表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
291/371

友愛と崇拝



俺達はアルペン村から十分に距離を取った森の中に着陸した。



雪が降っていて息が白くなる。シーナポートとはまるで違う環境だ。俺達はビーチバレーで手に入れたシード詰め合わせと効果時間無限化のおかげで寒さにも十分な耐性がある。



全員が飛空艇を降りる。ポチは一番後方で荷物持ちとなった。ダルマを運んでもらうため、ポチの周囲にいると俺達は一気に弱体化する。ポチは素のステータスが高いから、その役を担ってもらった。



ひとりはさみしいと、最後まで文句を言っていたので、話相手としてドラクロワを横に付けたら今度はドラクロワから文句を言われた。



俺はこれから向かうアルペン村のことをゲーム知識から思い返した。



アルペン村はコーネロが生まれ育った村だ。彼は自分の故郷をアザール教徒に襲わせた。ゼーラ復活のために多くの魂が必要だった。それとアルペン村の登山道の入口を塞ぐことで信者の外からの侵入ができないようにした。



コーネロは今回のゼーラ復活に向けてかなりの無理をしている。世界各地の信者の一部、権力者達の中で反感を持つ者も多い。ゼーラ教にも様々な派閥があり、一枚岩ではない。もしゼーラ教の護衛だけなら、同じ信者の入山を断ることは不信感につながる。



だから、コーネロは作戦中、ゼーラ教の信者ですらゼーラ教会に入れないように籠城するため、アザール教に入口であるアルペン村を占拠させた。



敵という設定であるアザール教であれば、他の信者が来ることもできず、またゼーラ教会側から情報を外部に持ち出すことも阻止できる。



これがコーネロの妙策、ゼーラ復活祭への最初の一歩だった。



自らの故郷を襲わせるなど人のやることとは思えないが、コーネロは自らの信念のためにどれだけの犠牲でも許容できる。ある意味、狂人だろう。



だから、今アルペン村にはマルドゥーク達がいる。あいつらは倒しても無限に生き返るため、相手にするだけ無駄だ。特にまたあのアザール教の神獣、ヘルハウンドが現れたら厄介だ。無用なリスクは侵さずに隠密行動を取るべきだろう。



レオンとニキータの2人は俺達とは別行動となる。彼らは万が一アザール教に見つかったときの保険だ。寒さに対する耐性もないので、一緒にゼーラ神山を登ることはできない。そのままアルペン村周辺に待機してもらうつもりだ。



俺達は打ち合わせの通り、班を分けてアルペン村へと近づく。先行するのは俺とハル、リンだ。3人とも不測の事態が発生したときに、英雄としての行動が取れる。それに回避力や機動力の面で先遣隊として活躍できる。



それに続いて、ユキ、ギルバート、フレイヤの遠距離攻撃隊だ。もし戦闘になったら後ろからの援護が可能となる。俺達が先の安全を確認して、後衛メンバーはその後に続くという流れだ。ラインハルトもこのグループで行動してもらう。



ドラクロワとポチは一緒にダルマを持って最後尾に続く。ダルマの範囲でも素のステータスが高く、いざとなれば退路確保の役割もある。ドラクロワはひどく不服そうだったが、無理矢理納得させた。



「先輩止まってください……2時の方向、300メートルに敵影2人です」



ハルは隠密スキルや索敵スキルを豊富に持っている。先輩を影から見守るために身に着けました、とストーカ発言をしていて、ちょっと恐怖を感じた。



アザール教の見張りはアルペン村を取り囲むように配置されている。どこかに穴を開けないといけない。



アザールの見張りは『アザールの祝福』というスキルにより、一定時間経ったら復活する。つまり見張りを倒して、そいつらが復活する前に俺達は登山道へと行く必要がある。復活してしまえば、マルドゥークに侵入者の報告をされてしまうからだ。



「ハル、やれそうか?」



「可能です、少し待っていてください」



ハルがスキル『隠形』を使用する。闇に溶け込み姿がおぼろげになる。そのまま、音もなく移動を始める。



無音の中、俺達は待った。しばらくして、木の上から音もなくハルが降りてきた。



「見張りの2名を排除しました」



俺達のパーティには隠密行動ができるキャラがいない。こういった作戦時にはハルがとても心強い。



ハルは300レベルオーバーで俺とは異なるバグなどを利用して強さを手に入れている。彼が嘘をついていなければ、『龍脈』によるドーピングをしている分、俺達の方がステータスは高いだろう。もちろん彼の自己申告を全て鵜呑みにするほど、気を許しているつもりはない。



