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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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差異



ギルバートに操縦を任せて、飛空艇のデッキにハルと一緒に移動する。ゲームの話にもつながるため2人だけで会話したかった。



「作戦は決まっているんですか?」



「いや、まだだ、これから考える」



「あのゼーラの結界を何とかしないとですよね……ダルマを使う形ですか?」



ハルはこちらの情報をかなり持っている。俺をストーキングしていたのだから、ダルマの存在も知っているのだろう。俺にもそのアイデアはあった。



「ああ、結界に関してはダルマでクリアできるが、問題はゼーラ本体のステータスだな」



「ええ、ゲームでは結界を突破することができなかったので、本体にダメージを与えたことがありません、完全な未知数ですね」



結界を突破しても、それでゼーラを倒せる保証がない。防御力も分からなければ、最大HPも不明だ。そもそもジェノサイドのようにダメージすら与えられない可能性もある。



「それとダルマで無効化してゼーラを倒せたとして、ヒースクリフを助けることはできない」



「恐らくゼーラを倒せばヒースクリフも一緒に死ぬでしょうね、でもそれはある程度目をつむるべきでしょう、復活祭を阻止できなかった以上、ヒースクリフは諦めるべきです」



ハルは冷静にそう言った。きっとハルの考えが正しい。それがゲームのプレイヤーの思考だ。



現実からゲームの世界に来たという同じ立場であるからこそ、その僅かな差異が気になる。ハルは続ける。



「ゼーラは世界を滅ぼします、もしヒースクリフを救おうとして、ゼーラ討伐に失敗すれば結局全員死ぬことになりますからね」



その差異はNPCに対しての思いだ。俺はもうこの世界のNPCを人間だと思っている。ヒースクリフの安全を願うマリリンやジェラルド達の気持ちが分かる。ハルはまだNPCをNPCと認識している。ただのゲームキャラとしか思っていない。



それを責めるのはお門違いだろう。きっと俺の考えが少数派で、ハルの価値観が正常だ。



世界が滅ぶなら1人の犠牲は仕方がないか。それは俺の理論じゃない。コーネロと同じ理論だ。俺は全てを救いたい。あえてここで反論する気もないが。



「ゼーラの討伐方法はじっくりこの後考えるよ」



「それにしてもどうしてこんなイレギュラーが起きたんですかね? この世界に来て、確かにゲームとは違うイレギュラーはいくつもありました、でもさすがに今回のイベントの進行は早すぎますよ、何者かが干渉しているとしか思えないですね……俺と先輩以外に現実世界から人間がいるのでしょうか」



「その可能性はあるが、世界が滅ぶと知っていてこのイベントを発生させるか?」



「普通なら自分の命も危険にさらされるのでしないでしょうね」



「これは1つの仮説だが……」



俺にはずっと考えていた仮説がある。証拠も何もない。ただ直感がそうだと告げている。コーネロの計画を何倍にも早く完遂できる頭脳を持ち、ゼーラを復活させようと動く動機がある人物に1人だけ心当たりがある。



「ネロが今回の件に関与している可能性がある」



「ネロですか? ゲームでは『アナライズ』と『スキルコピー』は有用だったけどあんまり使い勝手がよくなかったキャラの印象しかありませんでした、先輩がグランダルで戦っていたのを見てびっくりしましたよ、あんなに強かったなんて」



俺はネロがどうしてそれだけの強さを手に入れたのか、どういう考えで動いているのかをハルに説明した。もし今回ネロが絡んでいるなら知らせておくべきだと判断した。



「天才なんてゲームの設定だったはずですが、現実になるとここまで厄介なんですね」



「ああ、ネロがゼーラ教会に加担している可能性は十分にある、警戒はしておくべきだな」



「もし倒せそうなら、ここで倒しておいた方が良いですね」



もしネロがいるならば、彼は世界を滅ぼすほどの脅威となってしまった。もうネロを擁護するつもりもない。彼は倒すべき敵だ。



ただ、俺は心のどこかでネロを憎み切れていない。これは甘さなのだろう。



この甘さは危険なものだと自覚している。ハルのように、無味乾燥に、ネロをただのNPCに過ぎないと割り切るのが正解だろう。



俺はいつか必ず立ちはだかるネロとの戦いを見据えて対策をしている。



ネロが恐ろしいのはレベル上限がないからだ。本来なら300レベルオーバーになれば、経験値補正がかかりそれ以上の成長しなくなる。



それを『捕食』のスキルで補正なしで経験値を手に入れることができる。更に『捕食』したスキルを手に入れることができる。



一方で経験値補正がなかったとしても、レベル上げをするには相応の時間が必要だ。レベルが上がる度に必要経験値は増えていくし、『捕食』は対象のHPを50%以下に減らさないと成功しないので時間もかかる。



俺たちは『龍脈』のステータスドレインと効果時間無限化で350レベル相当のステータスを持っている。俺の読みではネロと同程度のステータスを手に入れられたと思う。



もちろんダルマの範囲に入ってしまえば、その恩恵がなくなってしまう。ダルマは効果範囲内で特殊効果を打ち消すだけなので、ダルマから離れればまた強化されたステータスで戦える。ダルマの扱いは慎重にすべきだ。



ネロ以外のメンバーはもう俺たちの敵じゃない。ネロがパワーレベリングしたとしても、300レベルは超えられない。メリーとぺぺなら問題なく対処できる。



その後、ゼーラ神山や教会の内部のギミック、モンスターのことなど細かい部分を擦り合わせた。お互いに忘れている部分もあり、だいぶ情報をまとめられた。



「神の使徒との戦闘も考えておかないとな」



「嫌な思い出が蘇りますよ、周りの雑魚がとんでもなく強化されて何回殺されたか」



「上手く誘導して単独撃破しないといけないよな」



神の使徒は本来ゼーラ復活阻止のために戦うボスだが、今はゼーラの護衛のような形になっているだろう。



できれば神の使徒に気付かれず、不意打ちのような形でゼーラを倒したい。



神の使徒はスキルも厄介だが単純に強い。300レベルオーバーのパーティでも普通は勝てない。



レベルマックスで勝てないとか今思うと意味不明だが、LOLでは標準難度だ。



「アルペン村では戦闘回避する方針ですよね?」



「ああ、あいつらに構っている暇はないからな、こっそりと隠密行動で村を抜けて登山道へ行こう」



登山道に行くためにはアルペン村の中を通らなくてはならない。信者であれば登山道からギミックで一気に教会までショートカットできるが、俺たちは自力で登るしかない。



今アルペン村は占拠されている。無駄な戦闘は極力避けたい。コーネロがゼーラ復活祭まで、余計な邪魔が入らないように登山道を塞いだ。



「わん! レン! ハル! ドラクロワがお腹すいたって!」



急にポチが乱入してきた。後からドラクロワが追いかけるように入ってくる。



「おい! ポチ、腹が減ったって言ったのはお前だろ!」



「わん! ドラクロワも賛成した!」



「じゃあ、食事にしようか」



俺とハルは話を切り上げて、皆のいるロビーへと移動した。



まだ考えることは多くあるが、この先にはまた不可能だらけの茨の道が続いている。それを渡り切るためには休息も必要だ。




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