表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
302/370

甘い罠



ーーーーネローーーーー



「なあ、本当に来るのか?」



クラウスが懐疑的に聞いてくる。



「多分ね、レン君ならどちらが良いか考えたときにこっちを選ぶ」



人間の行動はわかりやすい。2択を与えれば必ず自分に有利な方を選ぶ。だから、その選択肢を上手にこちらが作ってあげれば人を誘導することは容易い。



教会の移動装置前に僕とクラウス、大量の騎士団と白で包囲した。更にコーネロを動かして神の使徒まで動員した。神の使徒はゼーラと離されて不服そうだが、仕方なく来てくれた。



「なんで私がゼーラ様のお側を離れないといけないのよ、最悪」



神の使徒は『ゼーラの加護』というスキルで周囲の者達を自分と同じステータスにできる。これだけ大量にいる白と騎士団員がそうなれば、いくらレン君でもどうにもできないだろう。あとは移動装置で彼が上がって来るのを待つだけだ。



ロンベルが逃亡を企てていることには気づいていた。彼は自分を利口だと思っている。だからこそ自分の考えを見透かされるはずがないと慢心している。



彼の行動を見れば、何をしたいのかは透けて見えていた。最初は普通に逃げる前に捕まえようと思っていたが、急遽方針を変更しロンベルを利用することにした。レン君に選択肢を与えるために。



レン君はこれが罠だと疑わない。なぜならロンベルとカマセーヌが本気で逃亡しているからだ。尋問をしても演技ではないのだから見破られるはずがない。レン君はあの2人の言い分を信じる。



僕はヘルハウンドとの戦いを監視用の水晶で見ていた。その時に、レン君は一緒にいた神族やマルドゥークの姿に変化するスキルを使用していた。姿と能力をコピーする効果だろう。



そのスキルを利用すれば、信者に変化して移動装置を動かすことができる。僕はそれを知ってロンベルをあえて泳がせる方に舵を切った。



レン君はゼーラ神山を登頂するか、移動装置を使うかの2択を迫られる。登頂のデメリットは多い。過酷な環境だし、何より僕に待ち伏せされる可能性が高い。だから、普通なら移動装置を利用する選択に飛びつきたくなる。



でもそれは僕が用意した甘い罠。もしレン君がその選択をしてしまえば、もう終わりだ。単身でこの包囲から生還する方法はない。レン君なら、もしかしたら僕の用意した選択肢に惑わされない可能性もあると少し期待している。



「移動装置が動いています」



神殿騎士団員から報告が来た。何だか、がっかりだな。レン君でもこんなに簡単に操れてしまうのが少し悲しい。



「クラウス、レン君は強いよ、気をつけて」



「ああ、俺はいつでも本気だ」



ヘルハウンドとの戦いを見ていたが、レン君のステータスは僕よりも少し高い。どうやってそこまで強くなったのか分からないが、彼は特別な存在だ。きっと僕の想像もしない方法を使ったのだろう。



それでも神の使徒やクラウスよりもステータスは低い。あの映像を見る限り、クラウス1人でもレン君を倒せる可能性はある。



いや、これは油断か。レン君の強さはステータスではない。彼の強さはもっと別のもの。さあ、レン君、この絶望的な状況でまた奇跡を起こしてみせてよ。





ーーーーーーーーーーーーーーー



俺は結局エレベーターを使う選択をした。



何度考えてもゼーラ神山を登頂するより、エレベーターを使用する方がメリットが大きい。ロンベルやカマセーヌの様子を見ても、演技ではなく本気で逃げてきたのだと分かった。



床がゆっくりと上がっていく。俺はカマセーヌを『イミテート』しているので、エレベーターは無事に起動している。



ロンベルが逃げ出してくれたのは本当に幸運だった。おかげのこの新しい選択肢ができた。俺は上についてからの作戦も固めた。栄光への道(デイロード)は既に見えている。



上についたら、隠密行動をしながら神の使徒、サキエルを探す必要がある。彼女の持っている正義のダイヤモンドがソラリスの復活のために必要だからだ。どうにかしてゼーラから遠ざけ、周りに人がいない状況を作ることができれば勝算は十分にある。