俺は後衛部隊に移動の合図を送り、ハルが確保したルートを進む。途中でハルが倒した2名のアザール教徒がいた。相変わらず黒いローブと不気味な白面を付けている。



その後も順調に進み、俺達はアルペン村までたどり着いた。町はずれの小屋の後ろに全員が揃う。



登山道の入口は村の奥にある。ここからはアザール教徒が大勢いるので、難度は跳ね上がる。



「……ん、何か声がするな」



ギルバートが反応する。耳をすますと、遠くで少女のような声が聞こえる。何を言っているかまでは聞き取れない。



「アザール教が子供を捕らえているのでしょう、彼らの教典では異教徒でも子供は洗脳して奴隷にすることが推奨されています」



ハルがゲーム知識から予想する。ギルバートは辛そうに目を閉じた。ああ、仲間だから伝わっているよ。



ギルバートは助けたいのだろう。隠密行動をする俺達にはその選択はない。その道を選んでしまえば、俺達全員の命が危険にさらされ、世界が滅ぶことになる。



だから、ギルバートは目を閉じた。彼はどこまでも優しい。それを甘さと呼ぶこともできるが、ギルバートはいつまでも甘い男で良いと思う。それが彼の長所だ。



「行こう」



俺達は行動を再開する。建物から建物へと移動し、どうしても排除が必要な敵はハルが音もなく排除する。



順調過ぎる。だからこそ不安になる。このままネロが何もしないことなどありえるだろうか。



もし俺がネロの立場ならどのような手を取るかを考える。



ネロならば、間違いなくこのアルペン村を見張るはずだ。水晶などで監視しているだろう。俺達がどう戦うかに興味があるからだ。



いくら雑魚を差し向けた所で俺達の実力は測れない。だから、この村の最高戦力を俺達にぶつけようとするはず。つまり、マルドゥークとヘルハウンドを俺達と戦わせようとする。



俺達が無用な戦闘を避けて隠密行動を取ることも分かりきっているはず。それにしては警備が緩い。そのおかげで俺達は順調に進んでいる。



何か罠があるのだろうか。目的地となる登山道を完璧に塞いでいる可能性もある。あの場所は絶対に通らないといけない。そこまで俺達を誘い込むためにあえて警備を甘くしているのか。



俺は様々な憶測を巡らしながら、先へと進む。俺の不安をよそに何も問題は起こらない。



もしかしたら考えすぎなのかもしれない。そもそもネロがゼーラに加担していること自体、確信もない。



俺の頭にそんな考えが過った瞬間、異変は起こった。











ーーーーーネローーーーーー



レン君が移動手段として飛空艇を持っていることはグランダル城下町で確認している。彼は極力戦闘を避けようとするだろうから、郊外の森などに着陸させる可能性が高い。



僕はあらかじめ、飛空艇が停めやすいポイントを複数予測して、水晶による監視を行っていた。同時にこのゼーラ教会には敵襲に備えるための空域監視魔法装置がある。ゼーラ教会全体を覆う結界があり、その周辺の空を広範囲で監視している。



だからこそ、飛空艇などでいきなり教会へと来ることはできない。信者以外は険しいゼーラ神山を登頂しなければならない。



この装置は敵襲を防ぐために、コーネロが信者の力を利用して作り上げたものだ。これにより、僕は飛空艇の存在を感知することができた。そろそろ来るだろうと思って、ずっと見張っていた。



ゼーラが復活して神雷が降り注ぐにようになった。レン君はなぜかこの世界のことを熟知している節がある。彼ならこの状況を止めるためにゼーラ教会に乗り組んでくると予想していた。



僕はこの状況を作るためにコーネロに手を貸した。古代の文献からかつて天界を追放された神族、その存在は知っていた。ゼーラ教会の動きを見れば、彼がその神族を復活させようとしているのは明白だった。



コーネロは可哀想な人だと思う。過去に何か辛いことがあって、平和な世界を求めるためにゼーラを復活させた。そのゼーラはこの世界を破滅に導く。過去の文献を読み解けば容易に想像できるリスクだ。



僕が数日で理解できたことを、彼は見落としている。本当にこれで世界が平和になると信じているのだから呑気なものだ。ゼーラが完全に覚醒すれば、あの男は絶望するだろう。そして、自身が生み出した存在により殺される。



もちろん僕もゼーラに殺されるだろう。しかし、そうはならない。僕は友達を信じているから。我ながら屈折した感情だね。レン君に倒してほしくて、ゼーラを復活させたんだから。



もしレン君がゼーラに負ければ、僕の計算間違いだったということだけ。そのときは世界と一緒に滅びよう。



レン君がゼーラを倒すことができたら、更に次の手へと移行する予定だ。ゼーラは途中経過に過ぎない。あの男と出会えたのは、本当に偶然だった。僕は運が良かった。



僕は手に持った水晶でコーネロに合図を出した。コーネロは自分が主体となってこの作戦を動かしていると錯覚している。残念ながら、すでにゼーラ教は僕の手中にある。コーネロは無意識だろうが、僕に全てを誘導されている。彼はわかりやすい人間だ。操るのは容易かった。



間もなくコーネロからマルドゥークに合図が送られるだろう。まずは小手調べと行こうか。



ゼーラは神などと呼ばれている。ゼーラに仕える神族も神と呼ばれる部類だろう。しかし、彼らと話をしてみて僕はがっかりした。



彼らは神と呼ばれているが、ただの一つの生命に過ぎない。自我を持ち、その自我は常に利己のために動く。人間となんら変わりのない生物。ただ強い力を持っているだけ。



僕はそんな見た目だけの神より、レン君の方がよっぽど神に近いと思う。この気持ちは友愛であり、崇拝なのかもしれない。



彼はきっとまた、この僕でも想像すらできない奇跡を起こしてくれる。ああ、楽しみだよ。僕はその光景が堪らなく見たいんだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