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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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狂犬との再戦



_________________



俺はマルドゥークに殺されそうになっている少女と『スイッチ』で場所を入れ替える。その瞬間、マルドゥークのメリケンサックが振り下ろされる。俺はそれを紙一重で躱した。



「貴様は!?」



マルドゥークが俺を視認した。でももう遅い。俺は刀を抜かず、右手であるアイテムを投げ、同時に左手を上げた。



信者達が一瞬遅れて魔法を発動させる。同時にマルドゥークが追撃をしようと動く。俺はまだ刀を構えない。その必要がないからだ。



マルドゥークの頭が凄まじい速度で横に動く。即死だ。これだけ目立つ場所に立っている。()()()()なら外すはずがない。



レオンとニキータの真骨頂は狙撃だ。俺が彼らに勝てたのは、本来得意ではないボディーガードという状況だったからに過ぎない。もし警戒しない俺達を遠方から狙撃されたら、俺達では手も足も出ない。



俺は2人を高台に配置して、もし戦闘になった際は狙撃で援護をしてもらえるように頼んでおいた。狙撃手ニキータと観測手レオン。この2人のヘッドショットには即死の効果がある。完全な不意打ちのため、マルドゥークは得意の『ダメージ反射』を発動することすらできない。



『アザールの祝福』があるから、いずれ復活するが、時間は稼げる。



問題は発動された魔法陣。魔法陣から黒い炎が吹き出す。それも先程俺が投げたアイテムで解決される。



ポケットロザリオ。呪われた装備を解除することができるアイテム。



ここに彼女がいたのは暁光だ。ポケットロザリオを使用した彼女は光輪と白い翼を具現化する。本来の姿を取り戻す。



光属性の魔力が辺りに吹き荒れる。



【フルケアオール】【ホーリー】



白い光が一瞬で広がり、邪悪な炎を消し去る。そして、子供達のHPを完全回復させる。



LOLの使えるヒーラーランキングにおいて、大神官コーネロ、精霊王ナラーハ、歌姫ソフィーと並んで常に上位に来るキャラクター。



天界で仲間にすることができる四大天使の1人。聖天使ラファエル。



天界のイベントでは4人のうち1人しか仲間にできない四大天使、ミカエル、ガブリエル、ウリエル、ラファエル。よく誰を選ぶかは話題になった。



俺はどうしても能力的にミカエルを選んでしまうが、ヒーラーとしてのラファエルは優秀だ。



本来、ゲームではこんな展開はなかったはずだが、実は非公式な情報があった。どのような条件か分からないが、見た目がラファエルにそっくりなNPCが出現するという噂だ。



ただ見た目はそっくりなのだが、頭の上の天使の輪っかと白い翼がないため、同一人物とは断定しにくかった。「お友達を探しているの」というセリフしか用意されておらず、仲間になることもない。結局LOLスタッフの設定ミスだと思われていた。



しかし、もしかしたら裏設定でラファエルがこの世界に来るエピソードが存在したのかもしれない。理由は不明だが、彼女の力を発揮してもらおう。



アザール教徒はいきなりリーダーを失い、魔法がかき消されて右往左往している。畳み掛けるべきだ。



ハルが俺に追いついて参戦する。リンは真っ先に先ほど俺と『スイッチ』した少女を安全な場所に移動させている。アザール教徒達なら真っ向勝負で俺たちの敵ではない。



俺達は子供達を守るようにアザール教徒を倒し始める。戦力が違い過ぎると分かり、アザール教徒達が逃げ始める。



俺の意識は次に向いている。アザール教徒を斬り伏せながら、奴を探す。



アザール教の最大戦力、ヘルハウンドだ。俺の中の敵はすでにヘルハウンドに切り替わっている。



見つけた。1人子犬を抱きながら移動しているアザール教徒がいる。俺は一気に加速する。子犬の状態の内に奴を倒すのが理想だ。



逃げるアザール信徒が子犬を攻撃し始めた。黒い子犬から邪悪な魔力が膨れ上がる。もともとゲームでもアルペン村で戦闘になればヘルハウンドが現れる。既定路線に入ってしまった。



