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無理ゲーの世界へ 〜不可能を超える英雄譚〜  作者: 夏樹
第5章 英雄の意志
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優しい世界



ーーーー大神官ーーーーー



人間は実に愚かな生き物だ。常に人よりも自分が優先されていなければ気が済まない。自らの欲望のために、他者を傷付ける。



もちろんそうではない人間もいるだろう。しかし、一定数そういった人間がいることで世界から争いは消えない。



全員が他者への思いやりを持つことなど、実現不可能な理想論だ。私は夢想家ではない。盲目的に夢を追いかけることなどしない。



もっと現実に即した選択肢があるはずだ。私は探し続けた。この世から争いを根絶する現実的な方法を。



そして、私がたどり着いた結論が神の復活だった。絶対的な力を持つ存在がいれば、世界から争いは消える。最大の戦力は最大の抑止力になる。反抗すれば罰せられる。そんな当たり前の秩序をこの世界全てに広げればよい。



愚かな人間は必ず自分の保身を考える。もし人と争えば、神罰が下る。そう考えれば、誰もが逆らえなくなる。



それこそが彼女が望んだ優しい世界。私の悲願。



ゼーラを生み出したことで、私は昔のことを思い出した。今まで忘れていたが、私はどこかであの人との会話に影響されていたのかもしれない。



まだ子供の頃、私は魔王に会った。今は魔王の座を退いていると風の噂で聞いた。あの人は幼い私の命を守ってくれた。両親を殺した野盗を無慈悲に殺した。



世間では魔王は恐ろしい存在として語られていたが、私は人間の方が何倍も恐ろしいことを知った。野盗達は自分の利益のために平気な顔で両親を殺した。私の家は裕福だった。野盗はぎらついた目で奪った戦利品を見て、下品な笑い声を上げていた。



その野盗を突如現れた魔王が一掃した。夢でも見ているかのようだった。軽く手を振るうだけで野盗達は吹き飛び、青い粒子に変わった。



魔王は私を近くの街まで送ってくれた。道中、彼は夢を語ってくれた。世界平和を望んでいると。人間よりも魔王の方が優しい世界を望んでいることが不思議だった。



あの夜の野盗の最期が目に焼き付いて離れない。その時に私は知ったのだろう。圧倒的な力があれば望みが叶うと。あの魔王との出会いが私の構想の源泉だったのかもしれない。



あの人は今の私を見て、どう思うだろうか。年をとり、あの頃の面影はないかもしれない。それでも私はあの人の望んだ世界平和を実現した。



ゼーラはまもなく完全な覚醒をするだろう。今は神雷が無作為に落ちているだけだが、覚醒すれば神雷を世界のどこにでも自由に落とすことができるようになる。神雷こそがまさに神の裁きとなる。



戦争を起こそうと動けば神雷を落とそう。白と世界中のゼーラ信者を使って、情報を集めよう。そして、規律を乱そうとする盗賊や犯罪集団には神の鉄槌を下そう。



それを続けていけば、誰もが神を畏れ、悪行へと走ることがなくなる。ゼーラという圧倒的な力の前で、人は真の平和を手に入れることができる。



神雷に頼るのは最初だけだ。もちろんはじめは多くの命が失われるだろう。だが、神雷の恐ろしさが浸透した後の世界でより多くの命を救うことになる。力は発揮しなくても保持しているだけで抑止力となる。



