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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第1章 英雄の目覚め
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作戦開始



俺は里の全員に聞こえるよう、声を張り上げた。



「私はここだ! 」



声が響き渡り、忍者たちが一斉に俺に注目する。俺はその様子を虫けらを見下すような眼差しで眺めた。



そして、魔剣ダイダロスを隣のイズナの首に触れさせた。



「全員、その場を動くな、動けばこの娘の命はない」



邪悪な笑みを浮かべ、唖然としているイズナを引き寄せる。油断せず、刃ですぐに首を刈り取れるように近づける。



「私は魔王軍幹部、プロメテウス様の使いの者だ」



俺への視線に憎しみと怒りが込められているのを、ひしひしと感じた。



「貴様が仲間たちを殺したのか?」



ヤナギか下から声を上げる。俺はにっと笑う。



「いや、私ではないが、私の仲間が邪魔なゴミ掃除を担ってくれた、君達のよく知る人物だよ」



俺はその者の名を呼ぶ。



「シリュウ、プロメテウス様からの伝言だ、霧の秘術書より優先すべきことができた、私と一緒に魔王城へ来い」



一同に衝撃が走る。皆辺りを見回し、シリュウの姿を探した。



「それはないんじゃないかなー、せっかく今からお楽しみの時間だったのに」



ヤナギの背後の影が蠢き、膨れ上がる。そして、シリュウが姿を現した。



第1条件はクリアした。



俺はゲームのイベントで、なぜシリュウが裏切ったかを全て知っている。シリュウは4人の魔王軍幹部の1人、プロメテウスにそそのかされていた。



だから、プロメテウスの使いを騙り、シリュウの仲間として登場することで、他の里の者の前で、シリュウに自白させようと目論んだ。



プロメテウスの名前を出したことが功を奏した。シリュウは自分で罪を自白した。



「まさか、本当に……シリュウ、お前が……」



ヤナギが驚愕しながら震える声を出す。シリュウは糸目をにっと横に伸ばしながら、不気味な笑みを見せた。



「皆、弱すぎてつまらなかったよ、最後にあんたを楽しみに残してたんだけどねー」



シリュウが長い袖を僅かに揺らした。



「やめておけ、シリュウ、誰も殺すな、プロメテウス様からの命令だ」



シリュウが動きを止める。そして、肩を竦めてヤナギから離れた。あと少し止めるのが遅ければ、ヤナギは殺されていただろう。



俺はイズナの腰に手を回し、自分に引きつけた。そして、耳元であることを囁く。



そのまま身体を宙に投げ出し、屋根から飛び降りる。身体が自由落下していき、地面が迫ったとき、『エアリアル』を使用して滞空する。これで落下ダメージをゼロにすることができた。



