。中央に大きなゼーラの像が立っている。
「ふぅー、やっと暴れられるな」
「ほどほどにしといてくれよ」
巻いていた白い布を取り去る。怪しまれないようにデストロイヤーを隠していた。明らかに巨大なものなので、かなり怪しまれていた気がするが。
「ごほん、ええー、ゼーラの信者のみなさん! 注目!」
俺は階段の上で大声で注意を引く。信者の視線が俺に集まった。
「俺は今からゼーラ教をぶっ潰す! 文句がある奴はかかってきやがれ!」
デストロイヤーを思い切り振り抜く。ゼーラ像を粉々になった。いくつも悲鳴が上がった。開戦の狼煙だ。
「さあ、派手に暴れようぜ」
「いいだろう、俺も最善を尽くそう」
ギルさんが銃を構える。やっぱりギルさんは話が分かる。すぐに神殿騎士団が集まってきた。俺達は中央の広間で背中合わせになった。
「よっしゃ! ぺぺが現れるまでの耐久戦と行こうぜ」
「ふ、せっかくだ、旦那の邪魔をしないように騎士団員を全員壊滅させようか」
「はは、やっぱギルさんはノリがいいぜ!」
俺は襲ってくる騎士団員をデストロイヤーで薙ぎ払った。
ーーーーーーぺぺーーーーーー
部屋には私とメリーさんだけ。メリーさんは自らの武器、巨大な剣の整備を入念に行っていました。正直に言うと、私はこのメリーさんが少し苦手です。
クラウスさんとネロさんは外に行ってしまいました。戦闘能力の面で、私とメリーさんは役には立ちません。
私はネロさんが怖いです。あの人は思考の仕方が私達とは別物です。見えている情報量が違います。そのため、会話が成立しづらい印象があります。
それにネロさんには仲間意識などないように思います。利用できる存在として、私達を扱っています。私やメリーさんにはクラウスさんのような強さがありません。私達はいつ切り捨てられてもおかしくないように思います。
そもそも私を仲間に引き入れたのは、魔王城でドラクロワ様を罠にはめるためです。私はあの人の提示してくれた条件によって、ネロ様につくことに決めました。その約束をネロ様が守ってくれる保証はどこにもありません。
「メリーさんは……ネロさんのことをどう思っているんですか?」
普段メリーさんとはそんなに会話したことがないです。一緒に旅をしていますが、必要最低限のことしか話しません。
「ん? ネロか? そうだな、賢い奴だよな」
メリーさんは単純で羨ましいです。きっとネロさんのことを怖いとか思ってないのでしょう。ネロさんに何の遠慮もなく話をしている光景をよく見ます。
「私達はネロさんやクラウスさんほどの戦闘能力を持っていません、不安ではないのですか」
メリーが手を止めた。少し怒ったように頬を膨らませた。
「悔しいよな! 昔のネロはもっと弱っちくて、私が守ってたんだぜ、クラウスだって新参者のくせに強すぎだしな、私ももっと強くならねえと」
メリーさんは単純な性格だからこそ、私のように思い悩むことがないのでしょうか。
「私は不安ですよ、ネロさんにいつか見捨てられるのではないかと」
「はははは、ぺぺは心配性だな」
私の悩みをメリーさんは簡単に笑い飛ばしました。
「そんなこと言ったら、私だってとっくの前に捨てられてるぜ、だって、傭兵として金かけて雇うメリットなんてないからな」
「た、確かにそうですね……あ、すみません」
思わず同調してしまって、慌てて謝りました。メリーさんは全く気にしていないようです。
「ぺぺはさ、きっとネロのことを勘違いしていると思うぜ」
「勘違いですか?」
「ああ、あいつは頭が良いからな、ぺぺはネロが何を考えているか分からないから怖いんだろ」
メリーさんは言葉は核心を突いていました。私がネロさんを恐れる理由はその部分です。
「ネロはな、ぺぺが思っているほど大人じゃないぜ、あいつはただの子どもさ」
「子ども……ですか?」
「ああ、ただ好奇心が強いだけの子どもだ、自分が楽しいことを優先させちまう」
目から鱗でした。そんなふうにネロさんのことを考えたことは一度もありません。
「あとな、実は寂しがりやだ、あの性格だからな、まともな友達とかいないだろ? だからレンを友だちだと思って、レンの気を引きたいんだ」
「確かに……今回の件もレンさんを試すために行っていますからね」
「多分レンも賢いから、唯一自分と同じレベルで会話できる相手だと思ったんだろうな、言ったとおりだろ? ネロは賢いけど中身はまだまだ子どもだ」
「少し気が楽になりました、私が過度にネロ様を恐れていたのかもしれません」
メリーさんは布を取り出して、大剣の表面を丁寧に拭き始めました。その目にはいつものガサツさはなく、優しさを感じました。
「だからな、私はネロが放っておけないんだ、これだけ一緒に旅していれば愛着だって湧く、今じゃ、私の方が弱いけどな、あいつの側に私は必要な存在だって勝手に思っている」
お金で雇われているだけの関係。私はメリーさんをそう思っていました。でも、メリーさんは違いました。彼女はきっとこのパーティの中で唯一のネロさんの本当の仲間でした。
「私はこれからもあいつの側にいてやるよ、今の話は絶対にネロには言うなよ! 恥ずかしいからな!」
「ええ、もちろんです、秘密にしておきます」
メリーさんはその後、鼻歌を歌いながら大剣の整備を続けていました。
私はあの人のことを思い返しました。私の元上司、がさつで無鉄砲なところもありましたが、仲間意識の強い人でした。私はそんなあの人を裏切りました。
ドラクロワ様を毒付きのナイフで刺したのです。言い訳にもなりませんが、私はネロさんからはただ麻痺させる毒だと聞いていました。ドラクロワ様は強靭な肉体を持っています。ナイフを刺したぐらいでは死にません。動きを一時的に封じるだけだと思っていました。
結果はヒドラの毒により、ドラクロワ様は死にかけました。全ては私のせいです。
そして、ドラクロワ様は今、レンさんと行動をともにし、この雪山を登ってきているのでしょう。できれば会わないことを祈りたいです。
「た、大変です! ネロ様はいっらっしゃいますか?」
急にドアが開いて、息を切らした騎士団員が入ってきました。
「いや、ネロは今外出中だ、どうかしたのか?」
「はい、教会内部で暴れている者がおりまして、騎士団員だけでは制圧できない状況でして」
「仕方ねえな、ネロはいないけど私も助太刀してやるよ」
メリーさんが大剣を担いで立ち上げりました。私にはとても嫌な予感がしました。