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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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利害関係



俺は思わず息を飲んだ。



可能性があるとは思っていた。だが、実際にラファエルの口からエレノアを知っているという言葉を聞いて驚いてしまった。俺が求めていた答えがここにあった。ラファエルは答えを口にする。



「エルちゃんはね、ソラ姉さんの妹だよ!」



ソラリスに関係しているとは思っていたが妹だったのか。ゲームでは一度もその情報は出ていない。



「でもね、エルちゃんは天界からいなくなっちゃったの、何があったのかはラファも詳しく知らないだけど、何か事件があったんだって、いつもは冷静なソラ姉さんが取り乱して、エルちゃんを必死で探してたの」



ソラリスがこちらの世界に来た理由。それはエレノアを探すためだ。ライオネルに捜索を依頼していたことからもそれがわかる。



「エレノアはどんな人なんだ?」



「ラファが会ったのもだいぶ前だけど、エルちゃんはね、ソラ姉さんと違って大人しくて目立たない子だったよ、ラファが遊びに誘っても来てくれなくて、おうちでずっと本を呼んでた、ラファと違って勉強も好きだったの」



大人しくて引きこもりがちだったようだ。本という言葉を聞いて、ユキの家にあった本を思い出した。著者はエレノアとなっていた。彼女は何かの事情でこちらに来て、魔導書を執筆したのだろうか。



「ソラ姉さんはエルちゃんのことを本当にかわいがっていたの、いつもエルちゃんの方が魔法が上手だって言ってた、エルちゃんが実際に見せてくれたことはなかったけど」



ソラリスの身内贔屓だろうか。もし本当にソラリスより魔法が得意なら、それはとんでもない魔法使いになる。



「なんて言ってたかな、エルちゃんはソラ姉さんも使えない魔法が使えるんだって」



俺はそこからラファエルにいくつか質問をしたが、これ以上の情報は聞き出せなかった。ラファエルはその頃に天界で何があったか把握していないようだ。



「あとね、エルちゃんは実は走るのが速かったの!」



よく分からない情報をくれて、ラファエルからの話は終わった。



天界に行きたいと思えてきた。ガブリエルにでも聞けば真実が聞ける気がする。いや、先にソラリスを復活させれば良いだけか。ソラリス本人から全てを聞くことができるだろう。



エレノアの話は終わり、俺は今回の件について確認をした。



「ラファエルはサキエルを連れて帰りたいんだよな?」



「そうだよ! サキちゃんは友達だもん」



「説得に応じてくれると思うか?」



「任せて! ラファはそういうの得意だから! 泥舟に乗ったつもりでいて!」



それは全く安心できない。ゲームでの神の使徒には説得できる余地なんてなかった。完全にゼーラに心酔していた。戦闘は避けられないと思う。



もしそうなれば、ラファエルには悪いがサキエルを倒すことになる。俺はその点を遠慮するつもりはない。願わくばサキエルが説得に応じてほしいが。



「そろそろ戻ろうか、いろいろ教えてくれてありがとう」



「がんばろうね! レンちゃん!」



俺はラファエルを連れて飛空艇へと戻る。歩きながら明日のことを考える。



俺達はゼーラ教徒ではないから、移動装置を使用できない。ゼーラ神山を登頂するしか教会にたどり着くことはできない。モンスターは凶悪だが、俺達なら問題ないだろう。



懸念は待ち伏せをされることだ。ネロも俺達が登頂するということを予想している。当然待ち伏せしてくるだろう。さすがにゼーラは教会から出てこないと思うが、サキエルやネロに不意打ちで攻撃を受けるとかなり苦しい。



一応ゼーラ信者を『イミテート』して移動装置、通称エレベーターを動かすことはできる。エレベーターはその名の通りのものだ。このアルペン村とゼーラ教会をつなぐ円形のパイプのようなものがあり、その中をパイプと同じサイズの円形の床が魔法の力によって移動している。



床の中央には台座があり、そこにゼーラ信者、正確には洗礼という魔法を受けた者が触れることで起動することができる。床の上に洗礼を受けていない者が乗っていると動かない仕組みだ。残念ながら、ここの村人達はゼーラ教を信じているが、洗礼を受けてはいない。