できればネロ達に会わないまま全てを終わらせたいが、クラウスという人物が気になる。話によると全身甲冑で素顔は見たことがないらしい。LOLで全身甲冑のキャラクターは鋼鉄のガラン以外いない。俺の知っている人物が名前を偽って甲冑を着ている可能性もあるが、ゲームでは登場しない裏設定のキャラであることも考えられる。



俺がいろいろ考え事をしている間も床はゆっくりと上っていく。まもなく頂上だ。



そして、俺は目的地、ゼーラ神殿に到着した。円形の床を取り囲むように、数え切れない量の騎士団と白が配置されている。総動員で俺を待ち伏せていた。



俺は全てを悟った。サキエルまでもここに待機している。『ゼーラの加護』を使われれば、周りの騎士団員や白が全員ボス級のステータスになる。どう考えても、勝ち目なんてない。



笑顔のネロを見つけた。やはりすごいな、天才というキャラ設定が現実になるとここまで厄介だとは。その横にいる全身甲冑の人物に視線を向ける。



あいつがクラウスか。俺の見たことがない鎧だ。自分の目で確認してもその正体は分からない。



「やあ、レン君、待っていたよ」



ネロが楽しそうに言った。俺がこれからすべきことは1つしかない。









ーーーーーーネローーーーーーー



カマセーヌの姿をしているが、間違いなくレン君だ。今もこの状況から脱する方法を必死で考えているのだろう。



「ね、ネロ様! すみませんでしたああああ!」



レン君が高速の土下座をする。やけに様になっている。やめてほしい。君にそんなことをしてほしくない。



「もう正体は分かっている、レン君、往生際が悪いよ」



「へ? れ、レンって、いや、俺はネロ様の忠実なしもべ、カマセーヌです!」



これ以上、僕をがっかりさせないでくれ。他にできることがなく、こんなくだらない演技を始めるなんて、君らしくない。



「クラウス」



僕が声をかけるとクラウスが剣を抜いた。風のように移動し、レン君の首を刎ねようとする。剣は寸前で止まった。



「ひ、ひいいいい!」



レン君が震えながら、腰を抜かす。クラウスは剣を下ろした。



「おい、ネロ、こいつ本当にお前のいう男か、さっきの一撃、反応すらできてなかった、あのままなら呆気なく殺せていたぞ」



反応すらしない。そんなことができるのか。レン君のステータスなら回避や防御反応ができたはず。クラウスが寸前で止めることを予想して、あえて命がけで反応しないようにしたのか。



なるほど、良い手だ。最初はカマセーヌのふりをするのを苦し紛れの行動だと思ったが、実は理にかなっている。



僕は今彼を殺すことができない。もし殺して粒子に変わってしまったら、最後まで彼が本当にレン君か分からなくなる。カマセーヌを囮にして、本物のレン君は今雪山を登頂している可能性もある。



スキルのクールタイムが切れるのを待ってみるか。いや、どれだけの時間が必要か分からないし、何かしらの方法でスキルが解けないようにしているかもしれない。



確かめる方法は他にもある。あのダルマだ。ダルマの範囲に入ればスキルの効果は解除される。彼を拘束してダルマの近くに連れていけば良い。



「それが狙いか……」



そう僕に思わせたいのか。ダルマを取り戻すために。



ダルマの隠し場所が分からなければ、この広いゼーラ教会で探すことは難しい。ダルマの場所まで僕自身に案内させようとしている。



「本当にすみませんでしたああ!!」



カマセーヌの姿の男は何度も土下座をしている。本人に見えてくる。尋問して情報を仕入れ、本気で演じるつもりなのだろうか。または本当に本人なのか。



てっきり呆気なく終わるかと思ったが、まさかの事態だ。こんな絶望的な状況でレン君がカマセーヌの演技を続けることなど考えていなかった。



僕の読みでは、8割の可能性でレン君の演技だと思う。しかし、カマセーヌを囮にして上に送り、自分たちは雪山を登頂しているという2割の可能性が僕を邪魔してくる。



「どうするんだ? ネロ」



「拘束して連れていこう」



仕方がない。レン君の思惑に乗るしかない。ダルマの効果範囲にこの男を連れて行く。拘束して、しっかりと包囲しながら移動する。絶対に逃さないように。



ああ、やっぱりレン君は面白いね。この状況で僕を困らせてくれるなんて。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