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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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合流



ーーーーーーーーーーー



一通りの説明が終わると、マリリンが不安げな声を出した。



「レンちゃん……ヒースちゃんがゼーラ教会にいるの、無事かしら?」



ヒースクリフはゼーラ教会の騎士をしている。心配するのは当然だろう。その質問が来ることは予想していたが、できれば聞かれたくなかった。



「わかりません……」



マリリンを安心させるために、大丈夫だと嘘をつくこともできた。だが、俺にはこれが精一杯だった。俺はゲームでヒースクリフがどうなるのかを知っている。



ゼーラの復活祭。それは封印されたゼーラの魂を解放するイベント。そのためには魂を入れるための器が必要になるという設定がある。



復活祭イベントを阻止できなければ、ヒースクリフはその器として利用されるシナリオだ。普通の人間ならゼーラの負荷が強すぎて器として耐えられない。コーネロには常人よりも遥かに耐久力のある器が必要だった。



そこで白羽の矢が立ったのがヒースクリフだった。ヒースクリフは超耐久キャラだ。物理、魔法ともに防御力が極めて高く、最大HPも高い。耐久用のスキルも所持している。その屈強な身体を器にするために、コーネロはヒースクリフをゼーラ騎士団に言葉巧みに引き入れた。



本当に胸糞悪い奴だが、コーネロの行動は一貫している。あいつにとってはヒースクリフの命などただの1の数字でしかない。ゼーラが復活すれば更に多くの命を救うことができると信じている。大事の前の小事程度にしか考えていないだろう。



ゲームでのゼーラの姿はヒースクリフと同じだ。ヒースクリフが白い衣をまとい、金色の筋が身体に走っている。覚醒前は常に目を閉じている。



ゲームで覚醒前のゼーラと戦うことができる。これは負け確定イベントだ。ゼーラが復活した後の絶望感をプレイヤーに与えるためだけのイベント。



復活祭が成功してゼーラが復活してもゲームオーバーになるまで5日間の猶予がある。その間はランダムに神雷が降り続き、その頻度は徐々に多くなっていく。



初めてこの状態になったプレイヤーはゲームのシナリオかと思い、復活したゼーラを討伐しようとする。そこで絶望に突き落とすのがスタッフの思惑だ。



ゼーラは常に半径1mほどの結界に守られている。物理も魔法も完全に遮断される結界だ。そのため、どんな攻撃を与えようと本体まで攻撃が届かない。精霊魔法でさえ遮断してくる。



俺達英雄は必死で結界を突破する方法を探した。ドッペルスイッチでの壁抜けなどもしてみたが、分身を結界の内部に作り出すことができなかった。ゼーラが完全に覚醒した瞬間、神の使徒がお祝いの捧げ物を手渡す瞬間がある。そのタイミングだけ結界が発動していないと思い狙ってみたが結界は健在だった。神の使徒だけ結界をすり抜けているというご都合設定だ。



そして、手から小さい神雷を放ってくる。神雷の威力は異常で、どれだけ防御を固めても、一撃死する。ダメージを一切与えられず、すべての攻撃が一撃死。もはや典型的な負けイベントだ。



そして、5日が過ぎ、覚醒したゼーラは世界中に神雷の豪雨を降らせる。その光に包まれて自動的にゲームオーバーとなる。



ヒースクリフのことをジェラルド一家に伝えることはできない。俺にはわからないと答えるのが精一杯だった。



「俺達はもう1人の仲間を待って、ゼーラに向かいます、ヒースクリフのことも俺が見てきます」



俺は意志を伝える。この世界を神雷から救うには俺がゼーラを倒すしかない。



「マリリンも行くよ! ヒースちゃんを助けないと!」



それは駄目だ。ヒースクリフは既にゼーラとなっている。最悪の事態が考えられるし、正直マリリンでは戦力不足だ。彼女自身に危険が及ぶ。



「母さんは……母上はここにいてください、私が兄上を助け出します」



ラインハルトがそう言ってマリリンを引き止める。ラインハルト自身、マリリンを危険な目に合わせたくないのだろう。仲は良くないのかもしれないが、単純にヒースクリフのことが心配なのかもしれない。



「マリリン、ここはラインハルトに任せよう、私達はこの街やグランダル王国ですべきことがある」



ジェラルドがラインハルトに便乗する。マリリンのことを思っての発言だと思うが、暗に俺の気持ちを汲み取ってくれたように思える。



「わかった……レンちゃん、ラインちゃんを連れていってもらえる?」



「ええ、わかりました」



ラインハルトも正直戦力にはならない。しかし、ここで断ってしまえばマリリンがついてくると言うだろう。ラインハルトであれば、ヒースクリフの状態を伝えても耐えられるかもしれない。