洗礼を受けられるのは、教会に認められた一部の者だけだ。これも計画が外部に漏れないようにするためのコーネロの策だろう。



今教会はある意味鎖国状態、俺が洗礼を受けた者を『イミテート』する機会はない。エレベーターが動かない以上、やはり素直に登頂するしかないだろう。



問題は教会に侵入した後にもある。ゼーラの結界を破ることができなくなった。ダルマがなくなった今、俺は計画の変更を余儀なくされている。ダルマを取り返すのは厳しい。ネロがどこに隠すかまでさすがに分からない。



ネロはダルマをゼーラの近くに置かないことだけは分かる。ゼーラの結界が消えてしまえば、俺に有利になるし、何よりそんなことをされたらゼーラが黙っていないだろう。



ネロがいくら壊れたステータスを持っていたとしても、ゼーラには勝てない。普通に殺される。そのこともネロは十分に理解しているはずだ。



教会はとてつもなく広い。グランダル城くらいの広さがある。ゼーラの近くにはないという情報だけで探し出すことはできない。俺の前にはいくつもの壁が立ちはだかっていた。






ーーーーーーネローーーーーー



レン君達が戦っている隙に、僕はゼーラ教会の移動装置で教会に戻ってきた。移動装置は中央に台座がある円形の床だ。この台座で操作することで魔法により上まで床が移動してくれる。はじめダルマのせいで台座が機能しなかったが、床の端っこにダルマを置いたらギリギリ台座を範囲から外すことができた。



このダルマは予期せぬ収穫だったが扱いが難しい。これを持ってゼーラの近くに行けば結界が消える。そうなれば、きっとゼーラは激怒して僕を攻撃するだろうね。僕でも神族を相手にするのは厳しい。このダルマはゼーラに影響がないところに隠しておくべきかな。



僕がダルマを運んでいると、廊下の壁にもたれている全身甲冑の人物、クラウスがいた。



「クラウス、すごいものが手に入ったよ」



僕はダルマを説明しようとしたが、クラウスは微動だにしない。



「クラウス?」



様子がおかしいので肩を叩くと、クラウスはバランスを失って地面に倒れた。そこで僕はクラウスの状況を理解した。



このダルマの影響だ。もしレン君がダルマを使っていたら、クラウスは何もできなかった。やはりこれを奪っておいて正解だった。



僕が廊下をある程度進むと、クラウスが起き上がった。ダルマの範囲から外れたのだろう。



「あれ、俺なんで意識を……」



「クラウス、ごめん、これのせいだよ」



僕がダルマの効果を説明すると、クラウスは肩をすくめて両手を上げた。



「いや、さすがの俺もそんなアイテム使われたら、勝ち目がないな」



「こっちの塔の上に保管しておくから、クラウスは近づかないようにね」



「ああ、気をつける」



ダルマの使用用途はまだ決めていないが、一旦保管で良いだろう。最善のタイミングで使用することにしよう。



「ネロ、そういえば、ちょっと気になったんだが、王子さんの動きが不審だぞ」



クラウスは戦闘能力もさることながら、実はかなり鋭い男だ。何も気づいていないふりをしているが、よく

周りを見ている。



「それは気にしなくてもいいよ」



「……分かった、ネロがそう言うなら任せるよ、俺は俺の目的が果たせればそれで良い」



「安心して、僕達は利害が一致している」



「そうだな」



クラウスは利害が一致しているだけの関係。彼は仲の良い演技をしてくれるが決して油断ならない。会話をすれば分かる。極めて高い知性を持ち、それをあえて隠している人物だ。



僕はアルペン村で見たレン君達を思い出した。仲間というものを僕はまだよく分かっていない。僕と一緒に行動する人達はみんな利害関係でつながっている。メリーも、ぺぺも、クラウスも、みんな自らの利益で動いている。でも、レン君の仲間達はそれとは違っているように思えた。



利害関係以外に人をつなぐものが存在するのだろうか。僕はその問いの答えを持っていない。



レン君なら教えてくれるかな。彼は僕の唯一の『友達』だから。





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