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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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存在意義



俺達はしばらくその部屋に隠れて時間を潰した。ネロは俺達が雪山を登っていると思い込んでいる。待ち伏せに向かってくれるまでの時間をここで稼ぐ。



待ち伏せに向かうメンバーにネロとクラウスは必ずいる。俺達を止めることを考えるとある程度の強さを持っていなければ意味がないからだ。神の使徒は恐らくゼーラの側を離れたがらないだろう。



戦力的にはネロとクラウス、神の使徒、ゼーラにだけ注意しておけば良い。俺のパーティなら騎士団や白、コーネロに戦闘で負けることはない。



「悪いが、俺は単独行動を取るからな」



ドラクロワがそう告げる。予想はしていた。ドラクロワには目的がある。自分を裏切ったかつての仲間、ぺぺに会うことだ。



「分かっているよ、ぺぺは恐らくゼーラの近くにはいない、危険すぎるからな、それに戦力的にネロについていくこともないだろう、だが、単独は駄目だ、ギルバートを連れていってくれ」



ドラクロワは頭があまり良くないし、感情的になりやすい。冷静なギルバートがいてくれれば抑止力になるはずだ。



「ドラクロワとギルバートはぺぺを捜索しながら、ダルマも同時に探してほしい」



「ふん、偶然見つけたら取り返してやるよ」



もう1つしておかなければならないことがある。俺達の最大の難敵、ネロの監視だ。



「リンとフレイヤ、ポチ、ハルは外に出ていったネロを見張っていてほしい、ネロが感づいて戻ってきたら、ハルの水晶で知らせてほしい」



ネロの動向が知れるだけでも大きなアドバンテージだ。ネロならいつ気づいて戻って来るか分からない。



「分かったわ」



「ネロが戻ってきたら爆発させらばいいんだな!」



「わん! 簡単!」



とてつもなく不安だが、リンとハルがいてくれるなら問題ないだろう。クラウスやネロやクラウスと戦闘になったとしても、ハルとリンなら対応できるはずだ。



「残りのメンバー、俺とユキ、ラファエル、ラインハルトで神の使徒、サキエルを探す」



サキエルをラファエルが説得できればそれで良い。そうならなければ戦闘は避けられない。正直、ラインハルトは戦力としてカウントできないが、俺がサキエルを討伐する。



ユキはスキルに守られているから最も防御が優れている。危険なサキエル戦においても倒される可能性は低いし、もし白や騎士団が周りにいればサキエルに『ゼーラの加護』を使用される前に一瞬で殲滅しなければならない。ユキの魔法なら威力も高いため広範囲殲滅が可能だ。



「もし何かあった際の避難場所はここだ、皆気をつけてくれ」



作戦開始する前に、隠密行動が得意なハルが先行して一人で外に出た。しばらくして箱を持って戻ってくる。



「先輩! 手に入れましたよ」



ハルに持ってきてもらったのは衣装だ。教会の職員の衣装を人数分手に入れてもらった。この教会には当然のことだが、非戦闘員も多くいる。信者の一人になりすませば、そうそう見つからないはずだ。




「行動開始だ」








ーーーーーーネローーーーーーー



「ネロ、行かないのか?」



クラウスと一緒にゼーラ教会の正門前に僕は立っている。この門は長い間使われていなかった。ゼーラ教会に来るために雪山を登ってくる人間など滅多にいないからだ。



僕はクラウスと一緒にレン君を迎えに行こうと外に出た。レン君達を相手に戦えるのは僕とクラウスしかいない。これは至極当然考え。僕の立場ならこれが最善の行動だ。



しかし、僕の心の中にある違和感が芽生えている。



本当にレン君はこんな工夫もなく、待ち伏せされるリスクを犯してまで山を登ってくるのだろうか。それともこちらの戦力を過小評価していて、戦闘で何とかなると思っているのか。



真っ向から戦えば良い勝負だろう。クラウスでも全員と同時に戦うことはできない。だが、こちらは不意打ちができる。待ち伏せなら、相手の戦力を一気に削ぐ策もいくらでも思いつく。レン君がそんなことを見誤ることがあるのか。



疑念は膨れ上がっている。相手が普通の人間ならこんなにも考えない。だが、レン君は普通ではない。これは僕がレン君を過剰に評価しているからだろうか。僕はありもしない幻想を追っているだけかもしれない。