近くにいた忍者が僅かに動いたのを感知して、俺は即座にダイダロスをイズナに触れさせた。



「動くなと言っている、何もしなければ危害は加えない」



俺は行動を起こそうとした忍者が止まったのを見て満足げに笑った。



「よし、全員族長のヤナギの下に集まれ」



俺の指示に従い、ゆっくりと全員がヤナギの下に移動する。



「シリュウ、『遠影』を使って隠れている奴がいないか調べろ」



俺の言葉にシリュウは眉を上げた。



「よく僕のスキル知っているねー、まあいいけど」



シリュウがスキルを発動する。シリュウの足元から円状の影が急速に広がっていき、地面を覆い尽くす。



シリュウの持つ索敵スキルだ。影のサークル内の全ての状況を把握することができる。それは死角に潜んでいるものも同様だった。



何かを感じ取ったシリュウはスキルを解除して、一気に動く。風のように何か俺に向けて突っ込んで来た。



甲高い金属音が鳴り響く。突進してきたサスケに、横からシリュウが切りかかっていた。長い袖から鋭い刃が伸びている。サスケは咄嗟に刀でガードしたが、動きを止められた。



シリュウの身体が一瞬で縮まる。サスケより長身のシリュウがサスケの足元まで身体を伏せる。その状況からサスケの顎を狙って弾丸のような蹴りが放たれた。



サスケは下方からの蹴りをもろに受け、空中に身体が投げ出される。シリュウはまるで蛇のような柔軟性で空中にいるサスケに追撃を与えようと器用に飛び上がる。



トドメを刺す瞬間、俺が放った【ファイアーボール】に気づき、シリュウは空中で身体を回転させ、火球を回避して着地した。



遅れてサスケが地面に横たわる。気を失っているようだ。



「何度も言わせるな、プロメテウス様の命令は絶対だ」



シリュウは不満そうにしていたが、これ以上サスケを襲う気はないようだ。俺は頭の中で作戦を修正する。



今のシリュウの動きで理解した。今の俺では奴の攻撃を回避しきれない。



素早さは相対的に作用する。俺の目から見た先程のシリュウの速さで、どれだけ素早さに差があるのかを測ることができた。



今のままではいくら俺が英雄としての回避テクニックを持っていても、避け続けることは不可能だ。素早さが違い過ぎる。



「追って来られれば面倒だ、全員に『影縫い』を使え」



「はーい、全員殺せば早いのに、まあいいけど」



シリュウが不満そうに呟きながら、袖を上に振るう。長い袖口から無数のクナイが飛び出し、雨のように降り注ぐ。そしてヤナギの下に集まった里の者たちを囲むように円形に地面に刺さった。



そして、倒れているサスケの近くにもクナイが一本、落ちて来て地面に突き刺さる。



地面に影を縫い込まれた者たちはこれでもう身動きを取ることが出来ない。



俺は背後から空気を切る微かな音に気づいた。身体を急速に反転させ、ダイダロスを振るう。その勢いでイズナが小さな悲鳴を上げながら倒れた。



振り抜いたダイダロスが、俺の影に向かって落ちて来ていたクナイを弾き飛ばした。シリュウが俺にも『影縫い』を使用してきた。



「何のまねだ、これは……」



俺は振り向いてシリュウに文句を言おうとしたが、言葉を失った。シリュウがいつのまにか音もなく接近しており、至近距離に彼の顔があった。



目の前に楽しそうなシリュウの顔がある。糸目が僅かに開き、深い闇のような瞳に俺が映っていた。



俺はすぐに悟った。そして、自分が何をすべきか判断する。今必要な言葉を口にする。



「ふざけてないで、もう行くぞ」



見られている。筋肉の弛緩、汗のかき方、声の震え。シリュウは俺が本当にプロメテウスの使いかを確かめようとしている。



今、正解なのは一切狼狽えたりせず、堂々と強者の風格でいることだ。一瞬でも恐怖を見せれば、シリュウに殺される。



シリュウは顔を遠ざけて、悪戯っぽく笑って頭をかいた。



「いやいやーすみません、あのお方の使いなら、影縫いに引っかかるほど間抜けじゃないだろーなと思って、試してみただけです」



悪びれもせず、ニヤニヤと笑う。俺は不快そうな表情を作り、イズナを立たせて里の出口へと歩いていく。



「もうここに用はない、シリュウ行くぞ」



「りょーかいです」



間の抜けた声を出し、足音の一切しない独特な歩き方で俺の横に並ぶ。



「その女、連れてくんですか?」



シリュウはイズナを見て不思議そうに言う。



「ああ、森を完全に出るまでだ、もし何かあっても人質として利用できる」



シリュウは振り返り、身動きの取れない忍者たちを眺めた。そしてもう一度、皆殺せばいいのに、と呟いていた。



これで第2条件もクリアした。里の者たちの動きを封じたことで、彼らが戦闘に参加することはない。これで犠牲を出さずに済む。



ここまでは概ね作戦通りだ。作戦は次のフェーズに移行する。






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