これこそが私が導き出した結論。誰も争わない優しい世界だ。












ーーーーーーー巻き込まれ体質の男ーーーーーーーー



はあ。本当に勘弁してほしい。



俺の名前はカマセーヌ。人類最強の200レベルに到達している人殺しが趣味の冒険者だ。俺はただ楽して、酒を飲んで、趣味の人殺しでもしながら生きていたかった。



それなのに俺は今、ゼーラ神山の頂上にいる。ここは嫌いだ。なんか格式ばっていて全くリラックスができない。どこで道を間違えてしまったのだろうか。



俺は人間では未踏の200レベルに到達していた最強の男だと思っていた。だけど、俺の近くには本物の怪物がいる。



筆頭はネロさんだ。あの人何考えてるか分からないから怖すぎる。あんなガキンチョの見た目で、恐ろしく強いし、善悪の判断みたいなのが希薄な気がする。



優しいところもあるが、容赦ないところもあって、人柄がつかめないから余計に怖い。俺はいつも地雷を踏まないように黙っている。



このメンバーの唯一の良心はぺぺさんだな。ぺぺさんはこんな俺にも優しくしてくれる。メリーはがさつだが、よく働く。ネロさんに全く遠慮なく話している気がする。バカそうだが、指示したら何の考えもなく、ただ言われた通りに実行するからネロさんにとって使い勝手のよい駒なんだろう。



そして、もう1人。全身甲冑で顔を見たことがない騎士。クラウス。こいつのせいで俺は巻き込まれたと言っても良いだろう。



クラウスもひどく胡散臭い。寝ているときも兜を取らないし、食事のときもわざわざ俺達から離れて食べている。絶対に素顔を見せない不気味やつだ。



戦闘もあんまり率先して戦わない。どうしてネロさんがこいつを連れているのか、俺にはさっぱり分からない。俺から見ればいつも怠けているように見える。



ただ一度だけ剣を抜いたことがある。あれはゼーラ神山を登っている途中でメリーが危うく殺されそうになったときだ。その、一瞬で俺はその強さを理解した。



俺だって冒険者としてはかなりの腕を持つ剣士だ。そんな俺に鳥肌が立った。たった一撃、鞘から抜刀した瞬間、相手が青い粒子となった。俺の目で辛うじて捉えられるレベル。俺はすぐに逆らっちゃいけないリストに、クラウスの名を刻んだ。



「おい、カマセーヌ……」



そして、最後の1人が生意気なこのガキだ。こいつ一国の王子だったが、今では逃亡中の罪人。戦闘の役にも立たない。そのくせ、俺のことを呼び捨てで偉そうな態度を取る。他の奴らと明らかに態度が違う。



「なんだ? くそがき」



「口を慎め、くそがきじゃない、ロンベルだ」



「はいはい、くそがきのロンベル坊や」



俺はいつもこのロンベルのおもりをさせられてうんざりしている。いつかその首を切ってやろうと思っている。今のところ、ネロさんが怖いから実行できない。



「僕と手を組まないか?」



「は? 手を組むってなんだよ」



ロンベルは辺りを見回して、小声で言った。



「ネロから逃げ出す」



「は? お前正気か!?」



こいつ頭がおかしくなったのだろうか。そんな恐ろしいこと実行できるわけがない。



「いいか、僕には頭脳があるが戦闘能力がない、お前には頭脳がないがそこそこの剣の腕がある、協力すれば逃げ出せる」



「俺にも頭脳があるだろ!」



「変なところで突っかるな、この話に乗らないと後悔するぞ、お前だってネロから逃げたいだろ?」



「ま……まあ、確かに」



「僕はあんな得体のしれないガキに捕らわれているなんてごめんだ」



いや、お前もガキだろ。



俺は若干迷ったが、どう考えてもリスクが高い。俺は命を大事にしている。自分の命だけだが。



「逃げるなら1人でやりな、俺は手伝わねえぞ、説得にも応じねえ、俺は一度決めたらテコでも考えを変えねえからな」



ロンベルは俺を見て、ため息をついた。



「仕方がないか……手伝ってくれるなら報酬を払おう」



報酬という言葉が俺の琴線に触れる。



「お前、そんなに金を持ってないだろ?」



「これでも一国の王子だぞ、こっそりと自由に使える裏金くらい用意している」



俺はつばを飲み込む。



「……いくらぐらいあるんだ?」



ロンベルが俺に耳打ちしてくる。それは一生遊んで暮らしてもお釣りがくる額だった。



「どうだ? 話に乗るか?」



俺の答えは決まっている。



「もちろんだぜ! ロンベル様! 一緒にこの地獄から抜け出そう!」



命がいくつあっても足りないこんな所を逃げ出して大金を手に入れ、俺は自由になる。





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