「行こうか」



僕はクラウスと並んで雪の中を歩き始める。雪で視界が悪いが、対策をしているから寒さは感じない。



「レンってのはそんなにすごい奴なのか?」



クラウスはレン君の凄さを知らないから、僕が深く考えすぎだと思っている。あの人の強さは異常だ。単なるステータスやスキルじゃない。もっと別の強さを持っている。



「すごいよ、僕が頭脳で適わないくらい」



「そいつは大概だな、俺のような学のない馬鹿じゃ手のひらで転がされるだろう」



クラウスは自ら進んで愚者を演じようとする癖がある。それが彼の処世術なのかもしれない。



「クラウスは馬鹿じゃないよ」



「ふっ、よく言うよ、俺は部下に裏切られてこんな身体にされた、賢ければこうはなっていないさ」



白い巨大な熊のようなモンスターが現れる。僕は何もしない。する必要もない。クラウスの目にも止まらない抜刀でモンスターは青い粒子となった。



「そういえば、言ってなかったが、俺の飼っていたペットが最近死んだらしい」



まるではじめからモンスターなんていなかったかのように、会話は継続する。



「離れていても分かるものなの?」



「ああ、感じ取れる、結構かわいい子だったんだが……」



「それは残念だね」



そんな何気ない会話をしながらも、僕達は歩みを進める。急な斜面を岩から岩へ滑るように移動する。



「ロンベルをどうするつもりなんだ?」



「こっそりと居場所が分かるアイテムを持たせてるから、いつでも迎えにいけるよ」



「その辺に抜かりはないんだな」



「彼にはやってもらうことがあるからね」



「カマセーヌはなんで殺さなかったんだ? あいつには存在価値なんてないだろ?」



「ないよ、だからどうでもよかった」



「はは、うちのボスは怖いのか優しいのか、分からないな」



僕は立ち止まった。

















「存在意義……」















カマセーヌという取るに足らない人物。自分がずっと何に引っ掛かっているか分かった。あの男の存在だ。



なぜレン君はわざわざカマセーヌを送ってきたのか。そんなことをせずに、そのままゼーラ神山を登り始めればいい。カマセーヌを送ったところで大した時間稼ぎにはならない。



むしろ逆か。カマセーヌが来なければいつレン君が上がってくるか分からず、僕はしばらく教会に待機していたはずだ。カマセーヌが来たことで、行動を早めている。



僕の作戦に気づいていることを知った上でこちらを挑発している可能性もある。お前の策は見抜いているぞと言っているのか。いや、レン君はそんな矮小な人間じゃない。



カマセーヌには何かしらの存在価値があった。カマセーヌを送ったことにより、レン君に何かしらのメリットがある。そう考えるべきだ。



もし雪山を登頂する場合、レン君は何のメリットも得られない。レン君が得る利益。それを考えた時、ある仮説が生まれた。



カマセーヌをダルマに連れて行く時、移動装置は明らかに手薄になった。僕がカマセーヌをレン君だと思い込んでいたからだ。当然ながら人員はこちらに集中させた。



そして、カマセーヌを送ったことで、僕はすぐに雪山を待ち伏せするという行動に出た。最大戦力である僕とクラウスの2人で外に出ている。今教会の中は一気に手薄になっている。もしレン君が教会内に既に侵入しているとしたら、その恩恵はあまりに大きい。



確証はない。そもそも確証なんて得られるはずがない。レン君の情報量はこの僕を凌駕しているから。レン君はどこから手に入れたのか、いつも驚くほどの知識を持っている。



この世には多くのスキルやアイテムがある。僕の知らないものも多くあるはずだ。レン君なら僕の知らない方法で教会内部に侵入することができるかもしれない。それを僕が予想するのは不可能。ならば、分かるはずがない手段を推測するのではなく、状況から判断をするのが好手。



もし僕の思い違いで教会の中にいなくても良い。ゼーラ神山の登頂には時間がかかる。じっくり教会を探した後に、再び向かい討てば良いだけだ。



ああ、本当に楽しいな。この世で唯一、僕がコントロールできない人。僕の友達。



「クラウス、レン君は教会の中だ、もどろう」



クラウスは肩をすくめて両腕を上げた。



「やれやれ、俺にはお前の考えがさっぱり分からないよ」



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