白銀の世界に、その怪物は正体を現した。家と並ぶほどの巨大な黒い犬。獰猛な牙をのぞかせ、唸り声を上げている。



「子供達を全員避難させろ! 俺が戦う」



逃げるわけにはいかない。ここで逃げれば、子供達に危害が及ぶ。俺だけに攻撃を集中させる。



「先輩、俺も手伝いますよ」



俺の横に音もなくハルが現れる。ハルならヘルハウンドのことを熟知している。共闘も可能だ。バクバクの召喚も行う。



あの時、研究所では倒すことができなかった。だが、今は違う。俺達はあの頃よりも強くなった。



ヘルハウンドが牙をむき出しにして白い息を吐き出している。



「再戦と行こうか」



『スポットライト』



俺はスキルでヘルハウンドの攻撃対象を自分に固定する。これで他の者に危害は加えられない。



ヘルハウンドが一気に地面を蹴って、俺に突進してくる。ハルが俺の意図を汲み取って、回り込み始める。バクバクも自由に攻撃が可能だ。



攻撃対象が俺だけになるということは、ハルとバクバクは自由に攻撃をすることができる。いくら攻撃してもヘイトを向けられることがなく、反撃を受けることもない。ヘルハウンドの側面から攻撃を開始してもらう。貴重なダメージソースだ。



相変わらずヘルハウンドが大きすぎて、攻撃判定が広い。俺は水流の構えの空中使用で、吹き飛ばされて距離を稼ぐ。



ヘルハウンドの強さはその膨大なHPだ。俺には『天命龍牙』をストックしたバクバクの『五月雨突き』の超絶ダメージがある。ハルもダメージを蓄積させてくれる。時間はかかるが倒すことは可能なはずだ。



「レン! みんな避難させたぞ! 私もまぜてくれ!」



フレイヤが指を鳴らし、ヘルハウンドの顔を巻き込むような爆発を起こす。全員を避難させた後衛部隊も攻撃を開始してくれた。爆裂と氷、銃撃の援護によりヘルハウンドは鬱陶しそうに苛ついていた。



「ラファも参戦するよ!」



子供達の避難を手伝っていたラファエルも参戦してくれる。



【エンチャントセイントオール】



全員に光属性を与える攻撃付与魔法。ヘルハウンドが闇属性であるため、効果はかなり大きい。



ラファエルはあくまでヒーラーだ。ミカエルのような異常な火力を持っているわけではない。後衛のバックアップを任せよう。



俺は囮として逃げ回りながら、できる時に攻撃を行う。あとはバクバクが『五月雨突き』を行った後の『リバース』をかけ続ける。



このペースなら行ける。俺が奴の攻撃を回避し続ければ長期戦にはなるが勝てる。しかし、俺は楽観視していない。ヘルハウンドの本領はこの後だ。



あの研究施設でのことを思い出す。あの状態のヘルハウンドには俺でも瞬殺される。



そして、その時は訪れた。かなりダメージを蓄積した頃、ヘルハウンドから黒い瘴気が溢れ出した。



ヘルハウンドの奥の手、7つの大罪系状態異常、憤怒だ。全身を黒い瘴気で覆いながら、怒り狂ったように目を血走らせ、よだれを垂らし、獰猛なうめき声を上げている。



憤怒状態になると、攻撃力と素早さが異常に上がる。更に黒い瘴気による遠距離攻撃も可能だ。素早さが違い過ぎて回避が間に合わない。あの巨体で俺が反応もできない速度で攻撃してくる。流石にこの状態のヘルハウンドに俺は勝てない。



「悪いな、もう対策済みだ」



もちろんゲームのシナリオを知っている俺はヘルハウンドとの戦闘になる可能性をすでに見込んでいた。簡単な解決策を用意してある。



俺が合図を出すとポチが飛び込んでくる。少し遅れてドラクロワも登場する。



ヘルハウンドを覆っていた黒い瘴気が一気に消えていく。ヘルハウンドは自身の状態が理解できず混乱しているようだ。



単純な解決策。それはダルマだ。ダルマの範囲であれば状態異常さえ無効化できる。



そこら中から青い粒子が空中へと広がっていく。アザール教徒達だ。彼らが復活をする『アザールの祝福』のスキル効果でさえ、ダルマは打ち消してくれる。スキル効果によって生かされている教徒達はHPが0になり、消えていく。



まだマルドゥークはダルマの効果範囲に入っていないので消えていないが、いつでも倒すことは可能だ。



俺たちも『龍脈』の効果や効果時間無限化のあらゆるバフもダルマの範囲では無効化される。それでもヘルハウンドに憤怒を使われるよりも何倍もマシだ。



「さあ、続けようか」



俺は正宗と妖刀村正を構えてヘルハウンドに向かって走り出す。この戦闘は俺達の勝ちだ。

















その時、俺は自分の見ている光景に違和感を覚えた。



何かがおかしい。今見えている光景は何かが変だ。



視界の端に何か()()()()が映った。見落としそうになったが、この状況ではありえないものがそこにある。



それが何を意味するのか、理解するのに数秒を要した。そして理解した途端、血の気がひいた。



やられた。まさかそんなことが。



「ポチ!」



俺は足を止め、大声を上げた。




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