ずっと黙っていたレオンが前に進み出た。



「レンさんが良ければ俺とニキータも手伝わせてもらえないか? 力になれると思う」



俺は逡巡する。確かに戦力として、300レベルオーバーのキャラクター以上の力はある。甘いかもしれないが最近の様子を見ていると、裏切る可能性は少なく思える。なんかレオンは俺をかなり怖がっているように見える。



「わかった、じゃあ手伝ってくれ」



「ありがとう、全力を尽くそう」



これでゼーラに行くメンバーは決まった。俺達のパーティにハル、ラインハルト、レオン、ニキータだ。



「レン君、ヒースクリフのことと、この世界のことをよろしく頼む、きっと君にしかできないことだ」



ジェラルドは俺に頭を下げる。そこには見栄も何もない。やはりジェラルドさんはこういう所があるから、今の地位があるのだろう。どんな相手だろうと、頼み事があるときは頭を下げることができる。



こんなときに恐縮するのは相応しくない。俺の返答は決まっている。



「はい、任せてください」



それから俺達はハルが到着するまで、準備を整えることにした。まだ覚醒まで5日ある。焦って失敗するわけにはいかない。



3時間ほどが経ち、俺達が準備を整えた頃、ハルが到着した。



「せんぱーい! 到着しましたよ!」



やたら元気よく俺に駆け寄ってくる。他のメンバーに何と紹介しようかずっと悩んでいた。すると、フレイヤが第一声を上げた。



「ハル! なんでお前がここにいるんだ?」



「フレイヤじゃないか、いや、レン先輩の手伝いをしようと思ってね」



「レンといつの間に仲良くなったんだ?」



「この前ちょっと話をする機会があってね、仲良くなったんだ」



フレイヤのおかげでするっとハルが受け入れられてる気がする。



「おいおい、こいつ使い物になるのか? 足手まといはいらねえぞ」



ドラクロワが絡み出す。ドラクロワは基本的に人を嫌いから入る傾向がある。



「大丈夫ですよ、ドラクロワ先輩!」



「せ、先輩だと……」



ドラクロワが満更でもなさそうな顔をする。



「ドラクロワ先輩は竜人ですよね! 竜人ってすごい種族ですよね、人間とはそもそも身体能力が違いますし、さすがの俺もドラクロワ先輩には敵わないです、だから、ドラクロワ先輩から多くのことを学んでもっと強くなりたいです」



「お、おう! わかってるじゃねえか」



普段、不憫な扱いを受けているドラクロワだからか、ハルに乗せられて顔が緩みっぱなしだった。ハルはやはりコミュニケーション能力が極めて高い。同じ学校にいたら俺では絶対友達になれないタイプだ。



「レン、この人は誰?」



リンが冷静に訪ねてくる。彼女にはドラクロワのような単純な迎合は効かない。



「この前ガルデニアで会ったハルだ、まあいろいろ訳あって、今回同行してもらうことになった」



リンの感覚は鋭い。彼女は俺が伝えたくなくて誤魔化している所を気づいた上でスルーしてくれる。



ハルは丁寧な仕草で全体に向けてお辞儀をした。



「ハルです、精一杯がんばりますのでよろしくお願いします」



気取らずに素直に頭を下げたことで、ギルバートやリン、ユキなどの常識人メンバーも好感を持ったようだ。



「あと、これ、来るときに買った、ポチさんへのお土産です」



ハルは大きなジャーキーを取り出した。ポチがよだれを垂らしながら高速でハルの前でお座りした。



「わん! はあはあ!」



ハル相手にお手とかしている。完全にポチまでも手なづけてしまった。



「早速だがゼーラに向かおう、詳しい話は移動しながらでいい」



「はい! よろしくお願いしますね、先輩」



俺はハルを全面的に信頼しているわけではない。これだけコミュニケーション能力が高いと、つい気を許してしまいそうになるが、俺は逆に警戒心を抱いてしまう。



ただ戦闘能力の面やゲーム知識の面においてハルも英雄の1人だ。戦力としては申し分ないだろう。ゼーラ復活という世界の危機だ。ここは手伝ってもらうことが得策だと判断した。



俺達は飛空的まで移動した。ハルも一緒に搭乗し、連れている飛竜は飛空艇と並走することになった。



向かうはゼーラ神山だ。残念ながらゼーラ神山の頂上には飛空艇で行くことができない。厚い雲に覆われており、吹雪が酷く視界が得られないからだ。これも楽してゼーラ教会に行かせないための、ゲーム的な設定だった。



まずは麓の集落。アルペン村へと向かう。




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